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直売所の特徴を生かす接客サービスとは?【直売所プロフェッショナル#26】

直売所の特徴を生かす接客サービスとは?【直売所プロフェッショナル#26】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。直売所では言及されることが少ない接客サービス。業態の特徴を考えると、実は接客との相性が良いため、強化すべきと考えます。

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直売所での接客サービス、意識しますか?

直売所での買い物には、どういうイメージを持ちますか? たくさんの野菜が並ぶ中、POPを見ながら野菜を選び、どっさりとカゴに入れてレジを通してもらう。小型の地域密着型の直売所だとそこで店員さんが野菜や農家のことを話してくれることもありますが、大きめの店舗だとただレジを通すだけ、ということが多いと思います。

新鮮さや価格で優位性があることが多い直売所は、それでも繁盛店になっていることは少なくありません。けれど、直売所を「野菜の専門店」と考えると、それでは物足りないとも思います。専門店での買い物の魅力の一つには、専門的なスタッフによる説明や提案があるはずです。そして、本来は、直売所は接客サービスを強化しやすい業態のはずなのです。なぜそう言えるか、以下で説明したいと思います。

野菜の情報がローコストで得られる
以前からこの連載で指摘していることですが(参照:直売所で選んでもらう、楽しくする! POPの工夫【直売所プロフェッショナル#07】)、農家が直接野菜を持ち込む直売所は、野菜の情報を圧倒的に得やすい環境と言えます。市場を通すなど流通においてプレイヤーが増えるとどうしても見えにくくなる野菜の情報ですが、農家自ら持ち込む直売所においては、農家のことをわかっているのはもちろん、持ち込みの際に話せば野菜のことや栽培方法のことなども把握することができます。これは、野菜の情報を得るという点において、市場流通はもちろん遠隔地からの契約栽培などと比べても圧倒的に優位性があると言えます。

委託販売が多いので、業務が複雑でない
直売所の多くが委託販売であるため、スタッフの業務がシンプルであるということも、接客サービスに力を入れるという点で優位にはたらきます。一般的なスーパーでは、青果担当スタッフはバラバラで入荷した野菜を荷づくりし、品出し、陳列を行います。また、レジ打ちスタッフはレジ専門で、商品についての接客をすることはほとんどありません。商品点数が多く、多岐にわたるスーパーでは網羅的に商品の説明をするのは難しいという事情もあるでしょう。
ところが、直売所においては販売できる状態で農家が野菜を持ち込み、陳列します。野菜の荷づくりは農家の仕事ですし、一部品出し・陳列もあるかもしれませんが、多くありません。商品は野菜が中心なので、きちんと学ぶ体制があればスタッフが一通り説明できる状態になるのはスーパーと比べるとずっと容易です。

忙しくない時間帯と忙しい時間帯の差が大きい
直売所という業態は、朝に新鮮な野菜が持ち込まれる可能性が高いという特性上、お客様も開店直後に集中します。逆にいうと、午前中にピークタイムが訪れ、そのあとはそれほど忙しくないという店舗が多いと思います。もちろん、売り上げ情報が1時間ごとに出荷者に届くような仕組みを持っていて、昼以降にも野菜がたくさん並ぶ直売所も多いですが、それでも朝と比べるとラインアップで見劣りするということで、お客様は午前に集中しがちです。実際、直売所を訪れると昼間は暇そうにしているスタッフがレジの中にいるというシチュエーションによく出くわします。このような状況を見ると、いつももったいないな、と思ってしまいます。せっかくスタッフがいるなら、レジが混まない時間帯にはレジから出てお客様に野菜の説明をしたり、陳列をキレイにしたりということをすれば、ピークタイムよりも落ち着いて楽しく買い物できるということで、意図的にその時間帯を狙って来客するお客様が増えます。そして、売れるとなれば、出荷者は野菜を追加で持ち込むはず。そうなると、出荷者が野菜を並べているタイミングに出会い、より新鮮さを実感できるお客様も増えることになります。

