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現役農家4人の本音座談会 農業の魅力の伝え方とは?

西田 栄喜

ライター:

現役農家4人の本音座談会 農業の魅力の伝え方とは?

「気づいた人は農に向かう!」。以前から筆者が唱えている言葉ですが、近年農への関心が高まって、まさに「農に向かう」人が増えてきています。ただ実際に農家になる過程は、まだまだ大変なのが日本農業の現状。そんな中、それぞれ立場の違う現役農家4人が農の魅力の伝え方、また日本農業の未来について語り合いました。

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農を人気ある職業へ

前回「農業、ぶっちゃけいつまで続けたい?」というテーマで話し、参加者全員が「農を一生涯の仕事にしたい」と盛り上がりました。

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参加者メンバーはこちら

  • 林農産代表、林浩陽(はやし・こうよう)さん 61歳
  • 土磨自然農園代表、横島龍磨(よこしま・たつま)さん 52歳
  • たけもと農場代表、竹本彰吾(たけもと・しょうご)さん 38歳
  • 筆者:自称日本一小さい農家、菜園生活風来(ふうらい)代表、西田栄喜(にした・えいき) 52歳

今回はさらに話を進め、農の可能性、未来について具体的に話してもらいました。

西田(筆者)

今回のテーマは日本農業の未来についてです。明るい未来に欠かせないのが若い人のエネルギー。まずは、どうすれば若い人の新規参入が増えるのか? これについて、クロストークで自由に意見交換できればと思います。
私が全国の4Hクラブ(農業青年クラブ。全国に約850クラブ、約1万3000人のクラブ員で構成)の会長に就任した時に掲げたスローガンが「農業をなりたい職業ナンバーワンに」でした。

普段から若い人の動向を気にしています。今、農業を仕事にしたいという人がどんどん増えていて、地方行政もIターンやUターン支援をうたってる。ただ、実際に農家になりたいという人が相談に行くと「農業なめとんのか、事業計画書持ってこい」と言われてしまうなど、かなりハードルが高い。

農業自体の魅力がないわけではなく、問題はいざ始めようとしてもすぐにできないこと。少量多品種の農家になりたいと思っても、行政に相談にいくと、伝統野菜や地域の特産野菜を育てて、市場出荷することが奨励されるなど、ミスマッチも起こっているように感じます。

竹本さん

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愛知県春日井市では、5~6年前ごろから農家がどんどん減っています。やりたい人がいても、どこに相談すればいいのかが分からないよう。私が農家になったのは、食産業にいて、このままでは原材料の農産物を育てる農家がいなくなるのではないかという、危機感がキッカケ。

竹本さんが言われた「ミスマッチ」はあると感じています。何も知らずにトマトや小松菜などの施設園芸をすすめられて、ビニールハウスや農機などの購入によって大きな借金をかかえて、首がまわらなくなって離農した人を何人も知っている。農家になりたい人も、漠然と「農家になりたい」ではなく、どんな農家になりたいかという深掘りをすることが必要ですね。

横島さん

農Tuberとして2万人のチャンネル登録者数がいるからなのか、就農相談が最近増えてきた。「それぞれの自治体に就農相談所があるよ」と言うと「知らない」「難しそう」「敷居が高い」という答えが多く返ってくる。

そんな就農相談で多いのが孫世代。「おじいちゃんの後を継ぎたい」というのが増えている。私がホンダを辞めて農家になった時、それはもう周囲の目は冷たかった。「人生捨てとる」とよく言われた。バブルの時代はまさに農業氷河期時代。その時大人になっていた世代は、お金至上主義の競争社会から洗礼を受けている。その感覚はなかなか抜けないので、バブル世代よりも若者世代に目を向けた方がいいかも。

あと農家自身の問題もある。日本の農家はお客さんより霞が関を見ている人が多い。米価や補助金も大切だけど、そこばっかり見てる人は魅力が少ない。

竹本くんは若い世代とつきあいがあるけど、どう思う?

林さん

林農産の社長日記

25年以上続けている林農産の社長日記。信頼の証にも

私が今思っているのは、農に労働ではなく、交流から入ってもらうということ。「おてつたび」(※)を使って若い子に来てもらっているのも、労働力だけではなく、社員の刺激にしたいというのがあります。社員も固定されたメンバーで仕事していると忙しい時に愚痴が出たりするけど、外から来た若い子が「風が気持ちいいですね」と言うと、社員も「そうか~風が気持ちいいのか~」と、魅力がある仕事だと再発見できる。

以前、人からの紹介で、広告代理店に勤務している人に、もみすり作業を手伝ってもらったことがあります。もみすりは機械の音もうるさく、30キロの米袋を移動させるので、体力的にも厳しく単調で重労働。でもその人から「一定のリズムのノイズがあって、途中から座禅の無の境地のような感覚になりました。デスクに座っているときより頭の回転がよくなり、いろいろなアイデアが出てきました」と言われて驚いたことがあります。

まずはこんな感じでガッツリ農作業をしてもらうのではなく、体験してもらうのがいいと思う。

※ 短期的・季節的な人手不足で困っている農家や旅館などと、地域に興味がある若者をマッチングするWebプラットフォーム。

竹本さん

西田

農家にとっては大変だと思うことも、受け取り方は人それぞれ。外から来た人と触れ合うことで農家も刺激になりますね。

あと同じ就農でも、独立した農家になりたいのか、土に触れるのが目的なのか、単に仕事のひとつとして捉えているのかによっても違うので、そのあたりの整理も必要かも。

チャーミングにつきあい、チャーミングに情報発信

西田

竹本さんの言うように、あまり重く考えずにまずは体験してもらうのもありですね。さらに仕事としての農業を魅力あるものにということで、林さんのところは早くから減農薬などに取り組んできましたが、周囲との摩擦はありませんでしたか?
農業は地域社会と密着しているから、そのあたりはチャーミングに。「なんで農薬まかなかった?」と聞かれたら、「昨日消防で飲みすぎて」とか「天気悪くて、風が強くてね」なんて繰り返してたら言われなくなった。正面から環境のためとか言ったらぶつかってしまってたと思う。

