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3年で1億2000万円の売り上げ達成 資本金10万円でスタートした街づくり会社の農業参入

3年で1億2000万円の売り上げ達成 資本金10万円でスタートした街づくり会社の農業参入

山形県鶴岡市のヤマガタデザインは、資本金10万円でスタートした街づくり会社である。2014年の設立からわずか4年で総工費41億円のホテル「ショウナイホテル スイデンテラス」を完成させたことで大きな注目を集めた。同社は2019年にヤマガタデザインアグリを立ち上げ農業分野に新規参入。2021年には1億2000万円の売り上げを出すまでに急成長し、週刊ダイヤモンドが面積当たりの収益性や成長性・安定性などに着目して選ぶ「中小キラリ農家」のランキングで、全国1位の評価を得た。街づくり会社が取り組む農業とはどういったものなのか。また、なぜこのような事業展開ができるのか。

資本金10万円から始まった街づくりベンチャー

ヤマガタデザイン(正式名:YAMAGATA DESIGN株式会社)は2014年に設立された山形県庄内地方の街づくり会社である。「民間主導」で街づくり事業を展開して急成長を続け、設立からわずか7年で、総投資額は87億円を超えた。

ヤマガタデザインはグループ会社全体で約150人のスタッフを抱えている。正社員は約80人で、そのうちの86%がUターン・Iターンであり、平均年齢は35.4歳。地方に拠点を置く企業ながら、若者が多く集まることでも注目されている。

山中大介さん

ヤマガタデザイン代表取締役の山中大介(やまなか・だいすけ)さん(画像提供:ヤマガタデザイン)

そもそも街づくり会社とは何か。ヤマガタデザインでは、街づくりを次のように定義している。
「地域課題を解決する事業をデザインすること」

デザインとは、必ずしもロゴやパッケージなど、見栄えを美しく整えることだけを意味するのではない。英語のdesignは「設計する」「計画する」とも訳され、元々は人の考え方や行動、社会の仕組みなどを良い方向に変えていくという意味であり、広く用いられている言葉だ。

ヤマガタデザインは、新しい事業(=ビジネス)を創造することで地域が抱える課題を解決し、より良い社会を実現することを目標に掲げている。

ヤマガタデザインでは、次の4つの分野、8つの事業を手がけている。

ヤマガタデザインの事業概要図

ヤマガタデザインの事業概要図(画像提供:ヤマガタデザイン)

4分野
・観光
・農業
・人材
・教育

8事業
・スイデンテラス(ホテル)
・ショウナイルーツ(農業生産・販売)
・有機米デザイン(抑草ロボットの開発・有機米の販売)
・SEADS(シーズ)(農業経営者育成学校)※事業主体は鶴岡市
・ショウナイズカン(就転職紹介サイト)
・SORAI(ソライ)(教育施設)
・SORAI放課後児童クラブ(学童保育)
・SORAIでんき(電力販売取り次ぎ)

ヤマガタデザインの出発点となったのが、2018年開業の「スイデンテラス」。名前の通り、水田の中に浮かんでいるかのようなたたずまいのホテルだ。庄内平野は全国でも有数の米どころである。東京都出身のヤマガタデザイン代表取締役・山中大介さんが、移住してきた庄内の田園風景に心を奪われ、「この風景を多くの人に見てもらいたい」とホテルの建設を決意したことから始まった。地域外から来た人たちに田んぼの美しさを楽しんでもらい、それをきっかけに地域活性へつなげていくことが、街づくり会社としての第一歩だと考えたのである。

観光事業ではあるものの、水田というだけあって農業との関係は深い。スイデンテラスの開業と同時に農業生産部門が立ち上げられ、さらにその後は販売事業の「ショウナイルーツ」、ロボット開発・お米販売の「有機米デザイン」、人材育成の「SEADS」(鶴岡市より運営の一部を受託)などへと展開していった。

拡大を続ける有機市場にこそ勝機がある

「地域主導」を掲げてきたヤマガタデザインは、スイデンテラスの開業に当たって、ホテルの食事に庄内地方の農作物や食文化を取り入れようと考えた。

だが、庄内地方ではお米は豊富に手に入るものの、冬季間には野菜を安定して仕入れるのは簡単ではないことがわかった。

そこで、ホテル宿泊客の朝食に使う野菜を自ら調達するべく、また自らも当事者として汗をかくべきとの考えもあり、ホテルの建設と並行して農業生産部門も進めることにしたのである。

ヤマガタデザインアグリ取締役の黒光啓太さん

ヤマガタデザインアグリ取締役の黒光啓太(くろみつ・けいた)さん

農業への参入に際して、ヤマガタデザインは有機農業に特化していくことを決めた。
理由は大きく分けて2つある。

一つは、有機農業が今の農業の抱える課題解決につながるからというものである。例えば、慣行農業で使われる化学肥料は、将来的な供給不足が懸念され、年々輸入価格が上がりつつある。事実、2022年に入ってから、円安や国際紛争といった世界情勢の影響を受けて、2倍近くに急騰しているものもある。

