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「まずいバーガー」試食でベクトル合わせ モス流・農家と二人三脚する方法【大企業は農業を変えるか?第2回】

「まずいバーガー」試食でベクトル合わせ モス流・農家と二人三脚する方法【大企業は農業を変えるか?第2回】

シャキシャキの野菜が印象的なモスバーガー。その裏側には並々ならぬ情熱があった?
群馬、青森、静岡の圃場(ほじょう)から野菜を通年納入する農業法人との熱い信頼関係とは? 大企業が農業に参入する際のポイントは?
自身も青果流通のベンチャー企業を経営する筆者が送る、連載「大企業は農業を変えるか?」の第2回。

業界に先駆けて1997年には産地との直接取引を開始したモスフードサービスは、外食業界でも特異な存在だ。その取引先の中心的な存在に、群馬県を中心に全国で70軒以上の農家の野菜を取りまとめて出荷する農業法人野菜くらぶ(群馬県昭和村)がある。

今回、モスフードサービスの産地連携のキーマン伊東清(いとう・きよし)さん(マーケティング本部商品流通部長)と、野菜くらぶ代表取締役社長・澤浦彰治(さわうら・しょうじ)さんに話を聞いた。

モスバーガー店頭の黒板の裏側

──モスバーガーの店頭の黒板に野菜の生産者の名前が書いてあるのは、読者のみなさんも日ごろ親しんでいるところだと思います。今でこそ、店頭に農家の名前があることは他社でも見かけますが、当時はかなり画期的なことでした。これはどういう経緯で始まったのですか?

伊東:当社では1997年に産地との直接取引を全国的に展開し始めたのですが、黒板への産地記載のきっかけは、フランチャイズ・オーナーの発案だったんです。産地の情報を伝える情報誌を各店舗のオーナー・スタッフ向けに配っていたんですが、これをお客様に掲示するオーナーがいまして。お客様からの評判が良くて会話のきっかけにもなっているというので、全国的な取り組みにしたのです。

黒板

モスバーガー店頭の生産者の表記。温かみのある手書きだ

──そうだったんですね。その黒板では「群馬県昭和村」という表記もよく見ます。これは野菜くらぶが契約農家の商品を取りまとめて出荷しているものですね。

澤浦:そうです。実は、新聞紙上で、モスバーガーが農家との直接契約を始めるというニュースを見たことがきっかけだったんです。で、当時は野菜くらぶの農家がまだ7軒くらいのときだったのですが、販路を広げたい時期だったんで、電話してみようかと。なんのツテもないので、会社の代表電話にかけたのに、きちんと担当部署につないでくれました。

伊東:そうでしたね。

澤浦:野菜くらぶの紹介をすると、健全な土づくりをモットーとする野菜農家約75軒を組織して、トマトやレタス、ほうれん草などを出荷しています。大型のトラックが止まる出荷場も自前で整備しています。ネットワークしている生産者は群馬県内だけでなく、青森県や静岡県、岡山県などに広がります。レタスを通年で出荷できる農業法人は、日本でもかなり珍しいんじゃないかな?

伊東:通年で安定して出荷してもらえることでとても助かっています。

──地元だけではなく、青森や静岡からも出荷しているとは驚きです。遠隔地での生産は勇気がいる決断だったのではないですか?

澤浦:これは伊東さんに言われたことなんですけど。まだ群馬だけで生産していたあるとき、夏にレタスを安定供給することが大きな課題になっていて。で、生産者が集まって対策を練る会議があって、個々の生産者は来年の栽培方法はこうしてみようとか、いろいろと議論していた。その会議の終盤で、伊東さんが「生産者ひとりひとりは努力していますけども、野菜くらぶは会社ですよね。会社としてはどういう取り組みをするんですか?」と。これはかなり衝撃でした。

伊東:そんな言い方でしたか? まあ、当時ははっきりといろいろな意見を言い合ってましたね。

澤浦:それで、「ああ、そうだな。会社としても努力しないとな」と思って、リレー出荷による安定供給を強みにすべく、群馬と気候の違うところでも作ろうと。全国いろんな産地を見に行きました。遠くは鹿児島とか和歌山とか。で、いろいろ検討した結果、青森、次に静岡でやろう、ということになりました。新規就農したいという若者にそれぞれ農業のイロハを教えたうえで、各地域で就農してもらう形で。

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澤浦彰治さん

野菜くらぶ代表の澤浦彰治さん

──モスバーガーが直接取引を始めてから9年後、2006年に、モスフードサービスと野菜くらぶが共同で、新しい農業生産法人サングレイス(現モスファーム・サングレイス)を立ち上げています。大手外食が生産にまでタッチするということの先駆けだったかと思います。

