狩猟における狩猟犬
狩猟犬には、盲導犬のような法令上の認定基準はありません。実際に狩猟に使われている犬、狩猟犬の競技会に出場している犬などを、狩猟者は狩猟犬(または猟犬)と呼んでいます。鋭い嗅覚や大きなほえ声など、犬ならではの能力が狩猟の現場で生かされます。
狩猟犬の役割
狩猟にはさまざまな方法がありますが、狩猟犬が必要になるのは、主に、獣猟の巻き狩り(複数人のグループでイノシシやシカなどの大物を捕る方法)や、狩猟犬を使うスタイルの鳥猟です。一人や少人数での獣猟に狩猟犬を使う人もいます。
獣猟での狩猟犬の役割には、獲物を追いかける、近距離でほえて獲物の動きを止める、などがあります。獣猟に使われる犬を「獣猟犬」と呼びます。
鳥猟では、草むらに潜んでいる鳥を見つけてハンターに知らせる、鳥を追い出して飛び立たせる、獲物の回収、などが狩猟犬の役割です。鳥猟に使われる犬を「鳥猟犬」と呼びます。
どこで買えるの?
狩猟犬専門のブリーダーから購入するか、知り合いの狩猟者から子犬を譲り受ける人が多いようです。中には、ペットショップで購入して狩猟犬に育てる人もいます。
訓練方法は?
専門の訓練所を活用したり、狩猟仲間の助けを借りたりする方法がありますが、自分でも訓練を行うのが基本です。一般的な飼い犬としてのしつけの他、呼び戻し、運搬、捜索などの訓練があります。
代表的な獣猟犬 和犬、ハウンドなど
狩猟ではさまざまな犬種が使われます。対象となる獲物、犬に求める役割によって適した犬種が異なるため、自分の狩猟スタイルに合った犬種を選びます。ここからは、代表的な狩猟犬種を紹介します。純血種の他にも、猟師が独自に掛け合わせたミックス犬なども活躍しています。
獲物がイノシシやシカの場合、主に中型の和犬(紀州犬、四国犬、甲斐犬など)や、ハウンドが使われます。和犬は、獲物と向き合っても一歩も引かない格闘型の獣猟犬で、近距離でほえて獲物の動きを止めます。ハウンドは、ほえながら獲物が疲労するまで追いかけ続ける追跡犬です。
その他の獣猟犬では、ビーグルがおもにノウサギ猟に使われるのが有名です。ビーグルはイノシシ猟やシカ猟などにも使われています。
紀州犬
日本古来の狩猟犬種としてよく知られる紀州犬。和歌山県、三重県、奈良県を含む紀伊半島の山岳地帯で古くから飼われてきました。飼い主には従順ですが、誰にでもなつくことはなく、いざというとき勇猛に獲物と向き合います。
四国犬
四国犬は、高知県の山岳地帯を中心に、かつてはクマ狩りをするマタギ犬として活躍していました。飼い主の指示に忠実ですが、飼い主とその家族以外には慣れにくく、知らない人への警戒心が強いため番犬にもなります。
甲斐犬
甲斐犬は、山梨県で狩りに使われてきた狩猟犬です。知力が高く仲間意識が強い一方、気性が荒く攻撃的な面があります。飼いやすさの難易度は、初心者向けではありません。虎のような毛並みで、虎毛犬(とらげいぬ)や虎犬という愛称でも呼ばれます。
プロット・ハウンド
ハウンドはアメリカなどで獣猟によく使われる追跡犬の総称です。代表的なのがプロット・ハウンドで、獲物を追い続ける耐久性と体力に優れています。引き締まった筋肉質な体つき、厚い胸、長い足を持つスタイリッシュな犬種です。
代表的な鳥猟犬 ポインター、セター、レトリバーなど
散弾銃による鳥猟では、飛んでいる鳥を撃ち落とします。キジやコジュケイなどは草むらに隠れていて人間では見つけづらいため、嗅覚に優れた鳥猟犬に見つけてもらいます。鳥を発見した犬は、鳥の居場所をハンターに知らせるポーズをとり、ハンターの「GO」などの合図とともに鳥を追い出して飛び立たせます。ハンターが鳥を撃ち落としたら、犬が鳥を回収・運搬します。
