ナリワイ遊撃農家とは?
以前、和歌山県で土地を所有しない農家、原奈々美さんと運命的な出会いを果たしたコバマツ。

土地を所有しない農業を実践している原さんと運命的な出会いを果たす
実は、もう一人運命的な出会いをした人がいました。
ミカン畑で出会った原さんの隣にいる、なんだかどこかでお見かけしたことがあるお顔。
かつて「土地を所有せずにできる農業はないか」といろいろな事例を調べまくっていたコバマツ。
そのときに「ナリワイ遊撃農家という働き方を体現して、発信している人がいるんだー!」とナリワイ遊撃農家の存在は知っていました。出版されている本も何冊か読みました。
土地を所有しないで農業と関わる働き方について、いつか、お話聞いてみたいなぁ……。
でも、いろいろな地域に行っていて多忙な方だから、無理だろうなぁ……。
どこに行ったらお会いできるんだろう……。
と、ナリワイ遊撃農家に3~4年前から思いをはせていました。
そして今、目の前に見覚えのある人物が。
え、もしかしてこの方は……?
「ナリワイ 遊撃農家」でググってお顔を確認!
ナリワイ遊撃農家の産みの親、伊藤洋志さんやーーーーん!!
驚きのあまり口が開いたまま数秒フリーズ状態に。
こんな偶然ありますか?
取材せずにはいられません。早速インタビューをお願いしました!
■伊藤洋志さんプロフィール
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1979年生まれ。香川県出身。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了。大学院卒業後は人材情報サービス業を立ち上げるベンチャー企業に入社。毎晩ハーゲンダッツのアイスクリームを食べなければ寝られない程のストレスを感じ、自身の働き方に疑問を抱く。 後に農業関連雑誌のライターをやりながら、個人レベルから始めることができる「ナリワイ」を徐々に生み出していった。 現在は東京を拠点とし、主に書籍の執筆、床張りワークショップの運営、モンゴル・タイツアーの企画、遊撃農家等を柱にナリワイを行っている。著書に「ナリワイをつくる」「フルサトをつくる」等がある。 |
そもそも「ナリワイ」って何?

自分が参加したいと思えるようなモンゴル遊牧文化を深く知れる企画がないということで、自身で企画した生活文化を学ぶワークショップ

自分達で床を剥がして床を張り直すワークショップ

自身のナリワイの活動の考え方、実践方法などが書かれている

繁忙期の農家さんの助っ人、ナリワイ遊撃農家
現在は5つほどのナリワイを柱にしていて、細かく分けると10個ほどあるそうです。いずれも、大規模な資本に頼らずに自分の頭と体を鍛えて、やればやるほど技が身につくもの。また、自分が生活するうえで自給できるものもあります。
遊撃農家は地方の農家をめぐって手伝うナリワイ
ナリワイがわかったところで改めて聞いちゃいますが、ズバリ「ナリワイ遊撃農家」とはどのような働き方を言うのでしょうか?

ナリワイ遊撃農家イトウ農園のミカン販売ホームページ

こちらはウメ農家でお手伝いしたときの様子。収穫だけではなく、選別、発送の手伝いも行います
現在は、ミカン、ナシ、ウメ、モモ、サクランボの農家さんの繁忙期の助っ人としてお手伝いをしているそうです。口コミで遊撃先は増えていくとのこと。
そもそも伊藤さんってどんな人?
ナリワイの働き方にたどり着いたワケ
農学部にいたので、当初はそういった農業の仕事の求人サイトを立ち上げようと考えていました。
自分だけではなく、大学時代の友人達も、仕事でストレスを抱えて体調を崩したり、会社を辞めていったりする姿を見て働き方を考え直した伊藤さん。
ライターとして働きながら、徐々に、自身のナリワイを生み出し、育てていったそうです。
ナリワイ遊撃農家になったワケ
農業に携わるには定住しなければならないと思っていたので、取材のような移動のある仕事もしたかった自分には縁のない話だとあきらめていました。
地方ならではの仕事である、農業や伝統工芸、その他の職人の求人にスポットが当たらないことに課題を感じていた伊藤さん。ベンチャー企業やフリーライター等も経験し、紆余(うよ)曲折の末に、自らが、これからの時代に必要だと感じる働き方、ナリワイを実践していきました。
課題を外から解決するのではなく、自ら解決するための「答え」を実践して生きている姿に胸が熱くなりました。
「ナリワイ遊撃農家」が生む新たな出会い&現在の活動
卸売業者だとどうしてもできるだけ安く仕入れて売りたいということになりますが、あくまで農家なので適正価格に近づけるためにお客さんと関係性を作れるように努力します。食べた方の感想は、もちろん本職農家さんと共有します。
ナリワイ遊撃農家の存在を通じて、双方の関係性を作ることができるわけですね。
ナリワイがナリワイを生み出す。農作業着ブランドSAGYO(サギョウ)

風景を作っていく、農作業着 SAGYO
しかも「国産のものを食べよう」とか、「生産者と消費者をつなぐ流通」とか言っている割に、海外製造の服を着て作業をしていて、説得力がない。
だったら、自分で国内製造の農作業着を作ろうと思い、仲間とメーカーを立ち上げました。

学生時代は新型の着物を開発して展示販売したという経験を持つ伊藤さん。日本にもともとあった和服の作業着=野良着を現代版に、かつ機能性があるものに改良して作ったそう

購入者は、農業関係者も多いそうです。これは着ながら作業したくなります
ナリワイ遊撃農家として、実際に農作業をしているからこそ、
「こんな農作業着があったらよいのではないか」
と感じ、更に新たなナリワイが生まれる。
お金だけに頼らなくても、自分の技と知恵で、自分の生活を作っていく。
ナリワイは、やればやるほど、理想の生活を手繰り寄せることができるのではないかと感じました。
東京を拠点にナリワイをするワケ
これは都市部への流通文化そのものに問題があるからだと僕は考えています。
ナリワイ遊撃農家の活動によって実質重視が基準になる場を増やせれば、そういった農産物の破棄などの問題は解消されていくのではないかと考えています。地道ですけど。
都会こそ、ナリワイ遊撃農家のように、生産現場を知り、品質の良さを伝えることができる人が必要ですね。
もしも見た目にこだわらずに販売することができれば、農家さんはもっと農作業に集中できて、選別等の人手も必要なくなるかもしれません。
地方の課題を解決するためには都会の課題を解決していかなければ変わっていかない。
伊藤さんはそんな問題も感じていて、東京を拠点に活動しているそうです。
ナリワイ遊撃農家のすすめ
あとは、先日コバマツさんが取材した原菜々美さんなど、自分なりに活動している人はちらほらいるのではないかと思います。目立たないだけで。
遊撃農家という活動は、知り合いの農家さんとの縁がないと始まらないところはありますが、探せば友人の親戚とかくらいの範囲なら農家をしている方はいるんじゃないでしょうか。
「自分の時間と健康をお金に変える働き方」ではなく、「やるほどに技と知恵が身につくナリワイ」。伊藤さんのように「ナリワイ」として農業に関わることができれば、土地を所有せずとも、自給が可能になると感じました。また、伊藤さんのお話を通じて、都会での流通と農業の現場が切り離されてしまっていることの問題にも気づきました。
都会にいながら土地を持たずに実践できる「ナリワイ遊撃農家」。このような都会と地方を結ぶ農業は、地方の課題を個人レベルで解決していく一つの方法になっていくのかもしれません。