プロフェッショナルとはなにか?
直売所の収益をアップさせるにはどうしたらよいでしょうか?
多くの地域で直売所間の競争も激しくなってきており、またおいしい野菜が自宅に届く仕組みも広がっていて、何も対策を講じなければ売り上げは減少していくでしょう。赤字が大きくなり、農協など設置団体にとってお荷物になってしまっては、農業活性化のために作られたはずのお店なのに、本末転倒になってしまいます。
以前この連載では「収益アップ術の初歩編」を紹介しました。今回は中級編として収益アップのポイントをお伝えします。中級編はより継続的に収益を向上させていく方法です。
ところで、この連載のタイトルは「直売所プロフェッショナル」というのですが、プロフェッショナルとは何でしょうか?
プロ野球の名監督、故野村克也さんはこんなことを言っていたそうです。
「プロとは、あたりまえのことをあたりまえにする者を言う。」
そうです、あたりまえのことをあたりまえにする。それがプロフェッショナルの原点であり、この連載タイトルが訴えたいことでもあるのです。
野村さんはプロセスが大事だとも話しています。継続的な良い結果は、良いプロセスからしか生まれません。プロになるには、プロセスを大事にしなくてはいけません。プロ野球選手が、日々練習をしたり、対戦相手の研究をするのと同じです。
プロは1%の向上を馬鹿にしない
では、商売におけるプロセスとはなんでしょうか。
小売業で大事なのは、細かい改善の積み重ねです。
野菜や果物の売り方に、とてつもないインパクトのアイデアが生み出されることはまずありません(絶対にないとも言い切れませんが)。利益は改善をひとつひとつ積み重ねることで生まれるのです。
セブン‐イレブンが小売業界のなかで圧倒的地位を築いているのも、改善を積み重ねていく仕組みがきちんと社内に備えられているからです。
よくPDCAサイクルと言いますね。「P:Plan(計画)」「D:Do(実行)」「C:Check(確認)」「A:Action(改善)」のサイクルです。継続的に良い業績をあげている企業は、このPDCAサイクルがきちんと回っています。好業績企業からすれば、PDCAを回すことは「あたりまえ」です。
あたりまえのことをあたりまえに実行するプロフェッショナルとは、PDCAサイクルを絶えず回している人のことなのです。
細かい改善は──プロ野球選手の日々の練習と同じく──けっして馬鹿になりません。
仮に、1週間に1%ずつ伸長したら、1年後には何%伸びているでしょうか?
1年を50週とすると、1年後には64%ものアップになります(1.01の50乗)。たった1%の伸びでも、積み重ねると大きな結果につながってきます。
プロフェッショナルの3つの「あたりまえ」
ここまで小売りのプロフェッショナルには、PDCAサイクルの積み重ねが大事であることを確認しました。ここからは、直売所におけるPDCAを回すためにあるべき「3つのあたりまえ」をご紹介しましょう。
どれも考えれば当然のことばかりなのですが、意外ときちんと行われていない直売所もあるのではないでしょうか。
1. 月次決算(週次ならなおベター)
月次決算(週次決算)を行っていますか? ただ数字をはじくだけではだめです。スタッフや関係者と共有し、その結果について話し合いましょう。月次決算の見直しを行っていない直売所は意外と多いのではないでしょうか。
業績が良いのか悪いのかを感覚ではなく、数字にすることで、客観的に状況を把握することができます。ちなみに、売り上げよりもコストを先に見直すべきということは、「初歩編」で指摘しました。
なお、直売所の決算数字の見方については、また別の回で触れたいと思います。
2. 目標数値
目標数値はありますか? これも、ただ設定しているだけではだめです。それはスタッフ全員の間で共有されているでしょうか?
そして、一番大事なのは、目標に到達したときより到達しなかったときです。人間は失敗から学ぶのです。目標数値に到達しなかったときに、謙虚にその原因について考え、次の改善につなげることができるのが、プロフェッショナルです。
3. チームワーク(信頼関係)
チームワークは2つの観点でPDCAにとって大事です。
ひとつは目標を達成できなかったときの雰囲気に関わるからです。目標が未達だったときに、その原因をみんなで(場合によっては設置母体の職員や出荷者も一緒に)話し合える建設的な雰囲気なのか。あるいは、その責任を誰かのせいにして終わりにしてしまう雰囲気なのか。当然、後者のチームではPDCAは回りません。
もうひとつの理由は、新しいアイデアを出すためです。3人寄れば文殊の知恵のことわざ通り、アイデアを主体的に考える人が多ければ多いほど、よいアイデアが出やすくなります。主体的に考える人が多いかどうかは、そのチームに信頼関係があるかどうかに大きく依存します。
そして、この3つが揃った会議を定期的に行うことで細かい改善を積み重ねることができ、収益アップにつなげることができます。
まずは単品目標を試す!
ひとことに目標と言っても、いろいろな目標があります。もし現時点で、強く意識している目標数値があなたのお店にないなら、まずはひとつの商品の売れ行きを目標に設定してみましょう。「単品目標」です。
単品目標の最大のメリットは、スタッフ全員にとってとても分かりやすいこと。大事なのは、やはり振り返って次の改善につなげることですが、その振り返りのミーティングも目指していることが単純なだけに盛り上がりやすいのです。
なお、ひとつの商品に注目することには、以下のようなメリットもあります。
(1)商品ひとつだけなら、新人のスタッフでもそのセールストークを覚えることができます。また、新人が目標達成に対して参加できるのでチームワークが育ちやすくなります。
(2)出荷者に積極的に納品してもらいやすくなります(委託式である直売所の弱点は、出荷者の納品量が少ないと機会損失が発生してしまうことです)。
(3)とくに推奨する商品があると、陳列のメリハリがつきやすくなります。直売所は陳列のメリハリが少なく、買い物の楽しさを失わせるときがしばしばあります。
(もしマイナビ農業のトップページがベタなテキストだけで構成されていたら、誰も見ないでしょう。)
プロならば盗め!
最後に、店長が行うべき「あたりまえ」をもうひとつ挙げるとすると、それは敵情視察です。
自店以外の直売所にはどのくらいの頻度で行っていますか?
他人の商売を観察し、そこから学びを得ることは、商売人ならだれもが当然に行っていることです。プロ野球選手だって、他の選手から多くのことを学んでいます。盗んで学ぶことはけっして悪いことではありません。セブン-イレブンとファミリーマートがお互いに良いところをまねしているように、競合どうし学び合うことが業界全体の盛り上がりにつながるのです。直売所業界は残念ながらそうなっていないのではないでしょうか。
以上、収益アップ中級編、いかがだったでしょうか。
継続的な収益アップは、あたりまえのプロセスを大事にすることから。直売所プロフェッショナルのプロたるゆえんは、日々の積み重ねにあるのです。