野菜の接ぎ木とは?
接ぎ木というのは、異なる性質を持つ「台木」と「穂木」を人為的にくっつける技術です。農業の場合は、生育旺盛で病気に強い根や茎を持つ台木に、優れた果実をならせる穂木を接ぐことで、両方の性質を持つ、良い苗をつくることができます。
果樹の場合は主に「まったく同じ性質を持つ品種」を増やすためのクローン技術として用いられますが、野菜の場合は、樹勢を強くするため、あるいは、病気に強くするために接ぎ木をすることが多いです。
たとえばナスの場合だと、脅威となる土壌病害「青枯れ病」が多発する畑に抵抗性を持つ台木を用いた接ぎ木苗を植えたり、まだ寒い春先に出荷する促成栽培でより安定した収量を得るために勢力の強い接ぎ木苗を使ったりします。
ところで、果樹の接ぎ木はわりと多くの人がチャレンジしているのに対して、野菜のほうは「接ぎ木苗はお店で買うもの」と思っている人が多いのではないでしょうか。筆者も「繊細で難しそう」と長らく敬遠していましたが、近所の人から「ナスの接ぎ木苗が欲しい」と相談されたのをきっかけに、チャレンジすることにしました。
初めてのことでしたが、手先の不器用さには定評のある私でも、ポイントさえ押さえれば、9割は成功。余分にできた苗を少しだけ直売所で販売してみたところ、「来年もつくってよ」とお客さんから声をかけられました。
そこで「野菜の接ぎ木にチャレンジしたい」という人に向けて、私なりに気をつけたポイントを紹介します。
台木種子の買い方と、まき方
種の買い方
接ぎ木苗をつくるには、育てたい品種(穂木)の種子のほかに、台木専用の種子が必要です。台木用品種の種類を大きく2つに分けると、「◯◯病・ウイルスに抵抗性」などと書かれた病気に強い耐病性品種と、樹勢を強くする強勢品種があります。
台木用品種は、種苗会社のカタログに掲載されていますが、1000粒単位の大袋で販売されているものが多いです。
ナスなどの種子は適切に保存すると何年も使えるとはいえ、もっと少量で購入したいという場合には近くの種苗小売店に相談してみてください。お店によっては、小分けして販売してくれる可能性もあります。
また、台木と穂木には相性があり、合わないものもあります。穂木にしたい品種にどの台木が合うかは、種苗会社や店舗に聞くと教えてくれます。
台木のまき方
台木の種まきは、基本的にはふつうに種をまいて苗を育てる方法と変わりません。箱まきでもセルトレイ育苗でもどちらでも構いません。
肝心なのは、台木の種をまく時期です。穂木よりも台木のほうが太くなるように、台木のほうを早くまきます。早まきの程度は種子のカタログや種袋に買いてありますが、数日〜2週間と品目や品種によって違います。
苗を植えたい時期から逆算して、計画的に種をまく日を決めます。
初心者向け キュウリの呼び接ぎ
接ぎ木をする際に一番大変なのが、接ぎ木直後の「順化」という処理です。
接ぎ木を手術に例えるとわかりやすいかもしれません。大手術直後は集中治療室のような空間で養生して、よくなってくれば一般病棟、やがては退院してもらう、というような手順を踏みます。具体的には、遮光した密閉空間で苗の体力の消耗を防ぎ、徐々に自然光や外気に慣れさせていく作業です。
この順化がもっとも簡単なのが、キュウリの「呼び接ぎ」です。不思議な名称ですが、「穂木と台木の両方を呼び寄せるようにして接着させる」ことから、そう呼ばれているようです(「寄せ接ぎ」ともいう)。
呼び接ぎは、基本的には、接ぎ木をした日と、穂木の根を切り離した日の2日間だけ気を使ってやればうまくいきます。
「呼び接ぎ」の作業
キュウリの場合、台木にするのはカボチャが多いです。台木の種まきも穂木の種まきと同日か、2日ほど早めるだけ。
呼び接ぎは、穂木と台木、どちらの根っこも切り口の癒着が済むまで切り離さないので、苗の負担も軽く、成功率も高いです。
写真で見ていきましょう。
左が台木のカボチャ、右が穂木となるキュウリです。いずれも本葉が1枚展開しているところで行います。写真は本葉が出て間もないものですが、これくらいでも大丈夫です。
台木にするカボチャの新芽(1枚目の本葉)を摘み、双葉のみを残します。写真は摘んだ後の状態です。穂木のキュウリの本葉はそのまま残します。
台木と穂木の茎に、清潔なカッターやカミソリで斜めに切り込みを入れて、噛み合わせます。切れ込みは深くして、切り口がより広く重なったほうが後々の生育がよくなります。合わせ目がずれないように、接ぎ木用のクリップなどで固定しましょう。
この状態の苗を1つのポットに植え、葉っぱがよく濡れるように水をまきます。そして、黒い寒冷紗(かんれいしゃ)などで50パーセントほど遮光して1日おき、翌朝、寒冷紗を取り去り、以降は通常の苗のように管理します。しばらくは日中にしおれて心配になりますが、日を追うごとに切り口が癒着し、元気な姿になります。
接ぎ木作業は、2日ほど曇天が続く夕方に行うと成功率が高いように思います。
穂木の切り離し
接ぎ木からおよそ1週間後、台木の葉と穂木の根を切り離します。
接ぎ跡は癒着した状態。台木(左)の頭(葉っぱ)と、穂木(右)の根を切り離します。
台木であるカボチャの根を持つキュウリ苗になります。
根を切り離した後もやはり養生が必要です。接ぎ木をした日と同様、たっぷり水をやり、丸1日、遮光をします。その後、1〜2日間は日中に穂木がしおれることがありますが、その場合は完全に枯れてしまわないよう葉っぱのみに水をかけます。苗の状態が安定したら、呼び接ぎは終了。良いタイミングで畑に定植します。
このほかの果菜類も考え方はキュウリと一緒です。ただし、ナスやピーマンは「割り接ぎ」という方法が主流で、順化の期間が10日ほどと長く、より緻密な日照・湿度管理が必要になります。ですが大掛かりな設備がなくても、園芸用の簡易温室や衣装ケースなどを利用するなど工夫すればできないことはありません。
キュウリの接ぎ木が成功して他の作物もやってみたくなったら、ぜひ挑戦してみてください。