一方、有機農業で使われる肥料や農薬は再生可能な自然由来のものが原料であり、供給不足の心配をしなくてもよい。しかも地元で調達できる豚ぷんや、稲作農家のもみ殻といった未利用資源を堆肥(たいひ)または土壌改良材にすれば、世界情勢の影響を受けない上に、事業者自らがコストをかけて廃棄する必要もなくなる。

もう一つの理由は、有機農産物には利益を出せるポテンシャルがあると考えたからである。有機食品の市場は全世界で急激に伸びている。農林水産省の資料によると、2018年の有機食品の売り上げは約1050億ドル(当時のドル円相場で約12兆円)であり、2009年の509億ドル(同、約5兆6000億円)と比較すると、10年間で約2倍のマーケットとなっている。
日本においても、2009年の市場規模1300億円から、2017年の1850億円へと、8年で42%拡大しており、今後さらに拡大すると見込まれている。
にもかかわらず、生産現場においては、市場規模に比して有機農家の数は伸び悩んでおり、供給が需要に追い付いていないのが実情だ。

地域内循環の可能性と、市場規模の拡大に、ヤマガタデザインは希望を見いだしたのである。

農業部門3つの事業

ヤマガタデザインの農業部門は、①生産販売、②人材育成、③ハード開発の3つの取り組みを行っている。

①生産販売

スイデンテラス開業時に、農作物の自社調達を目的に「IRODORI FARM(イロドリファーム)」を立ち上げた。2019年にはヤマガタデザインアグリ(正式名:YAMAGATA DESIGN AGRI株式会社)を設立し、ベビーリーフを中心とした施設栽培を行っている。さらに有機栽培・特別栽培水準で作られ、かつ主な肥料分(窒素)を地域の有機資源でまかなっている農作物に限定したブランド「SHONAI ROOTS(ショウナイルーツ)」を立ち上げ、販売も本格的に開始した。

ショウナイルーツでは自社栽培の作物だけではなく、地域の農家が生産した野菜なども取り扱っている。また、地元JAも流通・販売の部分でショウナイルーツの事業と連携し、それぞれの強みを生かして生産者の収入アップに取り組んでいる。
今後、ヤマガタデザインアグリでは、肥料などの資材高騰や、そもそも資材が手に入らないというリスクを低減させ、安定した農業生産を可能とするためにも、堆肥や資材の販売などにも着手し、商社としての機能をさらに高めていく方針だ。

ショウナイルーツのロゴ

ショウナイルーツの商品は地元スーパーやネットショップなどで販売されている(画像提供:ヤマガタデザイン)

②人材育成

鶴岡市は2020年4月に、地域の農業人材を増やす取り組みとして、農業経営者育成学校「SEADS」を開校した。市の農業研修機関としてはめずらしい有機農業の講座が用意されているのが大きな特徴だ。

SEADSは行政、JA、大学・高校、そしてヤマガタデザインが関わる産学官連携の取り組みである。ヤマガタデザインは市からの委託を受け、カリキュラムの検討や広報などの役割を担っている。

県内外から集まる研修生のほとんどが農業未経験者。まずは慣行栽培の技術を身につけ、ゆくゆくは有機農業もできるようにとの内容でカリキュラムが組まれている。

研修修了後も自立して営農ができるようにSEADS関係者がサポートをしていく。例えば販路として、地元JAはもちろんのこと、有機・特別栽培であればヤマガタデザインアグリも販路の一つとして選べる体制を敷いている。
2022年3月には第1期生5人が研修を終え、翌4月から3人が独立自営就農を開始した。

人材育成事業SEADS

鶴岡市立農業経営者育成学校「SEADS」校舎(画像提供:ヤマガタデザイン)

③ハード開発

ヤマガタデザインのグループ会社「有機米デザイン」では、田んぼの雑草を抑える自動抑草ロボット「アイガモロボ」の開発に取り組んでいる。

アイガモロボは田植え後の水を張った田んぼに約3週間浮かべる。水中の泥を撹拌(かくはん)して濁らせることで日光を遮り、雑草の発芽・生育を抑えるという仕組みだ。ロボットにはソーラーパネルが搭載されているため、一度田んぼに放てば、あとは引き上げるまで自動で抑草作業を続けてくれる。

実証実験には地域の稲作農家や山形大学が協力し、抑草と反収アップに一定の効果が確認された。協力農家の多くが雑草対策の手間が3分の1以下になったと評価し、中にはまったくなくなったという声もある。

実用化へ向けて約3年間の実証実験を経たアイガモロボは、2023年に一般販売される予定だ。

アイガモロボ

写真右より、有機米デザイン代表の山中大介さん、アイガモロボをデザインした学生の中村哲(なかむら・てつ)さん、同社取締役の中村哲也(なかむら・てつや)さん(画像提供:ヤマガタデザイン)

本記事第2回からは、ヤマガタデザインアグリの生産現場と事業内容を詳しく解説する。農業未経験で新規参入した同社が、わずか3年でどのように1億2000万円の売り上げを出せるまでに至ったのか。その軌跡を追ってみたい。

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