前回は、主に共同直売所を運営する店長やスタッフへの応援の気持ちも込めて、「直売所の収益をアップさせよう」と訴えました。
共同の直売所は、建てるということが目的化し、開業後の戦略が練られていないことも多いです(もちろん素晴らしい直売所もたくさんあります)。
とはいえ、過ぎ去ったことをとやかく言っても仕方ないです。開業したからには、どんどん収益を向上させて、地域農業に貢献したいものです。地域農業と市民の結節点である直売所の集客は、街づくりの観点からも重要ですから。
現場の店長やスタッフ、すなわち直売所プロフェッショナルの手で、より地域農業に貢献する、儲かる直売所を作り上げていきましょう。
収益性は、まずコストの見直しから(定石その1)
ということで、運営関係者や店長がお店の収益を上げたい!と考えたとき、何から手をつければいいでしょうか。
これまでこの連載では、直売所の【売り上げ】を向上させる方策をたくさん書いてきました。
しかしながら、収益は、【売り上げ】マイナス【コスト】の結果です。つまり、収益アップ術には、売り上げ向上施策とコスト抑制施策の2種類があるわけです。
そして、どちらかを優先するなら【コスト】の方をまず見直してみるべきです。
なぜなら、コスト抑制施策は、「すぐに効いて」「確実で」「長く持続し」「追加コストがかからない」ことが多いからです。
たとえば、「電気料金の契約の見直し」というコスト抑制施策では、以下のように考えられます。
・即効性:翌月から効果があります
・確実性:ほぼ確実に電気料金が下がります
・持続性:半永久的にコストの抑制効果があります
・追加コスト:契約の見直しにお金は基本かかりません
とくに共同直売所の運営には多くの利害関係者がいることが多いので、追加コストがかからないことは大事かもしれません。追加コストがかかることについて、関係者を説得するのは骨が折れます。
逆に、「新聞折り込みを入れる」という売り上げ向上施策は、即効性はあるかもしれませんが、チラシの内容やタイミングによっては集客できるとは限りませんし、効果の持続性はありません。コストもかかります。
ということで、直売所の収益アップの定石その1はこちらです。
【定石その1】コストの見直しから手をつけよう!
歩く距離は客単価に比例する(定石その2)
小売業でよく知られた定理として、お客様が入店してから歩く距離とそのお客様の購入金額は、おおむねね比例するというものがあります。
直売所でもこれを活用すべきです。
歩く距離と言うと難しい感じもしますが、とりあえず2つのことを検討しましょう。
- 売り場面積を増やす
- 入り口から遠い奥の売り場を目立たせる
店舗の面積なんて決まっているのだから増やせない、という声もありそうです。しかし、増やすのは「売り場」の面積です。商品が置いてあるところが売り場だと定義すれば、きっとお店のなかには商品を置いていないスペースがあるではないでしょうか?
意外と削れるところはあるものです。
当社が運営受託している直売所「のーかる」(東京都立川市)では、事務所スペースを削って売り場にしたところ、客単価が5%ほどアップしました。
レジの場所を動かしたり、サッカー台(荷造り台)をコンパクトにしたりすれば、新しい売場が生まれることがよくあります。
2つ目の、入口から遠い奥の売り場を目立たせるという施策は、当たり前のことのように思えて、多くの直売所できちんと実践されていません。
奥に目立つものがあれば、お客様の歩く距離は伸びます。奥の方に魅力的な商品を置くというワザは定石中の定石ですが、もっと単純に奥の方の照明を明るくする、というだけでも効果があります。
そして、この収益アップ術の良い点は、効果がすぐに出るところです。なので、検討の優先順位として2番目になります。
【定石その2】歩く距離を伸ばして客単価アップ!
商品ごとに分析する(定石その3)
多くの共同直売所ではPOSレジが入っているので、どの品目がどれだけ売れたかのデータを取ることができます。
このデータをぜひ活用したいものです。
POSレジは、それがリースであれ購入資産であれ、メンテナンスも含め、少なからぬコストがかかっています。そのデータを活用しないのはもったいないことです。
しかし、むしろデータが多すぎて、「何をどのように分析すればいいの?」と戸惑う店長やスタッフも多いのではないでしょうか。
そこで、とりあえず、これだけ実施してみましょう。
【定石その3】商品ごとに、前年同月の売り上げを維持する!
商品ごとと言っても、全部見るのは手間がかかりすぎるという場合は、前年同月の上位5~10品目だけをウオッチするのだけでもいいです。
たとえば「ミカン」という商品が前年に上位の売り上げであれば、それと同じ金額だけ「ミカン」を売ることを目指します。月途中で動きが鈍かったら、対策を施して売り上げを維持するのです。
維持でいいの?と思われるかもしれませんが、前年の上位品目が前年同月の数字を維持していれば、ふつうは一年のあいだに新しい商品も入ってきているはずなので、全体では売り上げはアップするはずです。
まずはここを目指します。
この定石が機能しやすいのは、目標数値がどこから来ているか明らかで、「達成可能な気がする」からです。前の年の自分たちの実績なのですから。
たとえば「みかんを1日1万円売ろう!」と目標を決めるのは簡単です。しかし、数字の根拠がないので、正直なところ、それが達成可能なものかどうかは事前には分かりようがありません。
スタッフや関係者みんなでお店を盛り上げるためには、目標が分かりやすいことは大事です。
実際には、天候不順や競合店の出現などで、前年同月の数字を保つのも難しいこともあります。
ただ、直売所はふつう委託型なので、特段の外部要因がなくても、農家さんの都合により商品の持ち込み量が減ると売り上げが落ちてしまいます。
したがって、農家さんが商品の納品量を減らしていないかどうかをチェックする意味でも、「商品ごとに、前年同月の売り上げを維持する」分析がつねに重要になってくるのです。納品量が原因なのであれば、農家さんと話し合う必要があります。
ここまで、直売所の収益アップの定石を3つ紹介しました。
これらは小売業のノウハウとしては初歩的なものではあるのですが、実践していないお店も実際には多いのではないでしょうか。
収益アップの戦略がなかった直売所は、逆にいえば、それだけたくさんの可能性があるということです。そこはポジティブにとらえて、まず初歩的なところからひとつひとつ施策を実行し、儲かる直売所に近づけていきましょう。