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面白いようにコメが売れる 「食べ比べ」からファンを作る、米卸の戦略

窪田 新之助

ライター:

面白いようにコメが売れる 「食べ比べ」からファンを作る、米卸の戦略

佐賀県鳥栖市に、休日は1時間待ちが当たり前という人気のカフェがある。客のお目当ては、日替わりで4品種のコメを食べ比べられるおにぎり。食後には隣接する米穀店で気に入った品種のコメを購入するという流れが生まれている。両店舗を手がけるコメ卸の株式会社福糧(ふくりょう)に話を聞いた。

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休日は1時間待ちがザラ

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カフェ「FUKU CAFE」(左)と米穀店「ふく福米」

JR久留米駅から車で5分ほど。福岡県から県境を越えて佐賀県鳥栖市に入るとすぐ、道を挟んで一面田んぼばかりの景色を眺める、おしゃれな雰囲気の建物が見えてきた。福糧の子会社である株式会社エヌケーフーズが運営するカフェ「FUKU CAFE(フクカフェ)」と米穀店「ふく福米(ふくふくまい)」だ。それぞれ開業したのは2018年5月と2017年12月。

開店の30分前に訪ねたというのに、すでに店の前には人が並んでいる。顔触れはほとんどが女性。店内で用意している席数は52。客は開店と同時に次々に入店するものの、一度に全員が入りきれなかった。その後も新しい客が絶えない。開店から15分ほどして来店した客は、店員から1時間待ちになると告げられていた。

人気の理由は4品種の食べ比べ

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株式会社エヌケーフーズ社長の楢原さん

客の目当ては、昼の定食に必ずついてくる4つのおにぎり。いずれも品種が異なり、しかも毎日変わる。この日は「さがびより」「ヒノヒカリ」「ミルキークイーン」「雪若丸」。大きさはコンビニのおにぎりの半分くらいだろうか。4つそれぞれにつまようじで作った旗を立てて、そこに品種名を書いている。テーブルには店が過去に扱ってきた20を超える品種の特徴を記した説明書を置いている。福糧の専務でエヌケーフーズ社長の楢原宏司(ならはら・こうじ)さんはその理由をこう語る。

「家族が『今日は何のご飯にする』という時、話題になるのはおかずであってコメではないですよね。でも、ここでの主役はコメ。コメを食べ比べてもらって、コメについて30分でも1時間でも語り合ってもらう場にしたいんです」

店の中央に据えたテーブルにも、その日の4品種のおにぎりが並ぶ。定食のトレイのおにぎりを食べきったら、“おかわり”ができる仕組みだ。どれだけ食べても料金は変わらない。つまり「食べ放題」なわけだが、楢原さんはあくまで「食べ比べ」という表現にこだわっている。
「食べ放題というと男性客が中心になってしまう。でも、品種ごとの味の違いが分かるまで食べ比べてくださいとうたえば、女性でも気にせず来てもらえますからね」

女性客でも入りやすい店づくりに力を入れている理由は、SNSで発信してくれるから。確かに店内を見渡すと、女性客の多くは料理が到着すると同時に、スマートフォンでおにぎりを撮影している。
「我々にとっては配膳した瞬間が勝負なんです。そこでお客さんがにこっと笑って、料理を撮影してくれれば、良かったなと思います」(楢原さん)

カフェの客が米穀店に流れる好循環

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カフェに併設する米穀店「ふく福米」

カフェで食事を終えた客の多くは、併設する米穀店に向かう。売れ筋商品は、コメを立方体にパッケージングした「キューブ」(300グラム入り)。価格が250~300円なので、「手頃だし、その形を面白がって、若い女性が家族や友人に買ってくれます」と楢原さん。

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米穀店「ふく福米」でとくに売れる「キューブ」

米穀店では玄米や精米などのほかに、福糧の独自商品である有明海産の味付けのりや、もちむぎのフレーク、ドレッシングなども扱っている。いずれもカフェでは無料で試食できるようにしているもの。楢原さんは「カフェは試食会場でもあるんです。気に入ったら、ここで買ってもらう仕組みです」と語る。

客足はというと、コロナ禍でもむしろ順調に伸びているという。レジの通過数は2020年、2021年とも対前年比で20%増となった。2020年はゴールデンウイークまでの1カ月を休業していたことを付け加えておきたい。

カフェでの反応が、量販店への提案に

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一番人気のブレンド米「ふく福米」

カフェと米穀店は、本業の卸事業にも好影響をもたらしている。一例を挙げたい。同社の独自商品に「ふく福米」がある。コシヒカリを7割、ミルキークイーンを3割で混ぜたブレンド米だ。ブレンドすることについて楢原さんはこう説明する。「稲は、本来違う品種を交配させ、それぞれの良い特徴を出すように品種改良されてきました。お米も同様で、違う種類のお米をブレンドして、両方の良いとこ取りをすれば、さらにおいしく楽しめます」

試しに1年間、このブレンド米をカフェで出し続けたところ、「魚沼産コシヒカリ」や「さがびより」などを抜いて一番人気となった。続いて米穀店でも扱ったところ、こちらでも最も売り上げる商品になった。こうした結果を受けて、量販店に商品として提案した。

「一般にコメ卸が量販店に提案するのは価格。いかに安く提供できるかが勝負。でも、量販店は情報も求めている。うちのカフェは小さいけれど、お客さんの『好む食感のお米』や『食べてみたい産地』など、消費者の反応を肌で感じて伝えることができる、いわゆるアンテナショップ。そこが卸が飲食店をやる強みですね」(楢原さん)

同社は、九州地方を中心に同様の店を展開する計画を立てている。「おにぎりを出すカフェだけだったら、ここまでうまくいかなかったはずです。コメ屋がやっているから、おいしいよねって思ってくれるのでしょうから、このスタイルを広げていきたいですね」

そう語る楢原さんは、ほかにもコメの新しい食べ方を検討している。2022年に仕掛けるというので、改めて紹介したい。

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