野菜への期待が一般スーパーよりも高い
そして、直売所にわざわざ野菜を買いに訪れるお客様ですから、その多くは野菜への期待値が一般的なスーパーでの買い物より高いと思われます。その期待に応えることで、野菜はやっぱりこのお店で買おう、となるはずです。ただ安い、新鮮、だけでは限界があります。直売所のお客様は、わざわざ野菜を買いに訪れるので、接客を強化することでよりリピーターになってもらえる可能性を高められます。

このように、直売所には野菜の専門店として、接客サービスを強化しやすい素地があるはずですし、そこを強化することが一般的な小売店やECサービスとの差別化において、重要な武器になるはずです。

では、どのように接客サービスを強化していくか。ここからは、私たちの例も交えながら、説明していきます。

接客サービスを2つに分けて考える

まず、ここでは接客サービスの役割を大きく2つに分けて考えてみます。普段、私たちの店舗が意識していることでもあります。

1つは、野菜情報の提供。もう1つは、店への愛着の醸成です。今回は、前者を中心に考えます。というのは、店舗の規模や方針によって、店への愛着を醸成するためのサービスをどのくらい重視するかは変わるからです。ただし、特に小規模店舗においては、お客様が店に愛着を持つような接客の重要度が今後はどんどん増すと考えられます。商品だけでなく、店舗自体を選んでもらうことを目指すということですね。

まずは、知識のインプット!

接客を通じて、野菜の情報をお客様に伝えるために、まず大事なことはスタッフの知識です。接客を担うスタッフの多くはパートタイムやアルバイトだと思います。彼ら彼女らに野菜の知識をインプットしてもらう必要があり、そのための仕組みづくりが不可欠です。その方法は、店舗ごとにいろいろ考えられると思います。まず、専門店として野菜一般の知識の共有が不可欠です。今となっては笑い話ですが、直売所をスタートしたときに、私自身がホウレンソウと小松菜を間違うという失態を犯したことがあります。ここまで来るとお客様もむしろ面白がってくれるかもしれませんが、基本的な知識がないことで信頼感を損なう可能性があります。最低限、店として知っていてほしい情報は事前にまとめて、入社のタイミングで学習してもらうのが良いでしょう。

その上で、さらに直売所ならではの情報として、農家のことや品種のことがあるでしょう。農家については名前や顔写真はもちろんですが、それ以上に人となりや栽培上のこだわりが把握できると良いですね。品種については、すごく新しい品種についてキャッチアップすることも良いのですが、どちらかというと農家間で人気の品種などをきちんと把握し、特徴を伝えられることが大事でしょう。この辺りは、まさに小売店との差別化においてキーになるところだと思います。(参照:冬本番。地味だけどおいしいからきちんと伝えたい! 冬野菜販売の工夫【直売所プロフェッショナル#15】

これら、農家のことや品種のことをインプットするための仕組みをどう作るかが、とても大事です。これはスタッフの特性や年齢構成によるところもあるので、方法は1つではありません。私たちの店舗では、比較的若いスタッフが多いこともあり、グループウェアやLINEを活用して、日々情報共有をしています。お店によってはスタッフノートを用意し、農家が野菜を持ち込んだタイミングで話した雑談を共有することが有用かもしれません。方法はなんでも良いので、農家さんの情報を得ようとすることと、それを全体で共有することが重要です。そして、これは書くのは簡単ですが、実際に定着させるのは本当に難しいことです。正直、私たちもかなり試行錯誤を繰り返し、最近になってやっと自分たちに合うやり方がわかってきた、というところです。その上で言えることは、最後は経営者による徹底度が問われるということです。野菜の情報をお客様に伝えることを大事にしたいという気持ちを表明してスタッフ間でも共有すること、そのために経営者が時間を割くこと。仕組みができて回り出せばあとは勝手に動いていくのですが、そこにたどり着くまでは正直かなり大変だと思います。だからこそ、うまくやれれば差別化のための武器になるとも言えます。

