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農地がなくても今日からできること・すべきこと【ゼロからはじめる独立農家#03】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

農地がなくても今日からできること・すべきこと【ゼロからはじめる独立農家#03】

農業には興味はあるけど親族が農家でない限りどこから手をつけていいのかすら分からないのが農業。農家になるためには農地の取得、農業技術の習得ももちろん必要ですが、今の時代だからこそできる、いややっておくべき準備があります。

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農業は長く収入を得られる

我が「菜園生活 風来」では、これまでたくさんの視察を受け入れてきました。中でも個人視察が多いのが特徴です。自称日本一小さい農家ということもあり、農業に興味はあるものの全く農に携わったことがない、極端に言えば家庭菜園をしたことがない人も多く視察に来ています。

私はそれをとても良いことだと思っています。ひとつの仕事をしている間に準備をする。この不安定な時代、第2の井戸(収入源)を掘る、または掘る準備をしておくのはリスクの分散という意味でもとても大切なこと。また農業従事者の平均年齢が66.8歳(2019年、農林水産省調べ)というくらいなので農業は長く働けますし、また働き方もガッツリ取り組むこともできれば、兼業のような形もできるなど選べる強みがあります。

ただ、興味はあるけれど、実際に農業をするにはどこから手をつけたらいいのか分からない人が大半だと思います。私もそうでした。農業人口の減少が叫ばれて久しいのですが、その原因として、後継者不足もさることながら新規参入の難しさが拍車をかけていると思っています。農業への新規参入の壁として、まず初期費用が大きくかかるということがあります。たとえば全国新規就農相談センターが2016年に行った「新規就農者の就農実態調査」では、露地野菜で平均319万円、稲作で平均556万円の初期投資が必要だったという結果が出ています。そして大変なのが農地の取得。各都道府県、各市町村で農地流動化促進事業が進んできたとはいえ、まだまだ壁があります。

また、農産物と言うのは基本1年1作、苗から育てるにしても収穫するまでに1カ月以上かかるものが大半。それどころか土作りなどその準備を含めると植えてから収穫するまでに半年以上かかるものも少なくありません。そんな数少ない機会しかないうえ、またその土地の癖(土質・気候など)もあるので売り物になる作物がとれるまでにはとても時間がかかります。

全国各地から個人で視察に

こう書くと大変なことばかりのようですが、先述したように長く収入を得ることができますし、体を動かすので健康のためにもよく、命の元である食を育てているということで安心感もあります。また作物をお裾分けすると周囲の人に喜んでもらえるということでそれがやりがいにつながります(農家が長寿で元気と言われるのはこういった他人に喜んでもらえるからというのがあるのではないかと勝手ながら実感しています)。

ともあれ将来農業、農的暮らしをしたいというのなら技術習得は早ければ早いに越したことはありません。それこそ農地を取得する前に、栽培技術もさることながら加工技術、また販売技術(ネット販売含む)も勉強しておいた方が良いでしょう。なぜなら実際に作物を育てはじめると日々の仕事に追われ、また畑から離れることも難しくなり、他のところに技術の習得に行くことが難しくなるからです。

スマホ一台で始められる、現代の就農準備とは

そして今の時代、農地がなくても技術を持っていなくてもできる準備があります。我が風来に視察に来た人、特にまったくのゼロからという人たちに勧めているのが、ブログを一刻も早く始めた方がいいということ。今はスマホ一台で始められますし、コストもほとんどかかりません。やろうと思えば今日からできます。

農家にとって永遠のテーマのひとつが農業技術が先か?販売技術が先か?ということ。生鮮品である農産物は基本的に時間が経てば経つほど価値が下がります。つまり収穫してから売り先を探していては遅いということ。ただし自然環境によって収量が大きく変わるのが農作物ですので育てる前から売り先、販売量を確定しておくというのもこれまた難しい。このあたりはプロの農家であっても悩ましいところです。初心者にとってはなおさらなことでしょう。そこで必要とされるのがファン作りです。作物がとれる前から、極端に言えば農家になる前から応援してくれる人たちと多くつながっておく。そして収穫できた時に買ってもらえる準備をしておくことが必要です。

価格的なものや利便性、広告は資本力のある大手小売業が圧倒的に有利です。そんな中、個人が大手小売店に販売方法で勝てる唯一のところは逆説的ではありますが、個人であるということ。大きいところは扱う量も種類も多いので人格は出せません。なのでグローバルGAPや有機JAS認証など認証制度が信頼の担保になります。そんな中、個人が信用されるのはどんどん自己開示していくこと、そして過程を見せるということであり、それが個人農家の最大の武器でもあります。

工業製品と違って、農産物はひとつとして同じものはありません。同じ大玉トマトであってもAさんが育てたトマトとBさんが育てたトマトは意味合いがまったく違います。糖度や価格は測れてもどういう思いで育てたかは人それぞれだからです。

これまではそんな思い・物語を農産物にのせることはできませんでした。TV番組で農家や特定の作物が取り上げられることはあっても、そんな機会はなかなかありません。ところが今は個人が気軽にコストもかけず情報を発信できるようになりました。まさに個人農家にとってチャンスの時代がやってきたと言っても過言ではありません。それを生かさない手はありません。

「絶対差」を身につける

情報を出すということではツイッター、Facebook、インスタグラムなどSNSもありますし、それらを駆使していくのもこれからの農家には必要なことですが、SNSは情報量が膨大なため短時間で流れてしまい、埋もれてしまうのが現状です。信頼を得るためにも時系列でキチンとみてもらえるブログをもつことは必要になります。

例えば「新規就農ダメダメ日記」といったように農家になるまでの道のりを書いていく。農地の取得の大変さや育てる苦労、また農の楽しさ、そして汗と涙。その思いに共感してもらえたら、作物が収穫すると同時に買ってくれる人もあらわれることでしょう。

現在会社などに勤めていて、農家を目指しているということを周囲に知られたくないという人もいるでしょう。実際、視察に来る人でそのような人も多くいます。そのような人には非公開設定で書くことをすすめています。どんなに拙くてもかまいません。文章は書いていくうちに上手になってきます。とにかく1日も早く書くことが大切です。

2000年4月から続けている風来の畑日記

10年間の蓄積のある日記(ブログ)と1年間の日記では信頼性が高いのはもちろん10年の日記ですよね。1日も早く書いていれば、後から書いた人がいたとしても自分がやめない限りは追いつかれることはありません。これを絶対差と言います。高い、安いというような比較差ではなく、絶対差を手にいれることは自分の価値を高めることに直結します。

最初は非公開設定で書きためておいて、公表できる段階になったら公開設定にする。過去の記事が実際にどこまで読まれるかは分かりませんが、その時期から書いていたということは残ります。そして思いを書くことで自分の頭の中が整理されていきますし、具体的なビジョンが見えてきます。将来悩んだ時に自分の書いたものを見直すことで初心に帰り、勇気づけられることもあるでしょう。

どこのブログサービスを使うかはいろいろためして自分に合うところにしてください。最初は無料でデザインやパーツなどが用意されているところで充分いいのですが、中には商用サイトにリンクするものがダメだったり、著作権が書いた人ではなくそのブログサービスのところに帰属するところもあるので、規約を読み、先を見越したところにしてください。将来的には自社サイトでWordPressなどのソフトやサービスを使うことをお勧めしますので、途中で記事をエクスポート(別のブログサービスに移動)しやすいところを選んでおくことが肝心です。積み重ねられた文章は周囲の人にもまた自分にとっても大切な財産なのですから。

菜園生活 風来

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