伊東:はい、当時の外食チェーンではかなり稀有(けう)な例だったんじゃないでしょうか。サングレイスは、モスバーガー用のトマトを栽培しようということで立ち上げた農業生産法人です。当初から澤浦さんのネットワークを活用し、群馬だけでなく、静岡にも圃場を持つことで、通年でトマトを供給できることを目指してきました。

澤浦:栽培方法は、「隔離土耕」という方法を採用しました。ふつうの土耕は病気のリスクが高いですが、土で作ったおいしさは大事にしたいので、畝ごとに土を区切った形にしています。昨年度は年間約600トンのトマトを出荷しました。

サングレイス圃場

群馬の圃場にはトマトハウスが約20棟ある

レタス数百ケースを当日納品

──設立から15年経っていかがですか?

澤浦:正直なところ、経営的にはまだまだ成功しているとはいえません。今期、ようやく黒字になりそうといったところです。でも、農業は10年から15年のスパンで考えるものですから。人材の教育だって10年くらいかかりますし。なので、サングレイスはこれからの会社ですよ。

伊東:なかなか黒字にならなくて、澤浦さんには苦労をかけているとも思っているんですが、澤浦さんからはほんとうに弱音を聞いたことがないですね。そして、澤浦さんは、私たちがやってほしいことを、いつも実現しちゃうんですよね。

──どういうことですか?

伊東:当初、野菜くらぶとはトマトを少量取引していたんです。いま大きな取引になっているレタスは、別の群馬県のグループに頼んでいました。ところが、諸事情でそのグループからの出荷が急に止まってしまいまして。困って澤浦さんに相談したところ、澤浦さんが知り合いの農家に声をかけて、納品してくれたんです。即日、数百ケースもの量を、です。

澤浦:そのときに声をかけた農家が、今も当社の主力となってくれていますね。

──当日に納品とは、すごい行動力ですね!

伊東:澤浦さんがかなえてくれたのはそれだけではなくて、さきほど出た、通年でレタスやトマトを供給してほしいという私たちの要望もそうです。あと、レタスを真空予冷装置にかけてから出荷してほしいということも実現してくれました。

澤浦:いい思い出ですね。自作したんですよ(笑)。沖縄まで鮮度を維持してレタスを送るのに、真空予冷装置が必要だということで。真空に関する本とか片っ端から読んで、近所の鉄工所に部品を作ってもらったりして。1000万円くらいかかったかな。それで沖縄にも送れるようになりました。お客さんの課題を解決するのが面白いんです。

あえておいしくないハンバーガーを食べてもらった

──まさに二人三脚という両社ですが、外食大手と農業、そのようにうまくいくケースは少ないと思います。どうしてうまくいっているのでしょうか?

澤浦:モスフードサービスさんが理念先行型の会社だからじゃないでしょうか。担当が簡単に変わったりしないし、変わったとしても引き継ぎがしっかりしています。他の会社だと、異動で来た人がまったく違う考え方で、引っかきまわした揚げ句に、また別の部署に行っちゃうなんてこともあるようですから。

伊東:そうですね。モスフードサービスは、他のファーストフード・チェーンとは出発点が異なり、脱サラした創業メンバーが、東京の板橋区成増で、たった1つの店舗から始めた会社です。だから、「関係する皆様の力を借りて広げることができた」という感覚が社内でも共有されていると思います。

澤浦:モスバーガーのお店は基本的にフランチャイズで、オーナーさんとの協力関係がつねに大事になります。そういうオーナーさんとの信頼関係を大切にする社風が、農家との関係づくりにもつながっているのではないかと思っています。

伊東:なるほど、そうかもしれませんね。自分の会社のことですけど気づいてなかったです。

──そうした信頼関係をベースに、日ごろはどんなやり取りをしているのですか?

