■田中美智子さんプロフィール
福岡県うきは市出身。衣料品製造販売会社や医療保険会社、通信機器メーカーの営業職などを経て、2009年に株式会社トータルオフィス・タナカを設立。同年、NPO法人スローフード協会筑後平野事務局長に就任。現在、行政や各種団体、民間企業の人材育成研修、経営支援などを行っており、近年は「6次化プランナー」として、活躍の場が農業の領域にまで広がっている。 |
「文化祭のノリ」では通じない
──6次産業化を始めたい農業生産者はいまだに少なくないようですね。
そうですね。農家が減ってきていると言われているものの、年間で数百件の問い合わせや相談をいただいています。
──その動機はどんなものなんでしょう。
手元に農産物という素材があるから、やってみたいという動機が多いのだと思います。特にそんな気持ちに迫られるのは、たとえば規格外品が生じたときでしょう。せっかく作ったものだから、なんとかしたいと。その気持ちは分かるんです。でも、それでいきなり加工して売れるかというと話が違いますよね。文化祭に出品するノリでは通じません。
失敗しないための目的と準備
──6次産業化で失敗しないためには何が必要ですか。
目的を明確にして、準備に時間をかけることです。
たとえば、ある稲作農家から米粉を売りたいという相談があったとします。でも、目的を追究していくと、その生産者が本当にやりたいことは、米粉の加工品を売ることではなく、売り上げを伸ばすことだったりするんです。それなら、あえて新しい機械を導入して米粉に取り組むのではなく、コメの売り方を検討したほうがいいことだってありますよね。それくらい目的をはっきりさせることは大事だと考えています。
準備というのは事業化の計画づくりですね。たとえば規格外の野菜を加工して売りたいのであれば、それが年間でどの程度発生しているのかを把握する必要があります。その数量に応じて、加工品の種類や売り先も見えてくる。
それが見えないうちは、私たちのような外部の支援者も商品の開発や販路開拓でお手伝いすることができないわけです。もし事業化できる見込みがないのであれば、生産者にきちんとそう伝えることも「6次産業化プランナー」の仕事だと思っています。
──田中さんのようにはっきりものを言うタイプは「6次産業化プランナー」では珍しいのですか。
ちょっと変わっているかもしれませんね。生産者から6次産業化の相談があっても、それで不利益が生じることが明白であるのなら、支援はしませんから。でも、もし自分が生産者の立場であったら、不利益になることが分かっているのに、支援を受けて6次産業化に突き進みたくはないですよね。
「6次産業化=加工」という考えは捨てよ
──ところで、6次産業化での補助金の使われ方をどう感じていますか。
制度としては必要です。ただ、生産者が自分の経営資源を把握せずに、補助金を活用した過剰な先行投資をする例については残念に思っています。
加工品を作るにしても、自分のところで機械を用意する必要があるかは熟慮すべきです。せっかく機械を導入しても、人や時間、技術がなければ使いこなせないわけですから。場合によっては、専門業者に委託して加工するほうがリスクは小さいし、商品としての品質は安定します。6次産業化は加工場ありきで進めないほうがいいと考えています。
──そもそも加工品ありきの6次産業化という考えも良くないでしょうか。
そう思います。生産者は1次産品をしっかり売り切るのがベスト。そうであれば安易に加工品を始めるよりも、コメならコメでギフト商品を作るなどして、新たに付加価値を持たせた売り方をする手もあるわけですから。
競争はせず、ストーリーを大事に
──商品づくりではどんなことを心掛けるべきでしょう。
生産者だからこそ打ち出せる、特徴ある商品づくりですね。その際に大事なのは「ストーリー」です。農産物を作っている場所や背景、地域の気候や風土なども価値であり、魅力なんですね。
とはいえ、自分たちではなかなか価値や魅力には気づきにくいでしょうから、第三者に探してもらったらいいと思います。私がお手伝いする生産者には、ヒアリングの際、「当たり前のことを話して」とお願いします。自分たちでは当たり前と思っていることの中に魅力や価値は隠れています。
そういう意味で生産者の6次産業化はどれもがオリジナル。だからこそ、あえて競争の世界に身を置くようなことは避けたほうがいい。世の中には同じようなものがたくさんあり、そうした意味でも、大手と勝負するのは得策ではないでしょう。
──6次産業化は失敗例が多いせいか、悪く言われることが多いような気がします。
そうですね。たしかに安易に始めて失敗することは少なくないです。でも、それは知識やノウハウの不足が原因。大事な点を押さえれば、成功することは十分に可能です。それに6次産業化は、プロダクト・アウト(作り手の都合を優先させた生産販売)だけだった生産者にとっては、お客さんの本音や流通の仕組み、販売の仕方などを知るいい機会。経営を発展させる道が開かれているのだと最後にお伝えしておきます。