マイナビ農業TOP > 生産技術 > 年間9回の作付けも連作障害をクリア! 農業技術はどこで学んだのか?

年間9回の作付けも連作障害をクリア! 農業技術はどこで学んだのか?

年間9回の作付けも連作障害をクリア! 農業技術はどこで学んだのか?

山形県鶴岡市の街づくり会社「ヤマガタデザイン」の農業部門として立ち上げられたヤマガタデザインアグリ。農業未経験からの新規参入でありながら、有機栽培で安定した収量を出し、立ち上げ4年目で売り上げは1億2000万円となっている。どのような生産体制を敷いているのか。同社の農園に連作障害への対策やもみ殻暖房について聞いた。

twitter twitter twitter
関連記事
3年で1億2000万円の売り上げ達成 資本金10万円でスタートした街づくり会社の農業参入
3年で1億2000万円の売り上げ達成 資本金10万円でスタートした街づくり会社の農業参入
山形県鶴岡市のヤマガタデザインは、資本金10万円でスタートした街づくり会社である。2014年の設立からわずか4年で総工費41億円のホテル「ショウナイホテル スイデンテラス」を完成させたことで大きな注目を集めた。同社は2019年にヤマ…
51棟すべて有機で栽培。成功のカギは? 施肥設計と雑草対策はどのように?
51棟すべて有機で栽培。成功のカギは? 施肥設計と雑草対策はどのように?
山形県鶴岡市で街づくりに取り組むヤマガタデザインのグループ会社として立ち上げられたヤマガタデザインアグリ。街づくり会社の農業部門として、生産・販売事業を行っている。農業未経験からの新規参入でありながら、立ち上げ3年目で売…

連作障害への対策

山形県の庄内地域で生産を行うヤマガタデザインアグリの主力品目となるベビーリーフは、年間9~10回の作付けを行っている。それだけの回数となると、懸念されるのが連作障害だ。
だが、ここでベビーリーフという商品の特性が生かされてくる。

ベビーリーフとは、ある特定の植物の名称ではなく、葉物野菜の幼葉の総称である。同社では10~20種類の葉物野菜を栽培していて、収穫後は彩りや食味なども考えながら数種類ミックスして包装している。1つのハウスで数種類の品目を生産していることが対策のポイントとなる。同社取締役の黒光啓太(くろみつ・けいた)さんが説明してくれた。

「今ここに植えられているのは全てアブラナ科の品種になるのですが、ベビーリーフの中でも、レタスのようなキク科の品種があったり、ホウレンソウのヒユ科の品種があったりします。そういった科の異なる品目を次の作で混ぜることで連作障害を防いでいます

取締役の黒光啓太さん

取締役の黒光啓太さん

低コストと地域内循環を可能にする「もみ殻暖房」

同社が導入している設備で特徴的なものがもみ殻暖房だろう。連棟ハウスに2機設置していて、11月以降、気温が5度以下になると稼働させ、室温を5度程度上昇させることができる。

もみ殻暖房機は、廃棄されているもみ殻を資源として有効活用するために東北のベンチャー企業が開発した機器である。

施設栽培で大きな課題となるのが、冬期の暖房費だ。重油代にしろ電気代にしろ、暖房費は大きな負担となる。そのため、特に雪の多い東北では、冬場はハウスを畳んで季節雇用に出てしまう生産者が多い。

もみ殻暖房

もみ殻暖房

もみ殻暖房の燃料は生のもみ殻である。かつてもみ殻は家畜の敷料として使われていたが、現在では遊休資材となって大量に廃棄されている。そこで、同社は余ったもみ殻を無料で引き取ることにした。

電力は送風装置を動かす程度にしか使われないので、電気代もあまりかからない。
圧倒的にコストが節約できる上に、輸入に依存する重油ではなく、地域で調達できるもみ殻を燃料としている点でも持続可能性が高い

もみ殻暖房で炭化したもみ殻は、くん炭として活用される。もみ殻くん炭は微生物を活性化させる土壌改良材として有用であり、有機農業には欠かせない資材だ。

また近年では、もみ殻くん炭は炭素貯留によって地表上のCO2を削減するバイオ炭としても注目されている。2020年9月にはJ-クレジットというCO2排出権取引の対象として認められることになり、今後農家の新たな収入源として期待されている。

もみ殻の貯蔵タンク

生のもみ殻を供給するタンクとくん炭が排出されるタンクが並ぶ

こうしたバイオ炭の可能性に着目した庄内地域の生産者らは、庄内バイオ炭環境保全協議会を結成し、専門家を呼ぶなどして導入する計画を進めている。ヤマガタデザイン専務取締役で、ヤマガタデザインアグリの事業にも深く携わっている中條大希(なかじょう・だいき)さんも、同会の理事として活動に参加している。