澤浦:はっきりとダメなものはダメと言ってもらっています。その姿勢は助かりますね。

伊東:取引をはじめた当初は、なかなかにピリピリした関係でもありましたね。どうしても産地の都合と、私たちが求めているものが異なってしまうんです。たとえば、レタスだと、産地では1反あたりのどのくらいの重量が取れるかを考えている。だからずっしりとしたレタスがいいレタスという考え方なんですね。でもこっちからしたら、硬くて使えないんですよ。で、いちど農家のみなさんに、野菜くらぶ本社近くの沼田にあるモスバーガーに集まってもらって。

澤浦:ああ、そんなこともありましたね。

伊東:そこで、あえておいしくないハンバーガーを食べてもらったんですよ。みなさんのレタスを入れたハンバーガーはおいしいですか?って。そういうことの繰り返しで、私たちの要望を伝えていきました。

伊東清さん

モスフードサービスの伊東清さん

──モスフードサービスの品質にかける意気込みが伝わるエピソードですね。そもそも、どうして農家との直接契約を始めたのですか? 安定的な調達なら、市場ルートが優れているように思います。

伊東:最初のきっかけは玉ねぎでした。主力ハンバーガーメニューの「モスバーガー」は春先にクレームが多かったんです。その理由は、玉ねぎがえぐいから。モスバーガーはミートソースにダイスカットの玉ねぎをたくさん使うのですが、春先はどうしてもえぐみのあるものしかなくなってしまうんです。夏に収穫して、保管する期間が一番長くなる季節ですね。当時は近隣の八百屋さんなどから納入してもらっていたんですが、春先に良いものはないと。じゃあ、自分たちで作れないか、ということで研究を始めたのが1995年のことです。

──味へのこだわりが出発点だったのですね。

伊東:で、玉ねぎの主産地である北海道をはじめ、全国の農場を見るなかで、野菜の味に大事なのは、肥料をやりすぎないとか、土づくりが非常に大事だなということが分かりました。そうすると、仲卸さんに土づくりで野菜を指定することはできないので、おのずと情熱のある農家さんと直接取引しようという流れになりました。1997年に具体的な取り組みが始まり、澤浦さんから電話をいただいたのもその頃ですね。現在では、主力野菜であるトマト、レタス、キャベツの大部分を指定産地として登録した農家さんから調達しています。

モスバーガー店舗

モスバーガーの店舗数は1251店舗(国内のみ、2021年9月末時点)。そのすべてに農家から直接調達した野菜が届く

──インタビューの最後に、これから農業に参入しようという大企業にアドバイスがあったらお願いします。

伊東:「農家と一緒に汗を流す」ということに尽きるのではないでしょうか。これは一緒に農作業をするという意味ではなくて、相手に努力を求める分、こちらも努力をする、ということですね。

澤浦:いま農業はブームと言ってもいい状況です。でも、私はバブルのときに就農したんですけど、当時は農業は3K産業と呼ばれていてまったく注目されない産業だった。だから、とりあえず農業に関わろう、という今の潮流には違和感がありますね。農業人口が減っていて、耕作放棄地があって、そういう一部の数字だけを見ると参入したらいいことがありそうだ、となるのでしょうが。簡単な気持ちではやっていけない世界です。10年単位でものごとを考えられないと難しいでしょうね。

取材後記

今回のインタビューの録音をあらためて聞いていると、子どもの笑い声や泣き声が混じる。野菜くらぶの応接室の隣に、従業員用の託児所があるからだ。
託児所を持っている農業法人が日本にどれほどあるだろう。
野菜くらぶは、いつも10年後、20年後を視野に入れている。

一方のモスフードサービスは、フランチャイズ・オーナーとの信頼関係がベースの会社である。
外食企業が品質に妥協しないことは当たり前といえば当たり前だが、他者(オーナーや農家)を巻き込んでそれを実現するのは、気の遠くなるような作業である。けれども、モスフードサービスにはそれをいとわない社風がある。
ちなみに、地域限定メニューには地産地消の取り組みもあるのだが(たとえば東京都であれば、小平市産のブルーベリーを使ったシェイクを発売している)、これもオーナーの集まる会議で提案されたアイデアなのだそうだ。

本連載の第1回「なぜ、最大手不動産企業が農業に? キャベツ参入のウラに見た、壮大な野望」でも10年単位というキーワードを提示したが、いざ10年間付き合うとなれば、相性というものが大事になる。恋愛と同じである。
しっくりとくる相性が、野菜くらぶとモスフードサービスの間にはあった。

では、相性とはなんだろう。
端的に言えば、価値観が共有できるかということだ。
澤浦さんから、モスフードサービスについて、「理念先行型」というキーワードが出た。当然の前提として、澤浦さんの会社もまた理念先行型なのである。
その理念が合致して今に至っている。

そして、大企業の場合、創業者や社長にそれなりの理念があったとしても、それが現場レベルに浸透しているかが問題となる。
社内への理念浸透は、古今東西、すべての企業の課題。農業という1年や2年では結果が出ない特殊な分野に参入したとき、とくにそれが問われることになる。

※ 本稿は個別に取材したものをインタビュー形式にまとめたものです。

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