価格はじつに奥深い!
価格って本当に悩ましいですよね。何が正解なのか?
たとえば筆者の直売所でも、賞味期限が近くなった加工品を値引きするという作業は日々発生するのですが、どのくらい値引きするのが正しいのか、とても悩みます。
値引きしすぎたら利益がなくなる。でも、賞味期限までに売れなければ、それはそれで損失になる。
じつに難しいものです。
しかし、収益性の高い直売所になるためには、商品の価格というものはたいへん重要で、この議論は避けては通れません。この連載でも直売所の値付けについて、たびたび論じてきました。
過去の連載では、安売りをしすぎると直売所や農家の利益を減らしてしまうということを指摘してきましたが、そうはいっても値引きや安売りが必要なときがあります。では値引きや安売りにはどのような方法があるのか?ということを今回は考えていきましょう。
まず、値引きや安売りの目的は大きく分けて2つあります。
(1)お店全体の需要(売り上げ)を引き上げる
(2)個々の商品の需要(売り上げ)を引き上げる
競合店の価格が低いので、それに追従しようというのは(1)です。一方、値下げによって賞味期限が切れる前に売り切ろうとするケースは(2)ですね。
どちらにしろ、価格決めは出荷者次第なのでどうにもならない、という直売所のスタッフもいるかもしれませんが、実際にはいろいろな方法があります。価格の世界はじつに奥深いのです。
店全体の値引き方法あれこれ
まず、(1)お店全体の需要(売り上げ)を引き上げるための、店全体としての値引き施策です。
「『値づけ』の思考法」(小川孔輔著)によれば、値下げには大きく分けて「即時型」と「延期型」の2種類があります。
大手家電量販店が分かりやすいです。
ケーズデンキが「現金値引き」をうたっているのはご存じでしょうか。これは即時型、つまりその場で値引きしてくれるということです。
一方で、ヤマダ電機やビックカメラにはポイントカードがあります。これも値引きの一種なのですが、すぐには使えません。延期型です。
直売所においてもポイントカードの導入は検討課題です。
また、最近はレシートに次回使用可能なクーポン(例:次回来店時にリンゴ○円引き)を付けるということもできます。これも延期型の値引きの一種ですが、財布の中のポイントカードをこれ以上増やしたくないという層にも渡すことができます。
もちろん、即時型の値引き(例:リンゴ特売日)も効果があるでしょう。毎日決まった時間に値下げをするタイムセールも要検討です。
ちなみに、経理の上では、即時型の値引きは売上高のマイナスとして処理され、ポイントカードやクーポンは広告宣伝費として処理されるので、ちょっと意味が異なるかもしれません。延期型の施策では、関係者から「こんなに広告宣伝費を使う必要があるのか」と指摘されてやりにくく感じることがあります。
しかし、それは経理処理の問題であって、値下げという観点では即時型も延期型も同じ意味のことをしていますので、経理方法に惑わされずもっとも効果的な方法を選びたいものです。
これは使える! 値引き方法7選
次に(2)個々の商品の需要(売り上げ)を引き上げるための値引きについて、多様な方法を紹介します。
値段を付けるという作業を、単純に価格札や商品に貼るシールに数字を表記することだと考えていると、値引きについての新しい発想が出てきません。シールを貼りなおすことは簡単で時間はかかりませんが、思考停止になっている面もあるのです。
実際、値引きにはじつにいろいろな方法があります。そのことを知っているのと知っていないのとでは収益性に違いが出てきます。
使える値引き方法7選
増量 | 価格を据え置いてひと袋あたりの量を増やすのも、値引きの一種。核家族化が進んでいるので正解でないこともあるが、「大パック」や「お徳用」といった表示はいまだ効果的。 |
複数個購入 | 「2個で○○円」。よく使われている手法だが、この方法の利点は、値引きしているのに客単価が上昇することである。複数種類の商品から選べるようにする方法もある(ジャガイモでもタマネギでも2個以上で○円引き)。 |
