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農産物と従業員の雇用を守る! 農家の生産以外の事業の作り方

農産物と従業員の雇用を守る! 農家の生産以外の事業の作り方

全国の農場を渡り歩くフリーランス農家のコバマツです。農産物を加工して販売する6次産業化は、今では農家にとって一般的な仕事になりました。しかし、売れる商品作りをするのは難しいと感じる農家は多いのではないでしょうか。
そんな中、今回訪れた農園では農業経営もしつつ、加工事業も展開。しかも、自社の農産物以外に他の農園の農産物の加工もしているそうです。農家が生産以外に加工業を行うメリットについて取材してきました。

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農家が加工業を始めたワケ

今回訪れたのは、トマトを中心とした農業生産もしつつ、加工業にも力を入れている岐阜県高山市の農業法人、寺田農園です。しかも、全国の農家から「うちの農産物も加工してほしい」と依頼が多くあるそうです。なぜ、農家に加工の依頼が来るのでしょうか。さらに農家が加工業をするメリットについてもいろいろとインタビューしてきました。

株式会社寺田農園代表の寺田真由美(てらだ・まゆみ)さん。岐阜県高山市出身。1996年、結婚を機に就農。2010年、農場を法人化するとともに加工場を設立する。

コバマツ

寺田さん、農園ではコメとトマトの栽培をしているんですよね。どうして栽培だけでなく加工業もしようと思ったのでしょうか?
最初は、地域に村営の共同の加工施設があったんです。そこを活用して、味は規格品と同じだけど、自分たちの農場で出てしまう規格外のトマトを使ったトマトジュースを作って、身内に配って飲んでもらうっていうところからスタートしました。
そのうちに、「おいしいから販売してほしい」という声が強くなっていって寺田農園独自の加工所を作ろうと思い立ちました。
破棄になるものでも加工することで「おいしい商品になって価値になる」ことがわかったのもありましたし、「冬場も加工業で仕事を作って社員の雇用を守りたい」という思いもありましたね。

寺田さん

最初は自分たちで飲むために作るところから始めたんですね! 社員の冬の仕事を作るためとのことですが、岐阜県ってそんなに雪が降るんですか?
岐阜県の中でも農園がある飛騨高山は、山脈に囲まれていて、冬は雪が多い地域なんですよ! なので、農家にとって、従業員の冬場の仕事作りは課題でもあるんです。

冬の寺田農園。ハウスが埋まるほど雪が積もっている

家も屋根の雪下ろしが必要

わー! コバマツの地元の北海道並みの積雪じゃないですか! これでは冬は農業ができないですね。冬は農閑期で畑の仕事が無くなるという北海道の農業と同じ課題があるんですね!

全国150軒の農場の加工品を作る!

2010年に農園独自の加工所を設立

加工所ではどんなものを加工しているんですか?
自社のトマトでジュースやケチャップなどを作っています! でも、寺田農園のトマトは夏場、8〜10月いっぱいの3カ月しか収穫ができないんです。その量ではあまりにも稼働日数が少なすぎるし、冬場の社員の雇用を作るということができないという課題に直面して……。そんな課題を解消するために、まずは地元の農家から農産物を仕入れてジュースを作っていくことで、加工の仕事を増やしていきました。

寺田農園のトマトを使用したトマトジュース

稼働時期が3カ月だけだと経営的にもプラスにならなそうですし、冬場の雇用を作るという目的も達成できないですもんね。現在の稼働率はどれくらいなんですか?
現在の稼働率は120%です。北は北海道、南は佐賀県と、全国150軒の農家から加工の依頼を受けています。冬場の社員の雇用を守るという目標も達成されて、10名ほどいる社員の雇用を切らずに仕事を作ることもできるようになりましたね。

120%! どうやってそんなに全国から依頼が来るようになったんですか?
口コミですね。私は全国各地に講演に呼ばれることがあるのですが、そこで出会った農家から依頼を受けたりと、少しずつ広がっていきましたね。あとは、加工担当の工場長の商品作りの提案力や人柄もあって、業務が広がっていったんじゃないかなって思っています!

農産物の救世主は工場長!

加工施設の設立当初は3カ月だった稼働率も、現在は全国から加工業を請け負うことで1年中稼働し、社員の冬場の雇用を守ることにもつながっているそうです。
農産物を作るプロである農家でも、売れる商品を作るということは簡単なことではありません。寺田さんいわく、「工場長の人柄と技術で加工の依頼が多く入ってきている」とのこと。
そんな、農産物を売れる商品に変身させてしまう工場長、保木宏(ほき・ひろし)さんにも話を聞きました。いったいどんな人物なのでしょうか?