ちなみに今は街なかの方が無農薬栽培がしやすい。街なかだと農薬をまくとクレームが来るようになった。あとシカとかイノシシもやってこない。まあ迷惑な人間はいるけど……

林さん

西田

それができたのは林さんの人柄もあるのかもしれませんね。私も、独立する前も後も林農産には大変お世話になりました。林農産は、研修生としてこれまでも多くの人を受け入れてきましたよね。
そう、うまくいく人、うまくいかない人がいるね。新規就農の最初は「MHK」だと思ってる。つまり「もらう」「拾う」「借りる」。周りに頼りながら、肩ひじ張らず、背伸びしないことが大切。西田くんは得意だったね(笑)。

退職金をつぎ込んでまで、また奥さんと別れてまで就農するなんて人もいたけど、そんな人は大抵失敗する。それは農業をゴールにしているから。だから失敗した時のダメージが大きい。豊かな人生を送るための選択肢のひとつと思ってもらいたい。

林さん

うちも以前は、仕事を辞めたと突然来た人も研修生として受け入れていたけど、失敗する人も多くいて。それからは受け入れ基準をむちゃくちゃ厳しくして、独立後のビジネスモデルを共有して、自分を納得させてくれたら研修を許すというようにしました。やはり受け入れる側にも責任ありますしね。

でも最近は相談にくる人の心構えが、いい意味でとてもゆるくなった。特にコロナ禍で増えたのが、女性からの問い合わせ。女性は「農ってどうなのか、まずは知りたい」「自分でできる範囲で試したい」「見てみたい」といった感じで、逆にとてもたくましいと思う。

横島さん

西田

男性の方が「こうでなければならない」というような、ある意味、ロマンチックな感じありますね。あと農業に憧れがあると言いながら、自分にはできるという上から目線も感じる時があるかな。そういった意味では女性の方がリアリスト。就農相談も夫婦の場合、奥さんの方が前向きなパターンの方がうまくいっていると思う。以前取材した金沢のMEGLIY(メグリー)の鍋嶋家も最初そうだしね。

それに女性は共感性が高いからSNSでの情報発信にも向いてるし、売る能力があるので、夫婦でやる場合は彼らのように奥さんを前面に出すというのはとてもいいと思う。

竹本さんのところは男女問わず、就農相談どころか、たけもと農場で働かせてほしいという人が多いみたいだけどなぜ?
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うちでは24歳の女の子が働いてて、それが安心みたい。

竹本さん

たけもと農場が積極的に情報発信しているからだと思うよ。就農希望者も今はホームページはもちろん、インスタとかSNSとか全部見てから来てると思う。自分の将来にかかわることだからね。

また、たけもと農場のインスタがおしゃれなんだよね~。

林さん

インスタはその女の子にまかせて、口は出していません。若い感性についていけないし。でもそれがいいみたい。

竹本さん

西田

今は情報を出していくことが大切ですよね。ネットで検索しても出てこないのは、現代では存在しないのと同じこと。しかも情報はチャーミングに出す。これからの農家はそこが共通して大事なことですね。
たけもと農場インスタグラム

たけもと農場のインスタグラム。女性目線でやさしい雰囲気

未来へのチャレンジ

西田

日本の農業の未来というと大きな話になりますが、総論よりひとつずつ実行することが大切。という意味で、ここにいる人のこれからのチャレンジが、そのまま将来につながる気がします。それぞれ、これからやりたいことを教えてもらえますか?
高齢者の施設とその敷地内に畑をつくって、そこで土に触れ合ってもらいたい。高齢者は子どもの頃に農作業をしていた人が多いし、それで元気になってもらえればと思ってます。またそこに保育園もつくって、孫世代の子どもたちと交流できるようにしていきたい。
その事業計画を今、実際に進めてます。パートナーとして乗り気の企業さんもいるので、これから前に進めていきたい。農が誰もの生活の一部になればと思う。

横島さん

横島さんArgento italiano

横島さんが名古屋市内で経営しているイタリアンレストラン、Argento Italiano(アルジェント・イタリアーノ)

イタリア米、スペイン米と変わったお米をつくっているので、引き続きいろいろなお米にチャレンジしたい。

もうひとつはメディア事業ですね。ポッドキャストなどを通して、農家の事業承継の紹介やハウツーを発信していく。急な継承でダメになる農家もたくさんいるので、そんな人達の力になりたい。それ以外にも気づきを与えるメディアとして農家の立場から伝えたい。

竹本さん

食育は日本の農業を救う。その思いは20年前も今も変わらない。ただYouTubeでも農作業と比べて食育の動画の視聴数が少ないのが問題。

割合より分母を増やすのがいいと思うので、今のチャンネル登録者数2万人のところを10万人まで増やしたい。10万人になるとYouTubeから銀の盾をもらえ、注目度が上がる。そのためにもこれから欠かさず動画配信していきたい。

林さん

西田

未来に希望が持てる話、本当にありがとうございました。

編集後記
農業自体に魅力を感じている人は多くいるので、あとはどうマッチングしていくか。そのためにも農家も情報を出すこと、また実際に行動することがいかに大切か、この3人にあらためて教えられました。それぞれの未来のビジョンも、また機会があれば聞いてみたいと思います。前向きな仲間がいると勇気づけられます。

林農産

たけもと農場

土磨自然農園

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