半農半公務員、農業での売り上げは?
平日はサラリーマンとして働き、休日を使って主に水稲をつくる──。
それが、一般的な兼業農家のイメージではないでしょうか。水稲は、田植えと稲刈りは忙しくても、日常的には水管理や草刈りがメインで、兼業にするにはうってつけの品目です。
農業改良普及員をしながら(現在は早期退職済み)、自宅の田んぼを管理していた「半農半公務員」の岸さんも、最初の頃は稲作しかやっていませんでした。
転機は、地元にファーマーズマーケット「サンサンくめなん」ができたこと。同じく農業改良普及員だった奥さんと協力して、直売所に出荷する野菜や花も作りはじめ、いつのまにかそれらがメインになっていきました。
面積は水稲と野菜をあわせて約1ヘクタール。水稲の売り上げが補助金込みで200万円、直売所に出荷する野菜・花は、なんと300万円もの売り上げになっていたというから驚きです。
そのうえ、岸さんが住む岡山県久米南町の下籾(しももみ)集落は中山間地で、一筆の畑の面積は小さく、いわゆる「効率的な農業」がしにくいところです。ファーマーズマーケットの規模もそれほど大きくはありません。
水稲と比べると、野菜や花は単位面積当たりの売り上げは多くとも、手間がかかるイメージがあります。本業をしながら、どうやって農業をしていたのでしょうか?
半農半Xに向く品目4選
他の仕事をしながらの農業では、管理作業をしっかりできるのは2日間の休日だけ。
そのため品目は、日常管理がそれほど必要なく「物日(ものび)需要(※)があるもの」「ある程度保存が利き、好きなときに販売できるもの」がメインになっていきました。それでも「売り上げゼロの日をつくらない」ことが岸さんの目標で、基本的には平日も前日の仕事終わりに収穫・梱包をし、出勤前の朝7時45分に自宅から7キロ離れた直売所に出荷、そのまま仕事に向かう、という生活を続けてきました。
夫婦ともに公務員で県内での転勤があるため、その年ごとに職場が近い方が平日の出荷を担当する、というふうに夫婦で協力してきました。
そんな岸さんが半農半Xに向いていると教えてくれた4品目を紹介します。
※ 物日とは、祝い事や祭りなどの行事がある特別な日。主に花き業界で盆や彼岸などに集中する需要を「物日需要」と呼ぶ。
仏花
メインは、菊や新鉄砲百合、アスターなどの仏花です。
花の栽培というと、なんとなく忙しくて難しいイメージがありますが、販売する期間が盆と秋の彼岸、年末と決まっているので、意外と兼業に向いているのです。「正月明けの1月4日にもう盆菊の頃の有給休暇を申請しておくんです」と、岸さん。
売り上げは、およそ10アールという小面積で100万円。密植できるうえ、1束(約3本)の単価も200円以上。内訳はおおむね、お盆に40万円、秋彼岸に40万円、年末に20万円と、稼ぎ頭になっています。
露地栽培の菊はLEDなどで開花調整、なんてことはしません。そうなると“ばくち”の要素が強く、販売期間が短い盆のときには開花がずれることが多々あります。そこで「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」(岸さん)の精神で登録品種以外の品種を25品種(彼岸出荷用は20品種)ほど栽培してリスク分散し、早く咲きすぎてしまった場合は野菜用の冷蔵庫で保存するなどして、しかるべきときに一斉に出荷します。
サトイモ
冬に氷点下以下にもなる久米南町では、冬場に出荷できる野菜が不足します。
ここで活躍するのが、サトイモや白ネギといった、「畑に置いておいて、好きなときに収穫・販売できる」品目。サトイモはいったん植えてしまえば、ほぼ放任で育ちます。マルチをしていれば土中で保存しておいても腐りません。売れそうだな、というときに抜いて、洗って、出荷できます。
サトイモを上手につくるコツはとにかく水。定期的に田んぼに引き込む水をウネ間に流して、草丈が人の背を越すくらい大きく育てます。
カボチャもサトイモと同様に、保存をしておけばいつでも売れる品目です。
面積当たりの売り上げは少ないですが、空いた畑に作付けするにはうってつけ。いったん植えてしまえば、管理はほとんど必要ありません。
岸さんが栽培するのは、貯蔵するほどおいしくなる白カボチャ「九重栗」と、授粉さえできれば夏と秋の2回実がとれる「鉄かぶと」。鉄かぶとは、台木としても使われるほど剛健な品種で、病気にもなりにくいのが特徴です。
ナス
果菜類のなかでも例外的に「毎日収穫しなくてもよい」のがナスなのだそうです。キュウリやシシトウなどと比べると大きくなるのがいくらか遅いうえ、常温保存もできます。とれすぎた日はいくらか保存しておき、お客さんの多い土曜日曜をねらって出荷します。
ただし、保存する際にはコツがあります。それは、湿度を保つこと。難しいことではありません。コンテナに入れたナスを、マルチの切れ端で覆っておくだけ。たったこれだけで、表面のツヤが保たれて、とれたてのような状態を維持できます。
また、売れ残ってしまったナスは、スライスしたうえで乾燥機で乾かし、乾燥野菜としても出荷できます。
半農半X流、雑草対策の工夫
農業以外の仕事を持っていると、特に夏場の雑草対策に手が回らなくなりがち。ここにも工夫があります。
全面マルチでウネ間雑草を抑える
なかなかやっかいなのが「ウネ間の雑草」です。狭いウネ間は草刈機で刈りにくいうえ、ときどきマルチを切ってしまってそこから草が生えてくる、なんてこともあります。
岸さんの場合は、どの品目も基本は「全面マルチ」。ウネ幅より少し広いマルチを使って、ウネ間もマルチで覆ってしまう方法です。
ウネ間に草が生えないのはもちろんのこと、雨が降ったあともじゅくじゅくにならず、「スリッパでも歩けるくらい、歩きやすい」と岸さん。
草を抑える「田畑輪換」の威力
岸さんは野菜だけでなく、水稲も続けています。ほとんどの畑は、野菜と水稲を交互につくる「田畑輪換」をしています。もともとは有機JASに取り組むにあたってはじめたことですが、水をためることで畑地雑草が減り、乾かすことで水田雑草が減るため、野菜も水稲も雑草がぐんと減り、管理がしやすくなりました。
「農で副業」をもっとポジティブに
「昔は兼業農家というと、どこか消極的な感じがした」と話す岸さん。家の田畑を維持するためにやらざるをえない仕事、というニュアンスが強かったそうです。岸さんと話していると、消極的とはまるで反対で、生き生きとしています。
「せっかくやるなら稼がないとおもしろくないし、私の場合、農業に直結する仕事だったから、仕事にもいい影響があった。公務員でも、自分が農業をやってると、農家に話すときも説得力が違うし、気持ちがわかる」(岸さん)
公務員の「農で副業」は、主に「地域農業の人手不足を解消するため」と消極的な意味合いで推進されていますが、もっともっとポジティブな効果がありそうです。