農を人気ある職業へ
前回「農業、ぶっちゃけいつまで続けたい?」というテーマで話し、参加者全員が「農を一生涯の仕事にしたい」と盛り上がりました。
参加者メンバーはこちら
- 林農産代表、林浩陽(はやし・こうよう)さん 61歳
- 土磨自然農園代表、横島龍磨(よこしま・たつま)さん 52歳
- たけもと農場代表、竹本彰吾(たけもと・しょうご)さん 38歳
- 筆者:自称日本一小さい農家、菜園生活風来(ふうらい)代表、西田栄喜(にした・えいき) 52歳
今回はさらに話を進め、農の可能性、未来について具体的に話してもらいました。
普段から若い人の動向を気にしています。今、農業を仕事にしたいという人がどんどん増えていて、地方行政もIターンやUターン支援をうたってる。ただ、実際に農家になりたいという人が相談に行くと「農業なめとんのか、事業計画書持ってこい」と言われてしまうなど、かなりハードルが高い。
農業自体の魅力がないわけではなく、問題はいざ始めようとしてもすぐにできないこと。少量多品種の農家になりたいと思っても、行政に相談にいくと、伝統野菜や地域の特産野菜を育てて、市場出荷することが奨励されるなど、ミスマッチも起こっているように感じます。
竹本さんが言われた「ミスマッチ」はあると感じています。何も知らずにトマトや小松菜などの施設園芸をすすめられて、ビニールハウスや農機などの購入によって大きな借金をかかえて、首がまわらなくなって離農した人を何人も知っている。農家になりたい人も、漠然と「農家になりたい」ではなく、どんな農家になりたいかという深掘りをすることが必要ですね。
そんな就農相談で多いのが孫世代。「おじいちゃんの後を継ぎたい」というのが増えている。私がホンダを辞めて農家になった時、それはもう周囲の目は冷たかった。「人生捨てとる」とよく言われた。バブルの時代はまさに農業氷河期時代。その時大人になっていた世代は、お金至上主義の競争社会から洗礼を受けている。その感覚はなかなか抜けないので、バブル世代よりも若者世代に目を向けた方がいいかも。
あと農家自身の問題もある。日本の農家はお客さんより霞が関を見ている人が多い。米価や補助金も大切だけど、そこばっかり見てる人は魅力が少ない。
竹本くんは若い世代とつきあいがあるけど、どう思う?

25年以上続けている林農産の社長日記。信頼の証にも
以前、人からの紹介で、広告代理店に勤務している人に、もみすり作業を手伝ってもらったことがあります。もみすりは機械の音もうるさく、30キロの米袋を移動させるので、体力的にも厳しく単調で重労働。でもその人から「一定のリズムのノイズがあって、途中から座禅の無の境地のような感覚になりました。デスクに座っているときより頭の回転がよくなり、いろいろなアイデアが出てきました」と言われて驚いたことがあります。
まずはこんな感じでガッツリ農作業をしてもらうのではなく、体験してもらうのがいいと思う。
※ 短期的・季節的な人手不足で困っている農家や旅館などと、地域に興味がある若者をマッチングするWebプラットフォーム。
あと同じ就農でも、独立した農家になりたいのか、土に触れるのが目的なのか、単に仕事のひとつとして捉えているのかによっても違うので、そのあたりの整理も必要かも。
チャーミングにつきあい、チャーミングに情報発信
ちなみに今は街なかの方が無農薬栽培がしやすい。街なかだと農薬をまくとクレームが来るようになった。あとシカとかイノシシもやってこない。まあ迷惑な人間はいるけど……
退職金をつぎ込んでまで、また奥さんと別れてまで就農するなんて人もいたけど、そんな人は大抵失敗する。それは農業をゴールにしているから。だから失敗した時のダメージが大きい。豊かな人生を送るための選択肢のひとつと思ってもらいたい。
でも最近は相談にくる人の心構えが、いい意味でとてもゆるくなった。特にコロナ禍で増えたのが、女性からの問い合わせ。女性は「農ってどうなのか、まずは知りたい」「自分でできる範囲で試したい」「見てみたい」といった感じで、逆にとてもたくましいと思う。
それに女性は共感性が高いからSNSでの情報発信にも向いてるし、売る能力があるので、夫婦でやる場合は彼らのように奥さんを前面に出すというのはとてもいいと思う。
竹本さんのところは男女問わず、就農相談どころか、たけもと農場で働かせてほしいという人が多いみたいだけどなぜ?
また、たけもと農場のインスタがおしゃれなんだよね~。

たけもと農場のインスタグラム。女性目線でやさしい雰囲気
未来へのチャレンジ
その事業計画を今、実際に進めてます。パートナーとして乗り気の企業さんもいるので、これから前に進めていきたい。農が誰もの生活の一部になればと思う。

横島さんが名古屋市内で経営しているイタリアンレストラン、Argento Italiano(アルジェント・イタリアーノ)
もうひとつはメディア事業ですね。ポッドキャストなどを通して、農家の事業承継の紹介やハウツーを発信していく。急な継承でダメになる農家もたくさんいるので、そんな人達の力になりたい。それ以外にも気づきを与えるメディアとして農家の立場から伝えたい。
割合より分母を増やすのがいいと思うので、今のチャンネル登録者数2万人のところを10万人まで増やしたい。10万人になるとYouTubeから銀の盾をもらえ、注目度が上がる。そのためにもこれから欠かさず動画配信していきたい。
編集後記
農業自体に魅力を感じている人は多くいるので、あとはどうマッチングしていくか。そのためにも農家も情報を出すこと、また実際に行動することがいかに大切か、この3人にあらためて教えられました。それぞれの未来のビジョンも、また機会があれば聞いてみたいと思います。前向きな仲間がいると勇気づけられます。