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新しい直売所のカタチ? 「集荷機能を持つ」メリットとデメリット【直売所プロフェッショナル#22】

新しい直売所のカタチ? 「集荷機能を持つ」メリットとデメリット【直売所プロフェッショナル#22】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。第22回は、集荷機能を直売所が持つメリット、デメリットについて。

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野菜、軒先まで取りにうかがいます!

当社が運営している直売所の大きな特徴の一つは、自社便で農家さんの野菜を集荷することです。一般的な直売所では、各出荷農家が野菜を持ち込み、価格ラベルを貼って店頭に並べます。ところが、私たちの取引農家は、自宅の軒先(または畑や作業場など)の所定の場所に出荷野菜と納品書を置いておくだけで、あとは当社の集荷スタッフが野菜をピックアップするのです。

なぜこのような仕組みを持っているかというと、東京のしかも駅近にある直売所という特殊な立地事情によります。当社の直売所は、エキナカや駅から徒歩数分の小型店舗であり、たくさんの農家が持ち込むための駐車スペースがないのです。また、私たちが創業した東京都国立市では、農家の多くが甲州街道沿いに集積しており、集荷効率が良いという事情もあり、正直、当初はあまり深く考えずに集荷をするという判断をしました。結果として、とてもユニークな仕組みを持つ直売所となったと思います。

その後、経営していく中で、当初私たちがきちんと理解できていなかったさまざまなメリット・デメリットがあることがわかってきました。ですので、自社便に集荷を導入することが経営的にプラスになるかどうかは、その直売所の置かれている状況や経営体制などによって変わります。私たちが経験したことを提供することで、集荷導入にメリットがあるかを検討するきっかけになれば幸いです。

当社では毎日3台の自社便が集荷にまわっている

集荷をしてみてわかった、メリットとは

直売所が集荷することのメリットは、出荷農家・直売所それぞれにあります。

まず、出荷農家にとってのメリットは、当たり前ですが自分で納入する必要がないことです。自宅から直売所の往復、ラベル貼り、店頭陳列と直売所への野菜出荷は意外と時間がかかります。距離や出荷量にもよりますが、最低でも1〜2時間はかかってしまうでしょう。もちろん、家族で手分けができるので問題ないという人もいるとは思いますが、その時間を栽培や経営に充てられることは、農業者の時間が経営において重要な資源であることを考えると、とても大きなことです。(参照:農家も働き方革命! 人件費を計算する【直売所プロフェッショナル#09】

他方、直売所にも多くのメリットがあります。まず、優先的に野菜を出荷してくれる農家が増える可能性が高くなります。特に、端境期にはその傾向は顕著になります。なぜなら、農家としても端境期で野菜があまりとれない時期に、少ない野菜を納入するのは面倒だからです。直売所には、たくさんとれる時期には入荷が多くなりすぎてダブつき、端境期には野菜が不足するという構造的な課題(参照:野菜がない! 端境期対策をどうする!?【直売所プロフェッショナル#17 】)がありますが、その対策にはとても有効な手段です。

また、やり方にもよりますが、集荷を通じて農家や畑の情報が得られるうえ、直売所から農家への情報提供もできます。集荷するということはドライバーが農家の軒先までうかがうということです。屋敷裏に畑があれば、自然と何が栽培されているかが見えますし、野菜を積み込む時に農家がいれば自然と会話にもなります。そうすると、農家が試しに栽培している野菜を見つけたら「何を栽培しているんですか?」と聞くこともできますし、まだ売り場に並んでなくてとれそうな野菜を見つけると「そろそろとれそうですね!」と出荷をプッシュすることもできます。また、「こういうのは栽培しないんですか?」というようなちょっとした提案や、「〜がおいしかったとお客様に言われましたよ」といったフィードバックもできます。さらに副次的な効果として、こういう話をしているところを農家のお子さんが見たり聞いたりすることで、親の仕事の意義を感じたりすることもあるかもしれません。ただし、こういったことを実現するには、ドライバーにそれなりの野菜知識と売り場感覚があることが前提となります。

集荷をすることで農家の情報が得られる

さらに、車の運転が難しくて持ち込みができない農家が出荷できるようになります。技術的には優れていても、なんらかの理由で持ち込めない農家は意外といますので、農家・直売所のお互いにとってメリットがあります。

