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1000円でも売れる国産アボカド。栽培成功まではイバラの道?

林 ぶんこ

ライター:

1000円でも売れる国産アボカド。栽培成功まではイバラの道?

品質の良いものは一つ1000円以上の高値がつくことも珍しくない国産アボカド。アボカドの産地化を目指し、温州ミカンを主とした柑橘(かんきつ)栽培から転換を図る愛媛県松山市の島しょ部を取材しました。

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アボカドの産地づくりに取り組む松山市

今回訪れたのは松山市の沖合10キロに浮かぶ忽那(くつな)諸島最大の島、中島です。忽那諸島は広島県呉市の倉橋島、山口県周防大島町の屋久島の間から松山市沖までの瀬戸内海に浮かび、有人9島を含む30島以上の島々から成り立っています。

カラーマンダリン

中島はカラーマンダリンの産地

松山本土よりも過疎化が進む中島では、従来の温州ミカンを主とした柑橘栽培から、作付面積が減っても収入を維持でき、一年を通して各時期ごとに収穫できる作物の栽培に2006年頃より取り組み始めます。カラマンダリンや紅まどんな、甘平(かんぺい)などの高級柑橘に加えて、2009年に松山市でアボカドの苗の配布が始まったことをきっかけに、アボカド栽培にも挑戦する農家が出てくるようになりました。

アボカドの収穫時期

収穫時期 10~11月 11~12月 12~1月 1~2月 3~5月
新柑橘 紅まどんな 甘平・せとか カラーマンダリン
アボカド ベーコン フエルテ ピンカートン

農薬散布も柑橘ほど多くないアボカドは、10月~1月下旬頃にかけて収穫される温州ミカンの代替品として最適です。計画的に収穫できるよう、上表の3種類のアボカドの栽培を試みる農家が多かったとのこと。

しかもアボカドは木になったままでは熟度が進まず、木からとることで熟成に向けてのスイッチが入るという特性があるため、計画的な出荷にはピッタリな作物だと思われていました。

アボカドの成木

果実を収穫できるまで成長したアボカドの木

アボカド栽培の難しさ

「アボカドは越冬が難しいんです。暖冬といわれる年でも1~2℃になる日が1日でもあれば枯れてしまいます。霜にも弱いので、露地栽培の場合は幼木の間に枯れてしまう確率が非常に高く、成木率は2割にも満たないんじゃないでしょうか」

こう話すのは2013年より露地アボカドの栽培支援に携わるJAえひめ中央北部営農支援センター中島分室室長の野中賢二(のなか・けんじ)さん。

野中さん

JAえひめ中央北部営農支援センター中島分室室長、野中賢二さん

2009年から2016年までの間に松山市が市内の農家に分譲したアボカドの苗木は1万200本。そのうち2016年の調査時に残っていた木は、わずか1931本だったそう。

「当初は手もかからず簡単だと思われていたアボカド栽培ですが、条件に合った温暖な土地でないと育たないことが分かってきました。畑の条件としては南向きの傾斜地であること、海からの暖かい風が届く沿岸部にあること、陸地からの冷気を防ぐ風よけの山に囲まれていること。露地栽培の場合、この3つがそろっていないと成育は難しいようですね」(野中さん)

枯死した幼木

枯死した幼木。平地での栽培は難しいとされる

温暖な中島においてさえ越冬させるのが難しいアボカドの幼木。しかも収穫までには定植後5~6年かかることからアボカドをあきらめ、定植後4年で収穫できる新種の紅まどんなや甘平、せとかなどの高級柑橘に切り替える農家も出てきました。

「ですが土地が合えばアボカドは育ちます。ここ10年で立派なアボカド園地に育てた農家さんもいますから、アボカド栽培は正直育ててみないと分からないのが現状です」(野中さん)

南向きの傾斜地

暖かな海風に囲まれる南面の傾斜地にある中島のアボカド園地

アボカド栽培、成功への道は

そういった難しいアボカドの成育に成功し、100本以上の立派なアボカドの成木から成るアボカド園地を持つ農家が中島の隣島、怒和島(ぬわじま)にいます。アボカド栽培歴14年の中村一良(なかむら・かずなが)さんはこう話してくれました。

「私も最初の5年間は全然ダメでした。枯らした幼木も150本は下りません。ですが、木を枯らしているうちに、これじゃダメだな、こうした方がいいな、ってことがだんだん分かるようになってきたんです。越冬しやすい囲いの作り方とか、育ちやすい場所だとか。怒和島では標高60メートル以上のところでは育たないってことも、失敗したからこそ分かってきました」

アボカド栽培に適した条件は、場所ごとに違うため、怒和島のやり方が松山本土ではあてはまらない場合もあるとのこと。

「アボカドの栽培法はまだ確立していませんから、私も含めてアボカド農家は、みなさん試行錯誤を重ねています。20リットルくらいの植木鉢でも実をならせることはできますから、初めてなら暖かい場所での植木鉢栽培から始めてみてもよいかもしれません」(中村さん)

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国内一のアボカドの産地を目指して

2割ほどの成木率とはいえ、幼木は着々と育っています。2019年度は279キロ、2020年度は324キロと年を追うごとに中島地区のアボカド販売量は拡大し、2021年度に至っては534キロと大きな伸びを示しました。アボカドの産地としての期待がますます高まり、松山市では日本一のアボカドの産地となるべく、苗づくりや栽培指導などに改良を重ねています。

国産アボカドは希少価値が高く、需要が供給を上回る状態がずっと続いています。大都市圏からの引き合いが強く、中島地区で収穫されるアボカドも東京や大阪などに出荷されていき、松山市内のスーパーに並ぶことはありません。たまにJAえひめ中央直販所の太陽市(おひさまいち)で販売されれば、あっという間に完売になってしまうとのこと。

松山市とJAえひめ中央北部営農支援センターでは、高品質で大玉のアボカドづくりに向けた栽培技術を確立することで、さらなる単価アップを目指し、農家の所得向上につなげていきたいとしています。

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