連作障害への対策
山形県の庄内地域で生産を行うヤマガタデザインアグリの主力品目となるベビーリーフは、年間9~10回の作付けを行っている。それだけの回数となると、懸念されるのが連作障害だ。
だが、ここでベビーリーフという商品の特性が生かされてくる。
ベビーリーフとは、ある特定の植物の名称ではなく、葉物野菜の幼葉の総称である。同社では10~20種類の葉物野菜を栽培していて、収穫後は彩りや食味なども考えながら数種類ミックスして包装している。1つのハウスで数種類の品目を生産していることが対策のポイントとなる。同社取締役の黒光啓太(くろみつ・けいた)さんが説明してくれた。
「今ここに植えられているのは全てアブラナ科の品種になるのですが、ベビーリーフの中でも、レタスのようなキク科の品種があったり、ホウレンソウのヒユ科の品種があったりします。そういった科の異なる品目を次の作で混ぜることで連作障害を防いでいます」
低コストと地域内循環を可能にする「もみ殻暖房」
同社が導入している設備で特徴的なものがもみ殻暖房だろう。連棟ハウスに2機設置していて、11月以降、気温が5度以下になると稼働させ、室温を5度程度上昇させることができる。
もみ殻暖房機は、廃棄されているもみ殻を資源として有効活用するために東北のベンチャー企業が開発した機器である。
施設栽培で大きな課題となるのが、冬期の暖房費だ。重油代にしろ電気代にしろ、暖房費は大きな負担となる。そのため、特に雪の多い東北では、冬場はハウスを畳んで季節雇用に出てしまう生産者が多い。
もみ殻暖房の燃料は生のもみ殻である。かつてもみ殻は家畜の敷料として使われていたが、現在では遊休資材となって大量に廃棄されている。そこで、同社は余ったもみ殻を無料で引き取ることにした。
電力は送風装置を動かす程度にしか使われないので、電気代もあまりかからない。
圧倒的にコストが節約できる上に、輸入に依存する重油ではなく、地域で調達できるもみ殻を燃料としている点でも持続可能性が高い。
もみ殻暖房で炭化したもみ殻は、くん炭として活用される。もみ殻くん炭は微生物を活性化させる土壌改良材として有用であり、有機農業には欠かせない資材だ。
また近年では、もみ殻くん炭は炭素貯留によって地表上のCO2を削減するバイオ炭としても注目されている。2020年9月にはJ-クレジットというCO2排出権取引の対象として認められることになり、今後農家の新たな収入源として期待されている。
こうしたバイオ炭の可能性に着目した庄内地域の生産者らは、庄内バイオ炭環境保全協議会を結成し、専門家を呼ぶなどして導入する計画を進めている。ヤマガタデザイン専務取締役で、ヤマガタデザインアグリの事業にも深く携わっている中條大希(なかじょう・だいき)さんも、同会の理事として活動に参加している。
農業技術はどのように学んだのか
ヤマガタデザイン農業部門の立ち上げからわずか4年で全国区の会社に成長したヤマガタデザインアグリ。取締役の黒光さんと田中草太(たなか・そうた)さんを中心とする農業チームのメンバー5人は、いずれも農業経験ゼロから技術を学んだ。
「窒素とは何か」という知識レベルから勉強を始め、地域の生産者や学術機関の専門家、堆肥(たいひ)製造会社などに教えを請うた。そうやって熱心に学び、栽培法を工夫しながら品質・収量ともに安定した有機農業を実現させている。
黒光さんら農業チームは、日本各地の有機農家も訪問してまわった。
中でも石川県の有機栽培研究会である西出会からの教えが大きかったと、黒光さんは振り返る。「有機栽培では健康な土がいかに大事かということを学びました。有機農家さんの多くは、『経験や勘が大事だ』とよく言います。では、『いい土』とは何なのか。土がふかふかしていると表現されることがありますが、データを基にした定量的な視点で語られることはあまりありません。西出会の西出隆一(にしで・りゅういち)さんからは、しっかり土壌分析をして、どういう肥料や資材を使うべきかといった肥料の計算方法を教えていただきました」
しかし、有機栽培に取り組む生産者は数が限られているため、訪問先を探すのも容易ではない。そこで役に立ったのが、ヤマガタデザインのグループ会社「有機米デザイン」の存在だった。
有機米デザインの開発する抑草ロボット「アイガモロボ」の実証実験に協力している農家は、稲作だけではなく野菜も作っていたり、独自のネットワークを持っていたりする。そうした人脈をたどりながら、全国の先人たちから学びを重ねていった。
農業の経験のない若者たちが立ち上げた企業が、なぜ品質・収量ともに安定した生産ができるのか、不思議に思った読者は多いだろう。ベンチャー企業であるところから、スマート機器を用いた最新技術で有機農業を成功させているのかと思いきや、先人たちからの学びと地道な試行錯誤で技術を身につけていったというのが意外だった。
「われわれ自身、これからレベルアップしていかなければならないですが、有機栽培のデータやノウハウを蓄積して、それを地域の生産者の皆さんにも広めていけるような生産者になりたいと思っています」と黒光さんは語る。
次回記事では、ヤマガタデザインアグリのもう一つの柱である販売事業について解説する。自社ブランド「SHONAI ROOTS(ショウナイルーツ)」の特徴や販路開拓のやり方などを通して、短期間で売り上げを倍増させていった秘密に迫る。