キュウリの一大産地を悩ますアザミウマ類にコナジラミ類、防除はどうする?
関東平野のほぼ中央に位置する群馬県・
坂田博章さん(32)もその一人。大学卒業後、祖父が始めた米とキュウリの生産に携わり、栽培歴は9年を数えます。

「植物そのものの強さを生かした栽培に取り組みたいです」と話す坂田博章さん
現在は、米3haとキュウリ施設栽培20aを祖母、母、妻、自身の家族4人で行い、その管理全般を任されています。同地区の一般的なキュウリの作型は、1月から6月までの促成作、8月から12月までの抑制作の組み合わせで、坂田さんは年間約56トンを出荷しています。
「キュウリはもともと単価が低めの作物です。しかし昨今の資材高騰によりコストがかさんでいるので、草勢を維持し、長く安定的に一株からたくさん収穫しようと試みています」と坂田さん。シーズン後半まで草勢が期待できる栽培品種を選択する、堆肥から土づくりを見直す、土壌還元消毒としてフスマを入れるなどの栽培方法に取り組んでいます。
「病害虫は収量低下に直結するので全く油断できません」と坂田さん。
キュウリの難防除害虫といえば、アザミウマ類やコナジラミ類など。特に苦戦するのが、8月からの抑制作で定植直後から発生するタバココナジラミです。葉裏に潜んで大量発生し、退緑黄化病のウイルスを媒介する厄介な害虫です。
被害に遭ったら株ごと抜いて予備苗に植え替えるか、なければ直ちに防除をして感染拡大を食い止めなければなりません。防虫ネットや粘着板でも十分に防げず、収量が1割以上落ちたシーズンもあったそうです。

「発病した株は見た目が悪くて作業の意欲も下がります」とのこと
難防除害虫を天敵で防除、新たな防除プログラムで省力・収量安定化へ
害虫との攻防を進展させたのは、2016年に登場した「スワルバンカー®」(従来品)でした。天敵農薬のパック製剤、産卵基質のフェルト、保水資材を、防水紙製のバンカーシートにセットした商品で、使用する天敵は、コナジラミ類、アザミウマ類を捕食するスワルスキーカブリダニです。バンカーシート®が、いわゆる巣箱の役割を果たし、その中で天敵を守り増殖させ、長期間放出してくれます。

新製品のスワルバンカー®ロング
「天敵農薬が初登場した頃から、(坂田さんの)父はボトル入りの製剤を振りかけて使っていましたが、撒いた後に株に定着しているのかがわからず不安な面がありました。また、パック製剤だけでは、濡れて使えなくなることもありました。」
「バンカーシート®にしてからは、カブリダニが株に定着していることを芽かきの度に目視できています。退緑黄化病の発生もなくなり、それまでは毎週行っていた薬剤散布の間隔を延ばすことができ、防除の労力負担が大幅に軽減されていますね」と坂田さんはうれしそうに話します。
それもそのはず。キュウリの薬剤散布は重労働。週1回、2時間、高温のハウスの中で作業を続けなければなりません。散布の準備を含めると半日がかりの作業でしたが、バンカーシートは茎や棚線にかけるだけ。バンカーシートの中で増えたカブリダニが、キュウリの株に棲みついて害虫を捕食してくれます。

整然とした坂田さんの圃場。年間56トンを出荷するには防除を含めた管理にも一苦労
パワーアップした「スワルバンカー®ロング」で、若手が伸びる持続的な産地へ
そして2022年、スワルスキーカブリダニのパック製剤が改良され、より長くより多くのカブリダニを放出する「スワルバンカー®ロング」として生まれ変わりました。
天敵パック内に増殖スピードの異なるカブリダニの餌(害虫にならないダニ)を2種類(従来は1種類)封入したことにより、カブリダニが長期にわたって放出され、より安定的な効果が期待できます。

バンカーシート🄬のパッケージ
坂田さんは、2023年の促成作からリニューアル品の「スワルバンカー®ロング」に切り替えました。ゼロ放飼(害虫がゼロの状態で天敵を放飼)をするために、定植後に効果の高い化学農薬を使用し、その約1か月後に「スワルバンカー®ロング」を茎にかけて吊るしておくだけ。「バンカーシート1個から出てくるカブリダニの数が増えたので、これまで10aに対して200個を設置していたところを150個に減らすことができます」と期待の声。

坂田さんの圃場に設置されたバンカーシート
JA邑楽館林 あぐり北部 所長の小林寿幸さんも、「薬剤抵抗性が発達したアザミウマやコナジラミにも有効で、人や環境への影響がほとんどないので、毎作安心して使えます」と、スワルバンカー®ロングを取り入れた防除プログラムに太鼓判。天敵に影響の少ない化学農薬と組み合わせて、最適な防除体系を提案しています。

スワルバンカー®が改良点され、天敵の放出期間と総放出頭数が増加。天敵の放出期間が長いほど圃場への天敵の定着数は増加するため、害虫防除効果が安定する
「防除の負担が軽減したことで他のことに力を注げます。たとえば、数年前から炭酸ガス施用を導入したので、もう少し勉強してうまく使いこなし、シーズン後半まで収量を狙っていきたいですね」と坂田さん。

JA邑楽館林あぐり北部所長の小林寿幸さん(右)と話す坂田さん
小林さんは「地域では坂田さんのような若手の生産者が増え、頑張ってくれているので、今後も持続的な農業ができる体制を作りたいです」と話します。
農業では、防除作業1つをとっても重労働。若いうちから作業負担を少しでも減らし、新しい肥培管理や環境制御などに力を注いで今以上に収量を伸ばせる体制をつくることはとても重要です。スワルバンカー®ロングを取り入れた防除体系を踏まえ、「新しい技術を取り入れて産地を今まで以上に牽引してもらいたいです」と期待を込めます。
坂田さんは「安全でおいしく品質のよいキュウリを生産して、産地を盛り上げたいですね」と応えてくれました。
持続的な産地づくりの一手となる天敵農薬は、使いやすさと長期安定的な効果がポイント。
「スワルバンカー®ロング」は、野菜類(トマト、ミニトマトは除く)、かんきつ、マンゴー、びわ、花き・観葉植物で使用することができます(すべて施設栽培)。
少しでも関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
【取材協力】
坂田博章さま
JA邑楽館林
【お問い合わせ】
全国農業協同組合連合会
耕種資材部 農薬課
MAIL:zz_zk_hiyaku-noyaku@zennoh.or.jp
石原バイオサイエンス株式会社
ICM(Integrated Crop Management) 生物農薬グループ
TEL:03-6256-9187