コロナの前と後
世界中を突然襲った新型コロナウイルス。新しい生活様式など変化が求められていますが、中でも大きく変わったのがオンラインの世界です。
コロナ禍の前から、パソコンやスマートフォンを使ってセミナーやミーティングをオンラインで行えるZoomなどのツールはありましたが、その時はZoomでイベントを開催しても参加のハードルが高く、参加者は集まりませんでした。それが今はオンラインイベントが当たり前。オンラインのサービスも多様になり、さらに進化しています。
オンラインイベントやセミナーには私も積極的に参加しています。コロナ禍以前より今の方が忙しいくらいです。地方にいながら日本中、そして世界中の人とつながれる。「オンラインはしょせんオンライン、リアルとは違う」という声もありますし、実際その通りだと思います。しかしリアルタイムで相手の表情を見て話せるのは、SNS上のテキストや静止画を通したやりとりと比べるとコミュニケーションツールとしてかなり進んだ感があります。実際オンラインでやり取りをした後、リアルで会うと最初から深い話ができたりします。
今から紹介する3つは、数多くのオンラインセミナーに参加した私がその中でも農家として心からおすすめできるものです。農家、また農に興味のある人、進路に悩む学生、食関係の人にぜひ参加してもらいたいと思います。
1. 毎朝開催、車座座談会
こちらは日曜、祝日をのぞいて毎朝6時から8時まで開催。産直EC(イーコマース)のポケットマルシェのCEO (最高経営責任者)である高橋博之(たかはし・ひろゆき)さんが主催。参加希望者は前日に高橋さんのTwitterにコメントかダイレクトメッセージを送るとZoomのアドレスが送られてきます。
「気象危機と私たち」というテーマが通底しているのですが、解決方法のひとつとして、「都市と地方をかきまぜる」を提唱しています。こう書くと難しく感じるかと思いますが、参加すると気さくな雰囲気で初参加大歓迎。高橋さんは現地現場を大切にしていて、リアル車座座談会として47都道府県を5周しました(現在は6周目)。そのリアル車座座談会はオンラインセミナーとしても参加することができ、そこで出会った生産者、そして消費者ともつないでくれます。
実際、立命館大学食マネジメント学部の学生が、車座の縁で出会った生産者のところを訪ねています。大学もオンライン授業なのでパソコンひとつで授業に参加しつつ生産現場へ。行った先々で生産者がまた生産者を紹介してと、さらに縁がつながり現在15軒以上の農家をめぐっています。オンライン授業というと家にこもるものと勝手にイメージしていましたが、今の状況を逆手にとっての活動。将来飲食店を開きたいという彼女にとってはまたとない機会でしょうし、それを見て参加している大人も刺激をもらっています。
その学生だけでなく、他にも車座で出会った人同士が交流によって現実を変えています。私も毎朝のように参加しています。収穫時間なので後半は耳だけ参加になりますが、朝から元気をもらっています。時には北海道サロマ湖のカキ漁師、沖縄のコーヒー農家の参加もあり、日本全国につながっていることを実感します。
国際会議の講演にも招かれる高橋さんの話が無料で聞けるというか、対話できるというのはすごいこと。高橋さんは「朝6時から8時の時間に予定が入っている人は少ないはず、やる気があれば誰でも参加できる」と言います。時間や申し込みのハードルは高く感じるかと思いますが、そこを越えると広い世界とつながることができます。参加人数が増えてくるとFacebookライブなどのネット中継になっていく可能性もありますので、少し勇気を出して今のうちに参加してくださいね。
2. 食と農のもやもやゼミ──目的は「もやもやしてもらう」こと
「食と農のもやもやゼミ」は、「分かるようで分からない食の裏側」について、農業学部現役学生やOBが有志で開催しているオンラインイベント。食は毎日触れることなのに、その先の農業をはじめとする一次産業や、流通・消費の仕組みについて学べる機会が少ないのではないかという問題意識から始まったこの勉強会。月に1回程度の不定期開催です。参加無料。多くは日曜の夜9時から10時30分までとなります。
このセミナーの面白い点は「もやもやしてもらうこと」を目的にしていること。前提として正解の提示はなく、思いとしてフードシステムを少しでも考えてくれる人が増えたらいいなというもの。内容はその都度のテーマについてゼミのメンバーがパワーポイントで発表、そのあと数人に分かれて意見を共有し合うという形です。
これまで扱ったテーマは「有機ってなんだ?」「魚の未来は?」「動物の命を食べるということ」「フードロスってなんだ?」とかなり切り込んだ内容。生産者主催の会はどうしても主観的になるのでこういった議題は難しいのですが、生産者でも流通関係者でもない立場だからこそできているんだなと感心しています。毎回50人を超える参加者がいます。このゼミの特長は、発表と並行して参加者のチャットが盛り上がっていること。生産者、流通、食べる人、学生とさまざまな立場の参加者がそれぞれの思いを書き、それをゼミ主要メンバーが拾い上げる形で議論。生産者の参加は毎回1割から2割程度。だからこそ生産者の内輪では出てこない貴重な意見が聞けます。
ゼミ主要メンバー自体が学ぶのを楽しんでいるのが分かり、難しいことをチャーミングに伝えてくれています。生産者と消費者をつないでくれる新しいスタイルかも。これからのテーマも楽しみです。
3. The CAMPus(ザ・キャンパス)
The CAMPusは、「世界を農でオモシロくする」がテーマのインターネット農学校です。全国約70人の成功農家の暮らしと商いの知恵をワンコイン(500円)の有料ウェブマガジンとして約2000人の生徒に向けて配信しています。
成功農家の定義は「楽しい、格好いい、健康的、儲かる」の四拍子がそろったプロ農家。これまでの農家のイメージを変えてくれるものが多く、過去の配信を見ても面白いものばかりです。代表の井本喜久(いもと・よしひさ)さん、通称いもっちゃんが農家の魅力を引き出すのが天才的で、講義の中の動画を見るとつい引き込まれます。農業は楽しい。見ていてそんな思いがあふれてきます。
そしてThe CAMPusが今年から開講したのが「コンパクト農ライフ塾」。「⽬指せ!0.5haで年商1000万」をテーマに、「コンパクト農家の育成」に特化したオンライン塾です。1講座2時間×全10回の短期集中型。講師は農家に限らず、流通を含めた農業界のプロ中のプロが担当しています。
実は私も一度講師をしましたが、参加者に熱意があって、こういう農家の入り口があるんだと衝撃的でした。コンパクト農ライフ塾の参加費はそれなりにしますが、普段なかなか会えない人との縁ができるというのが特長です。受講者は最多で20人という少人数制なので講師との距離が近く、一方通行でなく話せるというのがお互いに親近感を生みます。物理的距離は離れていますが、精神的距離は近い。それがオンラインのいいところですね。
少しの勇気で広がる世界
オンラインセミナーは参加するのに躊躇(ちゅうちょ)する人もいますが、飛び込んだ先には世界が広がっています。家にいながらにしてできる知的冒険。ぜひ参加してみてほしいと思います。
ちなみに私もほぼ毎週土曜日の夜に「スナック車座」という形でオンラインイベントを主催しています。気軽なスナックの感覚で出入り自由。袖触れ合うも他生の縁というのを演出し、画面の前で飲食しながら楽しく開催しています。
オンラインで出会いのチャンスが増えました。ご縁はビジネスにもつながるし人生を豊かにしてくれるものだと思います。コロナ禍でもできることをやっていきましょう。
※ スナック車座への参加は