短い時間で大きな効果
以前は人件費がかかるということで敬遠していた雇用ですが、いざやってみるといろいろな効果がありました。ただ通年雇用となると、その人件費を稼ぐために仕事を作り出すという本末転倒になりかねません。また常時雇用していると晴耕雨読のような自由な働き方も難しくなり、小回りが利くのが最大の特徴である小さい農業の良さが失われてしまいます。そこで我が菜園生活 風来(ふうらい)ではパートタイムのみの雇用をしています。
人を雇うことで作業効率が上がり、農産物、加工品の生産量が増え、売り上げアップにつながることはもちろんですが、独りよがりになりがちな家族経営に外からの空気が入ることで思わぬ気づきがありました。パートさんの声から商品の改良につながったものも数知れず。また、仕事を教えることが、これまでの振り返りになり、改善点も見つかりました。
パートに入ってもらうのは本当に短い時間ですが、パートの人が来る時に合わせて仕事を考えることで、これまでの作業の整理ができました。風来の場合、これまで毎日野菜セットや漬物などの加工品の発送をしていたのですが、野菜セットの発送を月・水・金曜、加工品の発送を火・木・土曜に分けることで、やることの指示がしやすくなり、それが全体の効率アップにもつながりました。
また、風来では基本、午前中は発送作業、午後は畑仕事だったのですが、そこをさらに明確化。午前中に入ってもらう人には発送の手伝い、漬物作りや漬物の袋詰めなどをお願いし、午後に入ってもらう人には畑仕事を、というように役割分担をしました。
人に仕事をまかせることで時間ができ、新たな商品を開発することができました。イチジクのコンポートピクルスやリンゴとビーツのピクルス、カブのキムチなどの人気商品も生まれました。特にイチジクのコンポートピクルスは産直ECサイトのポケットマルシェ、メルカリShopsで1週間に100袋以上売れるヒット商品になりました。また加工品のストックがあることで、販売にも力を入れられるようになりました。それまでは営業をすればするほど、商品を作るために自分が忙しくなってしまうことから、どこかでリミッターがかかっていたと思います。雇用することで心に余裕が生まれ、それがいい循環をもたらしています。
募集方法~セカンドパートという考え方~
仕事をしてくれる人がいることは大きな力になりますが、先述したように、雇いすぎると人件費がかかり、また自由度のバランスがとれなくなります。短い時間で効率良く働いてもらう。そのために週の中でどこに入ってもらうのが一番いいかを考えました。風来では雇用する時間を午前は9~12時、午後は14~17時の3時間として、それぞれを1コマと考えています。
具体的に現在は、月曜の午後、火曜の午前、木曜の午前、木曜の午後の計4コマに、それぞれ1人ずつ来てもらっています。月~土の間に全部で12コマあるので、スタッフが入ってくれるのは週の3分の1となりますが、これで十分助かっています。月・木曜の午後は同じ人に来てもらっていますが、火・木曜の午前はそれぞれ違う人です。ちなみに午後の畑仕事は雨で休みにすることもあります。
週1回3時間では大した稼ぎにはならず、また雨の日は休みになるかもしれない。そんな条件で「よく人が来てくれるな」と思われるかもしれませんが、「セカンドパート」ならそれができます。
「セカンドパート」は私の造語です。ファースト、つまりメインになるパートや仕事を持つ人が、その空いている時間に来てくれるというもの。今来てくれている人のメインの仕事は、ヨガの先生、駐車場の受付、セミプロカメラマンです。メインの仕事を優先してもらうので、思った日に入ってもらえないこともあります。それもお互いさまと、双方心理的負担がないようにしています。
1コマに入ってもらうのはそれぞれ1人。私と1対1か、私達夫婦と2対1になります。手際がいいとか仕事覚えが早いのはもちろん大切ですが、それ以上に考え方が近いことなど、相性を大切にしています。
でも、そんな人柄までは、実際に雇ってみないと分からないというのが今までの常識。そんなところを見える化したいということもあり、風来ではパート、バイト募集はFacebook(フェイスブック)を使用しています。同じSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でもInstagram(インスタグラム)、 Twitter(ツイッター)は使いません。
その理由は、Facebookは実名登録なので信用度が高いこと。何よりいいのが応募してきた人のプロフィールなどの基本情報が詳しく分かるので、簡単な面接をしたのと同じぐらいの情報が得られることです。逆に応募した人は私のプロフィールやタイムラインの投稿を読みこんでいる人がほとんど。その上で申し込んでいるので、こちらへの理解度も高いという特徴があります。実際の募集はFacebookの投稿で行い、Messenger(メッセンジャー)で連絡をもらっています。
いずれにせよ、発送作業などはともかく、農業は野良仕事に理解がある人でないと長続きしません。逆に短時間でも入りたいと言ってもらえるのは農に魅力を感じているからだと思います。そういった意味では、広く募集をかける時でも、農業専門の求人サイトを利用することをおすすめします。
働いてもらいながらのファンづくり
雇用とは少し違いますが、人手確保の手段は他にもあります。農業の場合は研修で学びたいという人もいるので、「援農」として手伝ってもらうスタイルもあります。募集のためのツールは多様化していますが、その中でおすすめしたいのが「おてつたび」です。
「おてつたび」とは、お手伝い(仕事)と旅を掛け合わせた造語。地域の短期的・季節的な人手不足で困っている農家や旅館などの事業者と、「知らない地域へ行きたい!」「仕事をしながら暮らすように旅したい!」という理由で地域に興味がある若者をマッチングするWebプラットフォームです。
そんなおてつたびの中で、受け入れ先として農家はとても人気です。それだけ農に対する興味が高まっている証拠だと思います。そんなおてつたび、交通費は本人持ちですが、受け入れる側はバイト代の支払いのほか、宿泊や食事の手配も必要になります。一般的な雇用と比べ負担は大きいのですが、農繁期の短期の人手不足の解消手段になってくれます。また登録者は若い人が大半で、多くの場合、SNSを通して農園の魅力を外に発信してくれます。そのことでその農家やその地域のファンづくりに一役買ってくれています。
ファンづくりといえば、稲作農家の友人のところでは、働いているパートさんが、分けてもらったお米がおいしいと口コミでどんどん広げたことがきっかけで、インターネット販売や宣伝を一切しないにもかかわらず、今では収獲した米の全量をほぼ直売で売り切っています。風来でも夏のお中元、冬のお歳暮時期にはパートさんの友人など多くの地元の人が商品を使ってくれるようになりました。
小さい農家において、パートさんは働き手であると同時にセールスマンになってくれるという意識も必要かもしれません。働いている人が「良い」というのが、何よりの説得力ですよね。
おてつたび
https://otetsutabi.com/