関連記事
バイオ炭で土壌改良や野菜のブランド化 炭の土壌施用がCO2削減に!
バイオ炭で土壌改良や野菜のブランド化 炭の土壌施用がCO2削減に!
土壌改良材としての炭が二酸化炭素を削減できるという。近年注目を集めているバイオ炭農地炭素貯留と呼ばれる取り組みだ。CO2の削減は大手企業の社会貢献活動と思われがちだが、バイオ炭を使えば農家でも取り組める。しかも、ビジネスと…
微生物の働きを高め収量アップ、バイオ炭はリン枯渇の危機に救世主となるか
微生物の働きを高め収量アップ、バイオ炭はリン枯渇の危機に救世主となるか
CO2の貯留効果があるとして注目を集めているバイオ炭。炭は土壌改良資材としてすでに農林水産省から1987年に認められ、一般販売もされてきた。さらに、炭素削減にも役立つことからJ-クレジット制度の対象になるなど、近年、環境保全の取…

農業技術はどのように学んだのか

ヤマガタデザイン農業部門の立ち上げからわずか4年で全国区の会社に成長したヤマガタデザインアグリ。取締役の黒光さんと田中草太(たなか・そうた)さんを中心とする農業チームのメンバー5人は、いずれも農業経験ゼロから技術を学んだ。

「窒素とは何か」という知識レベルから勉強を始め、地域の生産者や学術機関の専門家、堆肥(たいひ)製造会社などに教えを請うた。そうやって熱心に学び、栽培法を工夫しながら品質・収量ともに安定した有機農業を実現させている。

関連記事
窒素肥料の効果と働きは?種類・注意点・上手な使い方など解説
窒素肥料の効果と働きは?種類・注意点・上手な使い方など解説
数多くの種類がある肥料の中でも、重要な役割を持つ窒素肥料。ほかの肥料と同じく、窒素肥料も使い方によって作物の出来が左右され、それによってトラブルの発生率も変化します。 ここでは、窒素肥料とその効果について紹介します。
取締役の田中草太さん

取締役の田中さんは販売事業担当。立ち上げ初期は現場作業が中心だった

黒光さんら農業チームは、日本各地の有機農家も訪問してまわった。
中でも石川県の有機栽培研究会である西出会からの教えが大きかったと、黒光さんは振り返る。「有機栽培では健康な土がいかに大事かということを学びました。有機農家さんの多くは、『経験や勘が大事だ』とよく言います。では、『いい土』とは何なのか。土がふかふかしていると表現されることがありますが、データを基にした定量的な視点で語られることはあまりありません。西出会の西出隆一(にしで・りゅういち)さんからは、しっかり土壌分析をして、どういう肥料や資材を使うべきかといった肥料の計算方法を教えていただきました

しかし、有機栽培に取り組む生産者は数が限られているため、訪問先を探すのも容易ではない。そこで役に立ったのが、ヤマガタデザインのグループ会社「有機米デザイン」の存在だった。

有機米デザインの開発する抑草ロボット「アイガモロボ」の実証実験に協力している農家は、稲作だけではなく野菜も作っていたり、独自のネットワークを持っていたりする。そうした人脈をたどりながら、全国の先人たちから学びを重ねていった。

ヤマガタデザインアグリ事務所

ヤマガタデザインアグリの事務所

農業の経験のない若者たちが立ち上げた企業が、なぜ品質・収量ともに安定した生産ができるのか、不思議に思った読者は多いだろう。ベンチャー企業であるところから、スマート機器を用いた最新技術で有機農業を成功させているのかと思いきや、先人たちからの学びと地道な試行錯誤で技術を身につけていったというのが意外だった。

「われわれ自身、これからレベルアップしていかなければならないですが、有機栽培のデータやノウハウを蓄積して、それを地域の生産者の皆さんにも広めていけるような生産者になりたいと思っています」と黒光さんは語る。

慶応大卒の黒光さん

慶応大学文学部卒の黒光さん。土壌学や植物生理学など、ゼロから勉強した

次回記事では、ヤマガタデザインアグリのもう一つの柱である販売事業について解説する。自社ブランド「SHONAI ROOTS(ショウナイルーツ)」の特徴や販路開拓のやり方などを通して、短期間で売り上げを倍増させていった秘密に迫る。

関連記事
成長を遂げる多品目栽培のメガファーム 経営者からヒントを探る
成長を遂げる多品目栽培のメガファーム 経営者からヒントを探る
100ヘクタールを超えるメガファームというと、少ない品目を大規模に作付けし、効率を追求するイメージがある。ところが、滋賀県甲賀市の有限会社るシオールファームは115ヘクタールでコメ、麦、大豆のほかに野菜や果樹、花などを50品目…
メガファーム、拡大する現場を支える社長の「相棒」
メガファーム、拡大する現場を支える社長の「相棒」
横田修一(よこた・しゅういち)さんが運営する横田農場(茨城県龍ケ崎市)は、異例のペースで規模拡大が続いている。作物はコメ。メガファームと呼ぶべき大きさになった農場が直面するのは、他が経験したことのないような課題ばかり。…

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する