現在加工場で商品開発を担当する保木宏(ほき・ひろし)さん。加工所を設立した3年後の2012年より加工業務全般を担当している。前職では、農業や飲食店など食に携わる仕事を経験していた

保木さん、どうして寺田農園の加工業を担当するようになったのでしょうか?
寺田農園で働く前は飲食や農業系の仕事をしていました! 飲食系の仕事をしている人が農園にいなかったので、抜擢されたのかなぁと思っています。

保木さん

農業も飲食も経験しているのは強いですね! 農産物を加工するうえで、こだわりなどありますか?
足し算じゃなくて引き算で、素材そのもののおいしさを引き出すことにこだわっていますね。
飲食店で働いていた時は、添加物を多く使う料理を作っていて、自分の子供たちに自信を持って出せる料理じゃなかったんですよね……。
でも、寺田農園に来て数年して現在の加工の仕事をするようになってからは、無添加で作っているので、子供たちにも「うちで作ったジュースはおいしいから飲みなよ!」と自信を持って勧めることができます。

加工品でも、添加物や調味料を多く入れて味や食味を調整しますが、そこに頼らないってことですね!
おいしくないと商品として成立しないと思っているので、素材のおいしさを引き出すこと、農家からの要望をくみ取った商品開発を心掛けています。

加工品ができるまで

加工品ができるまでの流れってどんな感じなんですか?
まずはどんな商品を作りたいのか、農家さんと事前に打ち合わせをします。農家ごとに、「糖度をあげてほしい」とか「塩を入れてほしい」など、自分の畑のカラーを出したい人もいるので、その要望に沿った商品作りを考えます。

持ち込まれた原材料は一つ一つ手作業で処理やチェックをしていく

素材の状態に合わせて加工方法を調整する

何度か農家に味見をしてもらってレシピを決めてから、レシピに従って製造し、成分検査に出して納品というのが一般的な流れですね。頼まれたらラベルも相談に乗りますし、販売するにあたって必要なルールはお伝えして、なるべくすぐに販売できるようにサポートしてます!

依頼があった農家や新商品の開発については関係者や有識者を集めて試飲をしてもらいながら意見交換をする

味が決まったら、商品化に向けてレシピをチェックする

いろいろな工程を経て、加工品が商品化される

うわー! 加工の工程を見ると、すっごく手間と時間がかかっているんですね……。いろいろな農園の農産物の味を分かっている保木さんだからこそ出せる味、というのもありそうですね!
同じ農園の農産物でも季節によって水分量が違ったり、糖度も違ってきます。その違いが分かるようになったのは、積み重ねてきた経験があるからかなぁと思っています。

「素材の味を知り尽くして、その良さを引き出せる保木さんだから、加工をお願いしたい!」という生産者も多そうですね!

農産物を第二ステージに立たせる、ドクターのような存在!

いろいろな所から依頼が来ると思うんですけど、加工業務を受けるときの最低ロット数など、決めている条件はあるんですか?
あるんですが……、うちは基本断りません!

え、最低キロ数とか、品質とか、関係ないんですか?
あまりにも鮮度や品質が悪いものは「素材の味がそのまま商品に出る」と伝えて断る場合もありますけど、基本受けた依頼にはなんとか応えたいと思ってやっています。僕が断ったらその野菜は破棄されちゃうんで、その作物の寿命を伸ばすか、捨てるか、野菜のドクターみたいな気持ちでやっています!!

野菜のドクター! かっこいい‼ 確かに加工したら野菜の寿命が伸びますもんね!
でも、最低ロットに制限をかけないで、ぶっちゃけそれでもうかるんですか!?
寺田農園では売り上げの3分の1を加工業の売り上げで占めていて、収益の大きな柱になっています。でも、手間も時間もかかるので、利益率を上げて消費者にもっと高値で評価されてもいいんじゃないかなと思っています。手間も技術もいることなんで、もっともっと農産物や加工品の価値を高めていきたいし、価値あるものだと消費者に知ってほしいですね。
今後は、良いものを無くさないように、お客さんにもその価値を理解してもらえるようにしていきたいですね。

価値をきちんと伝えるようにすることで、まだまだ、加工業で売り上げを伸ばしていくことができそうですね!

今後の展望について

今後、加工業でやっていきたいことはありますか?
全国の農産物の加工に関わって、たくさんおいしい原料を知っているので、自分がおいしいと思う素材を厳選して、ジュースを作って寺田農園で販売していきたいですね! 味もデザインも僕のセレクトで、売れる商品を作っていきたいです。売れないと次のことができない。経営のことも考えながらやっていきたいですね。

おいしい素材を全国から集めたミックスジュースだったら、ぜひ飲んでみたいです!
それがかなうのも、寺田農園で加工業務をやっているからこそですよね。
私は、農業って、トマトはトマト、と栽培している品目や地域だけにとらわれがちで、横のつながりがないなって感じるんです。でも、加工施設があることで、いろんな農家とつながって情報交換もできるようになりました。今後は更に、視野を広げながら商品展開をしていきたいなと思っています!


加工業は農家にとってハードルが高い仕事だと感じる人も多くいると思います。しかし今回の取材を通して、農家が加工業をすることで冬場の雇用も生み出すことができ、農場全体の売り上げを伸ばすこともできるというメリットに気づきました。
寺田農園では、農産物の生産以外の仕事を作ることで、自分の農場の経営の改善だけでなく、他の農園の課題を解決することにもつなげています。こうした広い視野を持った取り組みこそ、新たな農業の価値を作ることにつながっていくに違いありません!

【画像提供】寺田農園

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