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端境期の収入源にも!? 小さい農家のビニールハウス活用法【ゼロからはじめる独立農家#52】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

端境期の収入源にも!? 小さい農家のビニールハウス活用法【ゼロからはじめる独立農家#52】

小さい農家にこそビニールハウスは強い味方になります。私が北陸の地で通年野菜セットを販売できているのもハウスのおかげです。さらにさまざまな経営の可能性を広げてくれるのもビニールハウス。端境期の収入源になったり、イベントで活用したり、そんな小さい農家ならではのハウスの活用法を伝えます。

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小さい農家がビニールハウスを持つ経営上のメリット

自称日本一小さい農家(耕作面積30アール)の我が菜園生活 風来(ふうらい)ですが、ハウスは4棟あります。と言ってもそれぞれ大きさは間口(幅)5.4メートル、奥行き18メートルと農家としては小さいもの。でもこのハウスがあるのとないのとでは大違いです。
ビニール1枚あるだけで寒さを防げるし、雨も防げる。さらに風から野菜を守ってくれるというのは意外なくらい品質にも影響があり、水菜や小松菜などはハウスの中で育てるとやわらかく育ちます。
そして、ビニールハウスは小さい農家にとって経営上のメリットも大きいのです。

野菜セットを年中途切れなく出荷できる

風来のインターネット販売での主力商品はキムチや旬の漬物、ピクルスなど加工品、そして野菜セットです。利益率は加工品の方が高いのですが、初めての人に人気なのが野菜セット。野菜セットを入り口にして、送料が変わらないならと追加で加工品を購入する人が多く、おかげで客単価が上がっています。

そんな野菜セットを北陸の地で年中途切れることなく出せているのはハウスのおかげです。露地栽培なら9月で終わってしまうトマトやキュウリ、ピーマンなどの夏野菜も、ビニールハウスで寒さを防げば11月まで育てられます。また、春先にはその時期に貴重な葉野菜も前倒しして収穫できます。

苗用の小型ハウス活用で回転率アップ

太平洋側と比べ夏が短い北陸では、夏野菜の栽培はスタートダッシュが大切。ハウスの中でトマト、ミニトマト、ナス、キュウリなど苗を育てておいて、暖かくなると同時に露地に定植することで収穫まで畑を使う期間を短くすることができます。ある程度面積を必要とする栽培用のハウスを購入するのは難しいとしても、苗用の小型ハウスを持つことはそれほど大変ではないと思います。これで栽培できる野菜の種類の数がグッと広がります。

小さい畑で収量を上げるには回転率が命。風来のハウスでは常時セルポットで育てた苗を用意しておき、葉野菜を収穫するのと同時に、新たな苗をどんどん植えていっています。同じものを育て続けると土の養分も偏りますので、アブラナ科の後にはレタス類を植えるなどの輪作の工夫もしています。このおかげで野菜セットを組む時にも助かっています。

密植野菜

春先の葉野菜の密植栽培。セルポット苗はいつも用意しておく

新規就農者はM(もらう)・H(拾う)・K(借りる)の精神が大事

あると便利なビニールハウスですが、資材高騰もあってコストがかかるのが難点。風来のハウス(5.4×18メートル、パイプの太さ22ミリ)も10年前は50万円でできましたが、最近地元のJAで聞いたところ、今は80万円かかるようです。自治体やJAから購入資金の援助がある場合もありますが、それでもかなりの自己負担になります。

風来のスタート時(1999年)、ビニールハウスは1棟でした。その後JAから新品のものを1棟購入しましたが、残り2棟は資材をもらってきて自分で建てました。おかげでかなりのコストダウンになりました。
この「もらってくる」という発想は、独立就農時にある先輩農家から「新規就農者は“MHK”ができるかどうか。農業を継続できているのはMHKをうまく活用している人」と言われたことに由来します。
“MHK”とは「もらう」「拾う」「借りる」からとったもので、その先輩がNHK(日本放送協会)にかけて作ったダジャレというかジョークなのですが、ここにきて私もそう思うようになりました。実際私もその先輩から管理機を借りたり、パイプを曲げる機材などハウスを建てるのに必要な道具を借りたりしました。もちろんお互いさまで、私もほかの農家にいろいろなものを貸したりあげたりすることはよくあります。

普段から「ハウスが欲しい」とこちらから情報を発信しておくと、巡り巡って情報が入ってくることがあります。私の場合は農家仲間に伝えていたところ、宅地造成を機に離農する農家さんを教えてもらい、無償で譲ってもらえました。解体撤収の期限があったりトラックを借りたりと大変なこともありましたが、今はそのハウスがあることでかなり助かっています。

先輩農家が言っていた「MHKができる」というのはある意味、いかにプライドを捨てられるかではないかと思います。意固地になって孤立し離農した新規就農者をその先輩が何人か見てきたからこその言葉だと今は感じています。

そんなMHKの精神で貴重な資源をとことん利用するということで、風来では張り替えでいらなくなったビニールも畑の太陽熱処理などに活用しています。

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また使わなかった鉄パイプなども、曲げることやカットができれば野菜の支柱などに再利用することもできます。

パイプを活用

ハウス資材を利用してキュウリ栽培の支柱に

最近では、ネットオークションなどで中古のビニールハウスを販売しているのも見かけます。解体の仕方、ハウスの建て方など動画で教えてくれるサイトもあり、便利な時代になったなと思います。もちろん実際に建てるとなると大変なことも多々ありますが、一度自分で建てると修理もできるようになり資材を活用することもできるようになります。
貴重な資材、とことん利用しましょう。

小さい農家のハウス活用法

貴重なビニールハウス、風来では野菜栽培だけでなくいろいろと活用をしています。

端境期の苗販売に活用

風来では4~5月限定でハーブ苗、野菜苗を育てて販売しています。これもハウスがあればこそです。農家のアドバイスつき苗は毎年ネット販売でも人気で、春の端境期の貴重な収入源になっています。

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イベント会場としても使える

また作物のない端境期にハウスをイベント会場としても活用しています。その代表が畑ヨガ。ヨガの先生を招き、食事もつけたコースは人気です。裸足で土に触れる機会がない現代社会において、参加者には新鮮な喜びとなっているようです。中でも人気なのが「月礼拝畑ヨガ」。満月の日の夜にアロマキャンドルをたいて、ゆっくりとしたペースでヨガを行います。季節は限られますが夜でも暖かく、風を防いでくれる、なにより雨でも開催できるのがハウスのいいところです。

今、ウクレレサークルからも貸してほしいというオファーが来ています。ナチュラルな雰囲気のイベントにはピッタリな会場だと実感しています。農家仲間には夏場にバーベキュー会場として開放している人もいます。

そんなビニールハウスをイベント会場にするには、防虫ネットを張るのがコツです。ハウスの側面に防虫ネットがあることで蚊やガ、カナブンなどの侵入を防げます。イベント時に快適に過ごせるかどうかで、イベント参加のリピート率が変わってきます。

虫除けネット

ハウスの側面には防虫ネットを張って快適に

ビニール1枚張っただけで、さまざまな形で農家の経営を助けてくれるビニールハウス。小さい農家だからこそハウスを手に入れ、栽培に使うのはもちろんのこと、イベント会場にするなど小回りを利かせて活用し、経営の可能性を広げていきましょう。

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