晴耕雨読は遠い世界?
晴れた日に農作業、雨の日は読書。いわゆる晴耕雨読は、農的暮らしをしたい人の憧れのライフスタイルではないでしょうか。ただ現実は甘くない。農業で生計を立てていくとなると自然の摂理にしたがってばかりいられません。特に近代の大規模農業では効率重視。雨で畑のコンディションが悪くても無理に作業することは多々あります。また人を雇うと仕事を生み出す必要がありますので悠長なことは言っていられません。
ただ従業員10人以上の規模になると、交代で休むことも可能になります。その点では従業員2~3人の規模のところが一番休めないかもしれません。代わりがいないという意味では小さい家族経営農家はその最たるものですが、一方で従業員がいないという点では自由が利きます。
実際、我が家ではコロナ禍以前には、最低年2回の家族旅行(海外旅行含む)に行っていました。仕事場と自宅が一緒なので、休みと決めても家にいるとつい仕事をしてしまいます。旅行に出るのは、現場を離れるのが一番リフレッシュになるからというのもありました。
ただ最初から休むことができたわけではありません。畑仕事はやろうと思えばいくらでも仕事があります。実際に私も最初の頃はガムシャラに仕事してました。そんな考えを変えてくれたのが家族です。「子どもが小さい時は二度とない。幸せになるのが目的で農家になったのに本末転倒ではないか」と妻に言われてハッとしました。
それから意識して休みをとることにしましたが、これがなかなか難しい。実践してきて思うのは小さい農家が休むためには2つの状態を整える必要があるということ。ひとつは仕事のやり方、もうひとつはマインドです。
休むことで売り上げアップ
従業員のいない家族経営農家は自由。休もうと思えば休めるはず。でも実際にはなかなか休めません。野菜や加工品を販売して生計を立てている以上、買い手がいます。そのため働き方の自由度を高めるには、販売方法を考えることが必要になります。
我が菜園生活 風来(ふうらい)の初期は、近隣での漬物と加工品の委託販売、そして朝市への出店からはじまりました。毎週、月、水、金曜は配達。片道30分ほどまでの範囲だったのですが、それでも数カ所回るので午前中いっぱいかかりました。そして日曜は朝市。目玉商品のよもぎ団子を朝3時に起きて仕込み、5時から8時まで販売。そしていつも畑仕事に追われていました。
なぜこんなに時間に追われているのだろう。そう思ってひとつ気づいたのは、車で配達している間は畑仕事も加工仕事もできないということ。思考の時間としてはいいかもしれませんが、実務は滞るばかり。そこで配達時間を減らすのを目的に、インターネット販売に本格的に乗り出しました。ネット販売の良い点は、注文を受けてから発送するということです。つまり予約販売となり無駄が出ません。あと送料はお客さん持ちということ。そして宅配便が集荷に来てくれること。配達時間もなくなり、その分畑仕事ができるようになりました。
あと、初期の頃からお世話になっていたのが自然食品の宅配グループです。風来の商品では主に漬物を取り扱ってもらっていました。愛知県、兵庫県、福岡県、地元石川県に拠点を置く、それぞれ独立したグループです。ただ、各家庭への配達の都合でどこの配送センターへも月曜午前着指定。つまりこちらからは日曜発送。小回りが利くのが風来の特長ということで、送料別でひとつからでも注文を受けていました。1回の発送量は少ないのですが、毎週日曜の午前に発送作業をしなくてはならず、朝市と重なるため早朝からお昼過ぎまでガッツリ仕事。当時は朝市と宅配グループ合わせて全体の売り上げの3割ほどを占めていましたが、このままでは日曜が休めないということで双方やめました。
かなり思い切った決断だったのですが、そうしたことで平日の売り上げが上がってきました。家族経営農家は生産も販売も自身がしていること。お客様からの感想で喜びの声をいただいた時は何事にも変えられない達成感があり、それが醍醐味となります。ただ、営業すればするほど自身が忙しくなってしまうというのがジレンマ。そして忙しくて時間に余裕がないと、新しいことが考えられなくなります。そういった意味でも休むことはとても大切です。
小さい農家が休むためのマインドと販売方法
こうやって日曜に休める体制にしていったのですが、実際に休むためにはもうワンステップ必要でした。それは心配なく休むためのマインド(意識)を得ること。ここがとても大切でした。
自営業は仕事をしないと稼ぎはありません。それもどんなに時間をかけても売れないと意味がありません。特に農業は自然相手なので、手をかけても気候や害虫、病気などによって収量も分からない。つまり先々がとても不安。そこで物理的に休めても心はなかなか休まらず、つい仕事してしまいがちです。先述したように田畑にはいくらでも仕事はありますし。
そんな気持ちを楽にしてくれたのが「売上基準金額」という考え方です。詳しくは、この連載の「【ゼロからはじめる独立農家#21】幸せ農家になるために、まずお金と向き合う」を参考にしてもらえればと思います。簡単に言うと、毎年その年に必要な所得から計算して売り上げの基準値を決めて、その基準値に対して上下5%以内を目指すというものです。基準金額の5%を超える売り上げがあっても反省する。それが最大の特徴です。
目指す売り上げにさえいけばいいので、そこに達成できそうなら心に余裕が出てきます。自営業者にとって売らなくていいと思えることはとても楽。そして実際に取り入れてみるといろいろな気づきがありました。その最たるものが、どんなステータスの高いお店に売るよりも、直接個人宅に販売する方が販売手数料もかからず利益率が高いということです。
その気づきから個人宅重視のネット販売に力を入れるようになりました。情報の発信も業者向けではなく、あくまで個人への訴求にこだわっています。お届けする野菜がこんな感じで育ってますといった畑の情報や、家庭で簡単にできる料理法などを中心にアップしています。Twitterのアカウント名にも「野菜セット(家庭用専門)」と併記するぐらいです。
販売を個人宅中心にすることで、それまで以上の日数を休むことが可能になりました。業者や飲食店への卸だとこちらの都合を優先することはなかなかできませんが、個人宅であればネットで注文が入った時にある程度はこちらの都合で発送する日を選べますし、受付を休止すれば連休も取れます。毎週決まった曜日にお届けする定期便のお客さんにも、あらかじめ事情を話せば大概大丈夫。安心して旅行に出られます。
実践してきて思うのは、家族経営×ネット販売×個人宅は利益率的にも休みを取るためにもとても有効だということです。休んでいいというマインドと縛られない販売方法。これこそ小さい農家が休むためのコツといえます。