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東京理科大卒の新規就農者、ヤギのチーズを選んだ理詰めの戦略

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

東京理科大卒の新規就農者、ヤギのチーズを選んだ理詰めの戦略

就農する際に何をどこで作るかを決めるのは、その後の農業経営にとって大きな意味を持つ。東京都あきる野市で2020年1月に就農した堀周(ほり・いたる)さんが選んだのはヤギのチーズだ。自らヤギを育てて乳を搾り、チーズを作る。珍しい品目に着目した背景には、理詰めで考えた戦略と理想とするライフスタイルの確かなイメージがある。

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新規就農で「チーズ農家」を選んだ理由とは

JR東日本の五日市線の終着駅である武蔵五日市駅から車で西に向かって約20分。市街地を抜け、山あいの道のS字カーブを何度も曲がりながら上っていくと、「行き止まり」と書いた看板の手前に堀さんの自宅が現れる。
人里離れた場所にある一軒家をテーマにした人気テレビ番組で取り上げるのにぴったりの生活環境だ。近くに民家はなく、道を挟んだ両側は急斜面の雑木林。細い沢が心地いい音を立てながら脇を流れる。自宅は空き家になっていた古民家で、1月に親子5人で移り住んだ。携帯の電波は届かない。
そして自宅の横の敷地には、ヤギの小屋が3つ。メス6頭とオス1頭を飼っている。ヤギの小屋から自宅を挟んで反対側にあるのはチーズ工房。もともとあった小屋の床や天井を張り替え、チーズを作る環境を整えた。
東京理科大で物理を学んだ後、いったん建材メーカーに就職した。大学時代から「自分で何かを作り、値段を決め、売る仕事をしたい。それは農業かもしれない」と考えていた。だが「せっかく親に大学を卒業させてもらったのに、いきなり農業というわけにはいかない」と思い、会社員になった。

自宅の前の通りの脇を流れる沢

就職に際し、「丸3年はここで頑張ってみよう」と心に決めた。転職を前提にするのではなく、仕事を3年間一生懸命やってみて、それでも農業への思いが消えなかったら就農しよう。そう考えたのだ。
結論から言えば、当初考えていた通り、3年間働いて会社を辞めた。堀さんは会社員時代について「お客さんとの接し方など、社会人としての基礎を学べたので有意義だった」とふり返る。だが、入社1年目にNHKのある番組を見たことをきっかけに、気持ちは徐々に就農へと傾いていった。
それは自分で牛を飼い、チーズを作る農家を紹介した番組だった。堀さんはそのとき、「自分がやりたかったのはこれだとふに落ちた」という。チーズは作り方次第で自分の個性をはっきりと出すことができる。材料を仕入れず、自分で牛を飼うので土地に根ざした仕事にもなる。そう感じた堀さんは、家畜を飼ってチーズを作ることが就農の目標になっていった。
会社員をしながら、酪農やチーズ作りについて調べる生活が始まった。堀さんの中で「チーズ農家」というライフスタイルへの憧れが膨らんだ。そして3年たったとき、気持ちが揺らいでいないことを確認し、会社を辞めて妻の麻衣(あい)さんと北海道に向かった。研修を受けるためだった。

自宅の横の小屋を改築したチーズ工房

牛ではなくてヤギを選んだわけ

向かった先は北海道の中央部、上川郡新得町にある共働学舎新得農場。チーズ作りの研修で有名なこの農場で、堀さんはその奥深さのとりこになる。乳酸菌や酵素の働きで牛乳から固形分を取り出す方法は科学的に説明できるが、求める味や香りを実現するうえで頼りになるのは人間の感性。「科学的な根拠と繊細な感覚が必要になる」。物理と同じように好奇心を刺激した。
研修は2年間。効率的に農業をやるのが目的だったら、土地の広い北海道でそのまま就農したかもしれない。インターネットで売れば、東京など遠い消費地の人を顧客にすることもできる。だが、堀さんは別の道を選んだ。
理由は二つある。

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