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農業視察を100%活用する【ゼロからはじめる独立農家#07】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

農業視察を100%活用する【ゼロからはじめる独立農家#07】

数ある業種の中でも農業ほど個人視察を受け入れるところはないでしょう。我が菜園生活・風来(ふうらい)でもたくさんの視察を受け入れてきました。就農前に視察にきた人で、現在風来の売り上げを超えている人も多くいます。そのように成功している人には視察の段階で多くの共通点があります。

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農家視察をなぜするのか?

農家を目指す時、少し前だと情報収集は農業本頼り。そして農業支援機構など公的機関に相談というのが一般的でした。今はネットから手軽に情報を得られる時代になりましたが逆に情報が多すぎて、どこから手をつけていいのか分からないのが現状。さらに、前向きな意見から後ろ向きな意見までさまざまなものが入り乱れます。

そこには以前書いたように(「ゼロから農家」と「後継ぎ農家」の違い【ゼロからはじめる独立農家#02】)農業とひと言でいっても育てている作物、規模、販売方法などによって全く違うからというのがあるのでしょう。農家がいれば、その農家の数だけやり方があると言っても過言ではありません。直接話を聞かなければ実情が分からないのが農業。そこで視察が有効になってきます。私も農家として独立する前は何軒か農家視察に行かせていただきました。

農家になりたいと相談に行く先々で「そんな甘いもんじゃない」「絶対無理だ」「初期投資がかかる」と散々言われ、何度も心折れそうになりました。風来では団体視察もですが、個人視察も積極的に受け入れています。個人視察に時間を割くのは農繁期には厳しいものもあるのですが、農家の数だけやり方が違うように、勇気をもって視察までしたいという人はその人それぞれ事情があるのを分かっているからです。耳を傾け、前向きに応援してあげる。それが私なりの農業への恩返しでもあります。昨今はこのような情勢でリアル視察は少なくなりましたが、オンライン視察の要望が増えています。

団体視察風景。小農が注目されてきたことを実感

視察の動機で多いのが「具体的な農法を知りたい」というもの、また「売り先、売り方など販売について」。それと同じくらいに多いのが「自分が農家になれるかどうか?」を知りたいというもの。背中を押してほしいという人もいれば諦めさせてほしいという人も。視察代をいただいている身としてはそういった相談でもいいのですが、正直もったいなく感じます。迷っている人には「やめておいた方がいいよ」ということもあります。自然や市場のリスクの大きい農業は生半可な気持ちでは始められません。今では、自分が就農前に相談に行った時に厳しい言葉をかけられたのは、その本気度を試されていたのではないか? そう思えるようになってきました。

せっかく視察にいくのであれば、「やる」「やらない」ではなく、やること前提で、具体的に聞きたいことを明確にすること。そうすることによって限られた時間が有効につかえます。また質問する側に強い意志があれば、答える側もどんな状況であってもアドバイスすることができます。

視察前に考えておくこと&心構え

風来で視察を受け入れる時、強制ではありませんが、記入して考えを整理しておいた方がいいと思う質問シートを事前にメールに添付して渡しています。質問の内容は「目指したい農業スタイル・現状」「強み」「弱み」「キャッチフレーズ・コンセプト」の4つです。

「目指したい農業スタイル・現状」という質問の意図は、どんな栽培方法をしたいのか、またそこに本当にこだわるのか?を把握するためです。そして農に対する経験値があるのか、また農地はあるかないのか? これは視察を受ける立場としては最初に聞いておきたいことです。そうしないとボタンの掛け違いで最後までかみ合わない視察になってしまいます。ここは正直に書いてほしいところ。

「強み」は文字通り「あなたにはどんな強みがあるのか」ということです。農地もあり、機械も技術もある人でさえ大変と言われている農業の世界にゼロから飛びこんでいくのです。既存農家にはない、別の武器が必要になります。簿記やIT、営業などなど。それを知ることでこれまでの経験を農業にどう生かせるか一緒に考えることができます。

「弱み」も文字通りですが、避けて通ることはできません。農地がない、経験がないということも、聞いていくとそれが強みになる場合もあります。弱みに目をそらさず向き合うことは具体的に独立準備をすすめていく中で大切なことです。

最後の「キャッチフレーズ・コンセプト」ですが、これを言える人はなかなかいません。例えば風来の場合、キャッチフレーズは「日本一小さい農家」。コンセプトは「毎日食べ続けられる味と価格」です。いい答えがすぐには見つからなくても、これらを考えること自体が、自身が本当にやりたいことを掘り下げる時間になります。そしてキャッチフレーズとコンセプトが決まっていれば、パンフレットをつくるにしてもホームページをつくるにしても統一感のあるものができます。

視察の時には野菜の実食も。後味の違うとれたてパセリ

あと「農家になりたいのなら農家を目指すな、百姓を目指せ」「農家になるのを目的にしない」ということを伝えます。農は手段のひとつ。なんのために農家になりたいのかを考える必要があります。中には「農家になりたい」という憧れがあるというのは嘘ではないのでしょうが、どこか「農家ぐらい」と思っているんだろうなと感じることがあります。視察される側はすぐに分かりますので、できるだけ具体的にそしてリスペクトをもって、視察にいどんでください。

視察を最大限に活用する

一番もったいないのが、視察をその場だけで終わらせること。視察先が実際に行ってみると理想の形でないこともあるでしょう。しかしめぐりめぐって、後々またお世話になることも充分ありえます。また視察先の持つつながりから紹介してもらうことで、本当に自分がやりたい形のところが見つかるかもしれません。そういった意味で視察はある意味顔合わせと思ってもいいと思います。視察する方も農家を見ていると思いますが、視察を受け入れる方も視察者の人柄を見ています。この先つながれるかどうか……と。

これまでほんの数人ですが、視察の時に長靴と作業着を持ってくる人がいました。風来では現在、「視察のあと畑を手伝わせてください」という人には、延長戦ということで作業しながら質問を受け付けています。一緒に作業すると気持ちも通じます。ほとんどの農家は作業を受け入れることはないでしょう。それでも田畑の仕事をお手伝いしますと言ってくれると一気に親近感が湧いてきます。私は視察、または講演は「ご縁の始まり」と思っています。

加工場の中で実践を交えながらの視察も

限られた視察時間の中で、その農家さんの良いとこ取りはできません。そういった意味では、いかに視察の後ご縁をつなぐかにかかっていると思います。最低限名刺を用意しましょう。またFacebookかInstagramのアカウントを持っておくとよいでしょう。一度実際に会った後、ネットでもやりとりすると親しみ度合いが全然違います。

視察に来てご縁ができた中で成功している人は、すべてと言ってもいいほど視察の後にメールでお礼の挨拶がありました。中にはお礼の手紙も。手紙をもらうと印象に残ります。どの仕事も人柄が大切なのは言うまでもありませんが、横のつながりが深い農の世界ではなおさらです。せっかくの視察。充分に活用してくれればと思います。

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