レジを離れる

次に実践したいのが、余裕があるときにはレジを離れる、それができるレイアウトを検討することです。これは、大規模な直売所では難しいので、小中規模の直売所をイメージしています。
先ほども書きましたが、地方の直売所などに行ったときによく思うのが、レジを通すお客様がいないときにもスタッフがレジから離れないのはもったいないということです。

私たちのお店では、レジにお客様がいなくなりレジまわりでこなす仕事がない場合は、いったんレジから離れることを徹底しています。もちろん、レジでお客様を待たせないようにレジまわりには常に気を使うことを前提とします。商品を並べ直したり、POPの出し入れをしたりしながら、お買い物をしているお客様が話しかけやすい状況を作るのです。このときに、なんでもかんでも話しかければよいわけでなく、基本的には話しかけやすい状況を作りながら、困っている状況があるようならこちらからも積極的に話しかけるのが大事です。会話なく買い物をするのがストレスを感じなくて良いというお客様もたくさんいるので、その見極めが必要なのです。

このようにレジから離れることは接客サービスの第一歩ではないかと思います。

レジを通す際に一言を伝える

さらに上級編として目指したいのが、レジを通す際に「一言を伝える」ことです。「こういう食べ方がおいしいです」、「こういう栽培方法だからおいしいんですよ」といったことですね。これは、かなり難度が高いので、いきなりスタッフ全員に求められることではありませんが、目指したいところです。

食品を購入するときに、レジではお金のやり取りをするだけというのが一般的だと思います。何を当たり前のことを、と思うかもしれませんが、例えば洋服や雑貨を買うときには、レジでその商品について改めて説明を受けることがあると思います。野菜にはたくさんの情報が詰まっているのですから、同じことをしてもよいのではないでしょうか? もちろん、食品を購入する時には購入点数がたくさんになることも多いので、レジの金額間違いなどに気を付けることが最も重要です。とはいえ、できる時にはレジを通しながら野菜についてその特徴や食べ方を一言伝えられれば、お客様としてはとても楽しい買い物体験になるのではないでしょうか。「この農家さんのトウモロコシは絶品です」とか「この時期のナスは皮が硬いのでむいたほうがおいしいですよ」とか、何か一言付け加えるだけで良いのです。

これは、レジをスムーズにこなせて、野菜の情報もたくさんインプットできていることが前提なので、いきなりできることではありません。ですが、当社のエキナカ店舗では、多い時間帯には1時間に60人以上のお客様のレジ対応をしながら、このようなことをできるツワモノもいます。そういうスタッフが1人でもいると、お店の印象はかなり良くなると思いますし、お客様の生活に少し彩りを提供できるのではないでしょうか。

無人レジ、ECサービスが普及する中での接客

ここまで、直売所が接客サービスを大事にすべき理由と、それをしやすい構造的優位性について書きましたが、今後ココを伸ばすことなしに、直売所経営を持続していくのは難しいのではないかとさえ思います。

すでにどんどん広がっているECサービスはより一般化し、無人レジも遠くない将来当たり前になるかもしれません。その際に、直売所も無人レジには対応していくことになると思うのですが、ただ無人レジだけを導入すると、野菜の情報は店舗から失われます。それは、他の小売店と同質化する方向に進んでしまうということであり、利便性や価格の競争に陥るということです。社会的には、それが一概に悪いことだとは思いませんが、農家や野菜の多様性を日々実感し、そこにおもしろさを見出している私たちにとっては寂しいことだなと思ってしまいます。

また、ECサービスには情報を低コストで大量に伝えられるというメリットもありますので、意識的に取り組まないと、ECサービスの方が情報を得やすいということになってしまいます。一方で、直売所を経営していて実感するのは、野菜や農家について興味がある人が大多数ではないということです。ただし、お店での購入体験を通じて興味を持つ人は一定数いるという実感もあります。興味がないとなかなかECサービスを使おうとはならないと思うので、その点では実店舗の良さがあるのではないかと思います。

このように考えていくと、直売所の武器は野菜や農家の情報であり、それを生かすことが差別化において重要であるとともに、農家や野菜の多様性にまで通ずるのではないかと思うのです。

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