5S活動で組織運営の確立に着手
田中さんは銀行や生命保険会社で働いた後、2004年にサラダボウルを創業した。山梨や兵庫などにある7つの農場をグループ各社で運営しており、さらに複数の場所で開設計画がある。品目はトマトが中心で、最近はリーフレタスの栽培も始めた。従業員は社員が約70人で、パートが300人以上いる。
いまは国内で有数の農業グループを率いる田中さんだが、創業したばかりのころはいくつかの困難に直面した。栽培が安定せず、睡眠時間を削る日々が続いたこともその一つ。「いつつぶれても、おかしくないと思っていた」という。
とくに課題になったのが、スタッフの育成だ。「農業をやりたいと思ってうちに来た人が、農業ができる人に成長する前に事業を拡大してしまった」(田中さん)。その結果、仕事についていけずにやめる人もいた。だが、「農業だから大変なのは当たり前」と思い、脱落する側に問題があると考えた。
そんな中、田中さんはある教育関係者の一言で自分の間違いを悟った。「あなたのやっていることは人材育成ではない」。指摘を受けて見つめ直してみると、落後者を出しながら「できる人」だけを選んでいたことに気づいた。
「このままではいけない」。そう思った田中さんは、製造業の現場などで行われている「5S活動」に取り組むことにした。5Sは整理、整頓、清掃、清潔、しつけを指し、この5つを徹底することで作業の効率化や意欲の向上を目指す。
重要なのは上からの押しつけではなく、どうすれば5つを実践できるかをスタッフ同士で話し合い、工夫する点にある。田中さんはこの手法を、金融機関で働いていたときに接した企業のやり方を参考に取り入れた。
人材育成で目標にしたのは、従業員が自ら考えて業務を改善することのできるような企業文化づくりだ。それを徐々に軌道に乗せることで、大型の農場を混乱なく次々に開くことのできる組織をつくりあげていった。
定時退社、完全週休2日で標準以上の給与水準
ここで田中さんが最も力を入れてきた組織運営の成果を見てみよう。勤務時間は朝8時から夕方5時までで、完全週休2日制。社員の平均年齢は33.5歳と若く、しかも平均年収は501万円に達している。
社員が定時に退社し、しっかり休みをとれるようにする。中小企業としては標準以上の給与を支給する。それが実現できているのは、作業の無駄をなくし、収益性を高めてきたからだ。田中さんは「特定の作物をつくりたかったのではなく、産業としての農業の新しい形を模索してきた」と話す。
そのために追求してきたのが、「農業の特殊性」の克服だ。