おまけ | おまけをつけるのも値引きの一種だ。ふつうの値引きで失われたであろう利益をおまけの費用にあてると考える。たとえば、トマトを買ったときに少量のバジルが付いていたらうれしいかもしれない。 |
飲食クーポン | 直売所内のイートインコーナーやレストランのクーポン券を添付する。たとえば、地元のお茶のソフトクリームが売られていたら、茶商品の購入時にソフトクリームのクーポンを付ける方法。あるいはその逆(ソフトクリームに茶商品のクーポンを付ける)。この方法のメリットは、イートイン商材のように直売所にとって粗利率が高い商品の方が大きな額の値引きがしやすいという点である。 |
つかみ取り | 大きな容器にたくさんの商品を入れて、消費者自身につかみ取りをしてもらうことでエンターテインメント性をプラスする方法。もちろん通常どおりのパッケージ(袋)で購入するよりもお得になるように価格を設定する、値引きの一種だ。傷がつきやすい品目には不向き。 |
レジプレゼント | 売れ残って廃棄してしまうくらいなら、レジで全員にプレゼントしよう(○円以上お買い上げの人という形やキッズ限定といった形もあり)。認知してもらうための試供品だと考える。できれば、生産者名やこだわりなどを伝えて、次の購入につながるようにしたい。 |
○○の日 | 例えば、毎月29日は「肉の日」などとして、特定の曜日や日にちを決めて特定商品の値引きをする。うまくやれば来店頻度を上げることができ、消費者に認知されれば、事前の広告宣伝費を削減できるメリットがある。 |
むしろ値上げすべきケースも?
さて、このように値引きの方法を紹介しましたが、当然のことながら、価格を下げないにこしたことはありません。それどころか、値上げを検討すべき場合もあることを知っておいた方がいいでしょう。
ミネラルウォーターはただの水なのに、砂糖や果汁の入ったジュースと同じくらいの価格で売られています。じつはミネラルウォーターは安すぎると売れないと言われているのです。
直売所でも、たとえば卵のような商材は、スーパーで売られている一般的な卵より安いようではいけません。「わざわざ直売所で買うべき良質の卵」であることをしっかりPRできれば、市場流通している卵よりも高く販売できるはずです。
この点については、以下の記事もぜひ参考にしてください。
ここで、出荷者がひとりしかいない珍しい野菜があまり売れていないとします。
出荷者は価格のせいだと思って、値下げしてしまうかもしれません。しかし、珍しい品目の商品が売れないのは価格のせいではないことが多いです。50円価格を下げる前にやってみるべきことはあります。
たとえば、消費者にとって見慣れない野菜であれば、レシピを付けてみてはどうでしょうか。それに手間がかかるということであれば、値下げではなく、むしろ50円値上げしてその手間の分のコストを吸収するのもいいかもしれません。
また、さきほど「増量」を値下げ方法のひとつとしてあげましたが、これは価格を据え置いて増量した場合なので、単位重量あたりの価格が値下げになっているわけです。そうではなく、単位重量あたりの価格はそのままに増量、つまり量を2倍にして価格も2倍にしてみたらどうでしょうか。
売り場が広い直売所の場合、商品そのものが埋もれてしまっているという可能性もあります。袋の大きさが大きくなれば、それだけ売り場で目立ちます。この方法は一考の価値ありです。
出荷者は多くの場合、売り場の現場感を持っていません。ですので、売れ行きが悪いとすぐに価格を下げようとしてしまいます。
でも、売れていないのは、お客様の目にとまっていないというシンプルな原因だったりします。
売り場を日々見ている直売所プロフェッショナルとしては、価格を下げる以外の方法はないのか、目を光らせているべきです。そして、値下げしか選択肢がないとしても、既に述べたような多様な方法があることを出荷者に知ってもらいましょう。
価格は商売のキモ。ですから、出荷者も直売所のスタッフも収益を上げるために最適な方法をいつも模索している必要があります。にもかかわらず、値段の書いてあるシールを書き換えることに終始しているお店が多いのは、じつに残念なことではないでしょうか。