代表的な鳥猟犬はポインター、セターで、訓練次第では捜索から回収までを行ってくれます。その他、レトリバー、スパニエルなども鳥猟に使われます。
イングリッシュ・ポインター
ポインターの代表格といえる犬種がイングリッシュ・ポインター(または英ポインター)です。獲物の居場所をハンターに示すときに、姿態を低くして片足をあげる「ポインティング」というポーズをとります(尾をピンと上げる犬もいます)。性格は社交的で遊び好きなので、遊びながらトレーニングをするとどんどん吸収するようです。
イングリッシュ・セター
イングリッシュ・セター(または英セター)は、セターの中で最も古い歴史を持ち、鳥猟犬として人気の高い犬種です。獲物を前にすると、しゃがみこむ「セッティング」というポーズをとってハンターに知らせます(立ったまま完全に停止することで知らせる犬もいます)。性格は比較的おとなしく、子供になつきやすいのが特徴です。
ラブラドール・レトリバー
家庭犬や盲導犬としてもおなじみのラブラドール・レトリバー。回収を意味するレトリーブが名前の語源で、狩猟では回収犬として活躍します。水が大好きで泳ぎが上手なため、水面に落ちたカモなどを回収するのが得意です。優しい性格で、初心者にも飼いやすい犬種です。
狩猟犬を飼うに当たってはルールやマナーを順守し、しっかりと訓練や管理、安全対策を行わねばなりません。必要な運動量も多く、毎日の散歩などで充分に運動させないと、ストレスがたまってしまうかもしれません。多くの責任が伴いますが、人と犬が一体となって楽しむ狩猟は、感動的な素晴らしいものです。
猟犬はどこで手に入る?
狩猟仲間
猟犬を手に入れる方法として最も簡単なのは、狩猟仲間からセンスのある犬や子犬を購入することです。
狩猟仲間から購入する場合は、相手に対して公正な価格を提示し、譲ってもらえる場合は、謝礼として1〜2万円程度を渡すことが望ましいでしょう。猟犬は、高い能力を持つため、購入する際には高額な費用がかかることがあります。
犬種や実績によって価格は異なりますが、子犬の場合でも安くはありません。
一方で、育成済みで実績のある猟犬の場合は、数百万円以上の高値で交渉されることもあります。猟犬を購入する場合には、安易に手に入れることができるものではないことを留意しておきましょう。
猟犬は、飼い主との信頼関係を築くために長期的なパートナーシップが必要であり、十分な環境で育成され、適切なトレーニングが施されている必要があります。
専門業者
猟犬を所有するのに、知り合いなどのつてがない場合は、専門業者に頼むことが一般的です。猟犬の訓練には、多大な時間と労力が必要であり、自分で訓練することは容易ではありません。そのため、専門業者に訓練を依頼することで、自分自身が訓練するよりも短期間で訓練された犬を手に入れられるのです。
専門業者には、子犬、もしくは、訓練を終えた犬を引き取るプランがあります。
訓練された犬の方が価格が高くなる傾向にありますが、その分高い実力を持つ犬を手に入れることができるのです。価格は、猟犬の血筋・血統書の有無・訓練の程度などによって異なります。一般的には、10万円から100万円程度の価格帯になります。
猟犬は、狩猟の成果を大きく左右する重要な存在です。追い込む能力や、イノシシやシカなどの獲物を発見する能力が高い犬を所有することで、猟の成果を劇的に変えることができます。
猟犬の育て方は?
