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顧客ニーズを先読みし、売上13億円を達成。耕種農業と畜産の二刀流農家・さかうえのマーケットイン思考

顧客ニーズを先読みし、売上13億円を達成。耕種農業と畜産の二刀流農家・さかうえのマーケットイン思考

新型コロナウイルスや、ロシアによるウクライナ侵攻による資材高騰が続く昨今。これらは農業経営を行う上で深刻な問題となっています。そうした中、コロナ禍前の2019年に5.8億円だった売り上げを、2023年には倍以上の13億円に押し上げた生産者がいます。株式会社さかうえ取締役総務部部長の坂上宏一郎(さかうえ・こういちろう)さんに話を聞きました。

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耕種農業と畜産の二刀流農家

鹿児島県志布志市にある株式会社さかうえ。青果物の生産だけでなく畜産までをも手掛ける、全国でも珍しい農業法人です。栽培する品目は施設でピーマン、ナス、キュウリ。露地でケール、ジャガイモ。畜産では黒毛和牛自社ブランド「里山牛」の生産・加工をしています。牛の餌となるデントコーンや牧草の生産・加工も、自社で行っています。

主力商品のピーマン

野菜と飼料の合計作付面積は約200ヘクタール(約6ヘクタールが施設栽培)にもおよび、東京ドーム約43個分の広さです。畜産では、放牧で約200頭を飼育しています。

多品目野菜の生産と畜産の双方を行うことで利益の向上とリスク分散を実現するハイブリッド構造となっているというわけです。

その経営形態を具体的に見ていきましょう。

柔軟な顧客目線と循環型農業が作り出す新しい農業の形

契約栽培による安定した収入

さかうえの特徴として、顧客が求める野菜を作っているという点があります。

農家は一般的に、自分たちの作りたい品目をどうやって売っていくかを考えますが、同社では、お客さんの欲しい品目やクオリティを聞き出したうえで契約栽培する方法を取っています。具体例として、青汁用のケール、ポテトチップス用のジャガイモ、量販店向けの安定した生産量のピーマンなど。このように、顧客のニーズに合わせて品目を決めており、契約栽培による安定的な収入を実現しているといいます。

契約栽培のため、不測の事態があったとしても「作れませんでした」は通用しません。このため、同社に蓄積されたデータや他からの情報などを参考に、必ず生産できるラインを見極めて契約を結んでいるといいます。更に、従業員間で技術や作業工程を共有できるように工程表の作成を欠かしません。鹿児島は台風の影響が多いため、台風時期に雨風対策をした施設で苗を作るなど、栽培するタイミングを工夫してリスク管理をしているそうです。

顧客の経営に依存しないよう、工夫も凝らしています。例えば、今年ケールを10ヘクタール依頼されて作ったとしても、次の年には需要調整などで注文が半分になってしまう可能性があります。市況によっては、取引すら無くなってしまう可能性も考えられます。そこで、使用していない畑では国内需要の高い飼料の生産を行い、野菜と飼料のどちらも生産できるようにしているそうです。

飼料用トウモロコシ(デントコーン)の畑

これにより、野菜の需要が落ちたとしても飼料を作ることで畑は無駄にならずに済みます。また、一方の生産量を増やして欲しいといった顧客の要望にも柔軟に対応できるため、営業機会の獲得にも一役買っているというわけです。

農業と畜産による循環型農業と里山の保全

さかうえでは、畜産農家が処理に困っている堆肥(たいひ)を、自社の青果物や飼料の生産に活用しています。そして、作られた飼料は牛が食べるという循環型農業を実現しているのです。

更に、同社で飼育する牛は中山間地域の耕作放棄地で放牧しており、里山の保全に一役買っています。地域資源を最大限活用することができる理想的な形であるといえるでしょう。

牛が放牧されている志布志市の中山間地域

「里山牛プロジェクト」と呼ばれるこの循環型農業は、2022年には株式会社ジャパンタイムズ主催のSustainable Japan Award 2022(先進的で持続可能な取り組みを行う企業を表彰
するもの)において優秀賞を受賞しました。

循環型農業の仕組みについて(同社提供)

さかうえの強みは循環型の仕組みだけではありません。コロナ前の2019年から2023年には売り上げを倍以上へと成長させた、同社の新たな挑戦に迫っていこうと思います。

新たな挑戦で売り上げがコロナ前の倍へ

新規事業で始めた畜産

元々、循環型の「里山牛プロジェクト」は代表である坂上隆(さかうえ・たかし)さんが実現したいと描いていた構想だったといいます。2019年、同社のヒト・モノ・カネのタイミングが重なったことから畜産に踏み切りました。始めは、10頭の飼育から始まり、食肉の販売は2020年とコロナ禍が始まってからです。2021年には食肉の加工場を建設しました。

ただ、全てがうまくいっていたわけではないといいます。放牧で粗飼料を食べる牛はサシと呼ばれる脂肪交雑が少ないため、一般的な流通における等級規格(A5ランクのような牛肉のランク)では価値が付かず利益を出すことは困難でした。

そこで、自社ブランド「里山牛」として独自の販路を模索することにしたのです。

「里山牛」の様子 各地の中山間地域で数頭ずつ放牧されている

将来の需要を見据えていた事業だったこともあり、狙い通り、食材の安全性や健康的な食事、アニマルウェルフェア(牛の育つ環境と心的状態)といった観点が世間から注目され始め、循環型の自社で作る飼料、赤身の多い黒毛和牛、放牧による飼育といった特徴を持つ「里山牛」は注目を集め、ブランドとして確立することができたのです。

「里山牛」商品一覧(同社提供)

現在は、「里山牛」専門の自社サイトも作成し、順調に売り上げを伸ばしています。売り上げは、2023年6月期には約1億円に上り、大事な稼ぎ頭の一つとなっています。

「待ち」から「取りに行く」営業へ

さかうえの特徴は上述したように、、顧客の求める野菜を作るという点です。根本的な考え方は変えずとも、営業スタイルをこれまでの方針からモデルチェンジしたといいます。

これまでは、依頼がきたものを検討し生産していましたが、長年にわたって顧客や消費者の動向を見るうち、何が必要とされているかが見えるようになっていったといいます。その中で、顧客が欲しいものを依頼が来る前に、こちらから提案し契約を取るような営業スタイルに変化させていったのです。

具体的には、冬から春にかけたピーマンの安定供給を求める需要を満たすために、施設栽培のピーマンを3ヘクタールから6ヘクタールに増設。社内になかった営業部門も2021年に立ち上げました。

時代を先読みし、顧客のニーズを捉えたことで順調に売り上げを伸ばしていくことができたと話します。2019年の売り上げは5.8億円。そこから、資材の高騰などがある中でも、2023年には13億円と倍以上へ。更に、2024年6月期の売上見込みは、17億円にも上るそうです。

取材時の坂上宏一郎さん

これまで大規模に生産していたケール、そして現在は、大規模のピーマンと畜産。プロダクトアウトが多い農業界で、マーケットインを徹底し、顧客が求めるニーズに対して柔軟に対応する農業の形こそが、さかうえの強みであると感じました。また、これは農家が参考にすべき考え方の一つではないでしょうか。

取材協力

株式会社さかうえ
株式会社さかうえ (sakaue-farm.co.jp)

【産直】里山牛をお届けします(里山牧場) – 【産直】里山牛をお届け(里山牛牧場) (satoyama-beef.com)

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