集荷のデメリット、整合性が取れない事とは

このように、集荷をすることのメリットはたくさんありますが、世の中に広がっていないということは、デメリットも多くあります。

まず、当然ながらコストがかかります。例えば、当社の直売所を例に見てみましょう。東京という狭い地域に農家が密集しているという特殊事情があり比較的効率的に集荷できる地域だと思いますが、それでも1日1台あたり4〜6時間程度は集荷に時間を費やしています(当社の場合は2店舗分を1台でまわることで経費負担を軽くしています)。
また、委託販売との整合性が取りにくいという問題もあります。直売所において、野菜をどこに置くかはかなり重要です。(参照:直売所の最重要キーワード。「委託式」をきちんと理解する!【直売所プロフェッショナル#18】 )だからこそ、一番乗りで納入し、良い場所に並べるという農家も少なくないでしょう。ところが集荷するとなると、野菜を並べるのは直売所スタッフとなり、どこに並べられるかに農家は関与できません。それにもかかわらず売れ残った場合は農家側が負担することになってしまうので、不公平感は拭えません。委託販売と直売所による集荷は相性が悪いのです。

仮に、その課題を解決したとしても、農家の出荷量については事前の数量調整が不可欠です。なぜなら、その日に集荷する農家を決めて、ルートを設定し、配送車のキャパシティーと出荷量を調整しなければいけないためです。これを毎日繰り返す必要があり、そのためには一般的な直売所にはない事務作業も発生します。

また、農家としては直売所に自分で持ち込むことで得られる売り場の肌感覚みたいなものが得られなくなるということもデメリットとしてあげられます。

このように、直売所が集荷をすることには、さまざまなデメリットが存在します。だからこそ、直売所自ら集荷をするということが一般的にならないのだと思われます。

集荷をするには直売所経営の「設計」が不可欠

これまで見てきたように、集荷をすることと委託直売所は、あまり相性が良くないように思います。委託直売所というのは本質的に「直売所が農家に場所を貸すビジネス」ですが、農家がその「借りる場所」を選べないためです。事前に、それぞれの売り場が決まっているということならそういった問題は発生しませんが、毎日出荷量や品目が変わる農産物直売所においては、あまり現実的ではありません。

とはいえ、委託販売では絶対にできないということではないとも思います。例えば、とても繁盛している直売所で残り野菜が出ることはかなり少ないという場合には、どこに野菜を置いても残るリスクが低くなるので、農家も陳列場所にこだわらないはずです。そのような場合は、集荷コストと事務作業コストを回収する仕組みを持つ(おそらく委託費率を高めに設定する)ことで、実現は可能です。ただし、配送キャパシティーの問題もあるので、農家も連絡なしに好きな数を気ままに出すということはできなくなります。それでも、持っていくことを考えたら集荷してほしいという農家は少なくないのではないでしょうか。

一方で、買い取り型の直売所であれば集荷との相性は良さそうです。事前に各農家に発注をし、毎日集荷ルートを組み、決まった数を仕入れる。注文分は全て買い取り、直売所の側が自由に陳列し、値付けも行います。当社の直売所はこのような形で運営をしています。ただし、この場合は、農家が出荷できる量は制限されますし、値段も自由につけることはできません。たくさんとれたから、売れ残り覚悟で大量に出荷するといったことはできなくなります。価格も交渉次第となるので、折り合わなければ出荷できないということになります。

このように考えていくと、集荷を導入しようと思うと、直売所経営の仕組みを「設計」する必要があります。集荷自体は農家にとってメリットが大きいのですが、直売所としては集荷をしようと思うと、それ以外の経営スタイルとの整合性を持たせる必要があるのです。

最後に、集荷自体のコストを圧縮するという意味では、大きめの農家に協力を仰ぎ、その農家の敷地の一角を集荷場としてその地域の野菜を集めるという方法もあります。そうすると、集荷時間を短くできますが、農家の軒先で情報を収集することはできなくなります。

このように、集荷を導入するといっても、さまざまなことを検討する必要があります。大事なことは、経営システムに一貫性があることです。自分たちの経営する直売所が何を目指すのか、そのために何を取り入れて、何は取り入れないのかをしっかりと検討し、集荷をするのが最適解ということであれば、それに合わせてそのほかのシステムを設計していきましょう。

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直売所を複数経営するベンチャー創業者2人が、直売所運営のノウハウを事例とともに紹介。地域食材に熱視線が集まる令和時代のニーズに合った、「進化版・直売所」の在り方を追い求めます。

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