基本的なしつけ
猟犬には、基本的なしつけが必要です。飼い主とのコミュニケーションが円滑におこなわれるよう、従順性やマナーなどを身につけることが大切です。基本的なしつけには、お座り・伏せ・待て・呼び戻しなどがあります。習得させることで、日常生活の中で飼い主との関係がスムーズになります。
しつけが上手くいかない場合は、プロのトレーナーに相談するのも良いでしょう。しつけは、犬との信頼関係を深めるための重要なプロセスであり、しっかりと取り組むことが大切です。
狩猟に向けた訓練
猟犬の育成には、単に一般的なしつけをおこなうだけでなく、その犬種が持つ特有の能力に合わせた訓練が欠かせません。地域やハンターによって異なる訓練方法や飼育方法があり、犬種が得意とする技能を習得することが必要です。
雑種や小型犬でも、訓練次第で猟に必要な技能を身につけることができます。
また、犬種によっては、育成の段階で専門的な訓練が必要になる場合があります。犬との信頼関係を築くためには、子犬の段階から愛情を注ぎ、丁寧に育てることが重要です。
病院を探しておく
猟犬は、狩猟中にさまざまな危険にさらされるため、怪我を負ったり、病気にかかったりすることがあります。普段から健康状態を管理することは非常に重要ですが、万が一の場合に備えて、病院選びを慎重におこないましょう。狩猟仲間に相談して、地元で信頼できる獣医師を見つけることが大切です。
また、獣医師が狩猟犬の治療に慣れているかどうか、急な重傷や緊急の場合に対応できるかどうかを確認することも重要だと言えます。
狩猟犬は、愛玩犬とは違う健康リスクがあるため、飼い主は常に獣医師との良好な関係を築き、しっかりと必要な情報を収集しておきましょう。
迷子対策もしっかり
狩猟用の猟犬は、自然環境での狩猟に使われることが多いため、迷子になってしまう場合があります。逃げた場合でも一定の範囲内にとどまる傾向がありますが、未知の地域に迷い込んでしまうと、迷子になってしまう可能性があるのです。
猟犬が迷子にならないためには、飼い主との信頼関係を深めることが大切です。
GPSを搭載した追跡用の首輪や、迷子になった場合でも情報提供を受けられるようにマイクロチップを装着する、なども迷子対策になります。
猟犬を使うときの注意点は?
咬みつかせて狩るのはNG
猟犬は、狩猟の際に使用されることがありますが、猟犬に咬みつかせて狩猟をおこなうことはできません。犬に咬ませる行為は、法的にも厳しく罰せられる可能性があります。
狩猟においては、猟犬が獲物を追いかけていくために使用されることが多いですが、訓練された猟犬が獲物に咬みつくことは、まずありません。獲物を追いかける際には、飼い主が使用する銃器などの狩猟道具を使用し、獲物を仕留めます。
猟犬の役割は、獲物を見つけたり、追跡することで狩猟をサポートすることです。
狩猟をおこなう場合には、法令や倫理観を守り、猟犬を適切に使用することが求められます。猟犬と共に安全かつ楽しい狩猟をするためにも、犬に咬ませる行為は決しておこなってはいけません。
特性を理解しておく
猟犬を使う際には、その犬種の特性を理解することが非常に重要です。
犬種によって、得意な狩猟対象やその追跡方法、性格などが異なります。例えば、嗅覚が優れているビーグル犬は、ハウンド犬として使用されます。
獲物の臭いを追跡し、鳴き声で位置を教えてくれるのです。ジャックラッセルテリアは、小型犬でありながら、強い闘争心を持ち、穴に入って獲物を追い詰めることが得意です。
犬種の特性に合わせた適切な狩猟方法をおこなうことで、猟犬の力を最大限に発揮でき、狩猟の成功に繋げられます。犬種の特性を生かすためには、訓練だけでなく、信頼関係を作るためのコミュニケーションも忘れてはいけません。
適切な訓練や飼育をおこない、犬種の特性を最大限に引き出し、猟犬と楽しい狩猟をしましょう。
参考文献:
「狩猟読本」(大日本猟友会)
「これからはじめる狩猟入門」(ナツメ社)
「いちばんよくわかる犬種図鑑 日本と世界の350種」(メイツ出版)
「新犬種大図鑑」(ペットライフ社)