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米ぬかや近隣企業から出た生ゴミを肥料に! 減農薬・減化学肥料栽培、有機栽培ノウハウを共有する都市農業の生産部会とは!?

鮫島 理央

ライター:

米ぬかや近隣企業から出た生ゴミを肥料に! 減農薬・減化学肥料栽培、有機栽培ノウハウを共有する都市農業の生産部会とは!?

農薬や化学肥料の使用をできる限り控え、圃場(ほじょう)を自然の状態に近づけて栽培する。そんな農法を、都市農業で実践している生産部会がある。さらに米ぬかや、近隣の企業から出た生ゴミを、有機肥料として活用しているという。無理をせず、できるだけ自然に近い状態で野菜を栽培する、部会の代表でもある織茂耕治(おりも・こうじ)さんに話を聞いた。

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減農薬・減化学肥料栽培・有機栽培などの農法を地域で共有する「宮前クリーン農業研究会」

織茂さんは神奈川県川崎市で農業を営む都市農家だ。農業大学を卒業後、地元農協に就職。その後、親元就農という形で27歳の時に農作の世界に入った。
就農した頃は、一般的な慣行栽培をしていたという織茂さん。ある時、大学時代の友人から有機栽培について記した冊子を渡されたことをきっかけに、有機栽培や自然農法に興味を持った。

語る織茂さん

有機栽培や自然農法を独学で始めて30年。「宮前クリーン農業研究会」部会長の織茂耕治さん

「試しに圃場の一角で有機栽培をしてみたんです。そうしたら案外うまくいったので、次の年には私が発起人となって、生産部会を立ち上げました」と話す織茂さん。「宮前クリーン農業研究会」(以下、宮前生産部会)を立ち上げたのは平成6年、今年で29年目になるベテラン部会だ。

減農薬・減化学肥料栽培を推進する宮前生産部会では、減農薬・減化学肥料栽培、有機栽培などの農法を共有している。だが、決して厳しいルールがあるわけではない。織茂さんは、「厳しいルールの徹底やハードルを上げすぎることは、会にとって逆効果」だと考え、あくまで農法の勉強会や視察、大きな取り組みをするときの窓口として会を運営している。

自然に近い状態を意図的に再現し、自然の力を引き出す

宮前生産部会は有機栽培や農薬・化学肥料の不使用を強制するものではないが、織茂さん自身は、栽培期間中、農薬不使用と自作有機肥料の使用を徹底している。雑草の管理も手作業で行い、自然に近い状態を意図的に再現するなど、こだわった栽培を続けている。

直売所には、トマトやキュウリ、ナスなど季節の野菜が並び、織茂さんの無農薬・有機肥料栽培の野菜を求めて、近隣から若い人たちが買いに来ているという。順調に見える織茂さんの農園だが、無農薬に切り替えて軌道に乗るまでは、かなり苦しい期間が続いたという。

並ぶ野菜

直売所に並ぶ色とりどりの野菜。すべて栽培期間中は無農薬・自作有機肥料で作られている

「慣行栽培から自然農法に切り替えたあと、一時的に収穫量がガクッと減りました。3~5年目あたりがどん底で、いくら野菜を作っても害虫に食べられてしまって大変でした。ですが、5年を過ぎたあたりから、圃場に天敵昆虫が増えて、10年もたつ頃には、害虫の発生数や種類も自然と減っていきました」

土や植物の持つ本来の力を再現することで、農薬を使わずにある程度の被害を抑えられるというのが、織茂さんの考え方。もちろん、粘着トラップや防虫ネットなど物理的な防除は行っているが、自然の力をできる限り引き出そうと日々挑戦している。

キュウリ畑

自然の力を引き出すために、下草を残しているキュウリ畑。病害虫の発生数は意外にも少ない

トマト畑

できるだけ自然に近い状態を再現したトマト畑。土壌中で栄養が循環しているため、この畑には施肥をしていないという

無農薬トマト

化学肥料や農薬を使わず育てると、濃厚でしっかりとした味わいになると織茂さんは話す

近隣の企業から生ゴミを引き取りボカシ肥料に

そんな織茂さんの試みの中で、もっとも力を入れているのが有機肥料の自作だ。近隣にある企業の社員食堂から引き取ってきた生ゴミに手を加え肥料にしたり、米ぬかからボカシ肥料を作ったりして、栽培に使用している。

織茂さんは自作のボカシ肥料を25年以上使っているが、その間、市販の有機肥料や家畜ふんなどは使用していない。それでもボカシ肥料によって土壌が改良され、微生物や栄養分が豊富な土壌になっているという。またしっかり土が団粒化していて、保水性も高くなり、都市農業の悩みの一つである砂ぼこりの飛散も起きづらいというメリットもあるそうだ。

織茂さんがボカシ肥料作りを始めたのは、平成6年秋のことだ。社会的にも環境問題が注目されるようになり、有機栽培を始めたばかりだった生産部会のところに、川崎市から生ゴミを肥料にしてリサイクルする試験の依頼があった。良い結果を収めたところ、平成9年に近隣の企業から、社員食堂で排出される生ゴミをリサイクルして肥料に使わないか? との誘いがあり、この取り組みが始まった。

はじめの頃に提供された生ゴミは、企業側で乾燥させ、肥料として加工しやすい状態にしたものだった。取り組みが始まった直後は、生ゴミの中に他のゴミが混ざっていたり、肥料に使用できないものが入っていたりすることもあったため、1度ふるいにかけてから加工して使っていた。

しばらくすると、企業の方で生ゴミを発酵させる機械を導入。1度発酵させたものを提供してくれるようになった。はじめのうちは、年間9トンほどの生ゴミ肥料ができたため、年に3~4回ほど、トラック3台で受け取りに行き、宮前生産部会内で分配して使っていた。企業側のゴミ削減の取り組みもあり、次第に年間4トンほどに規模が縮小されたが、25年ほど続いた。

コロナ禍でリサイクル肥料作りが中止になるも、新たな肥料作りに挑戦

順調に続いていた生ゴミのリサイクル肥料作りだったが、コロナ禍の影響で、社員食堂が閉鎖されることに。リサイクルの取り組みも中止になってしまった。再開のめどが立たず、苦境に立たされたが、宮前生産部会が考えたのは、「自分たちにできることで乗り越えよう」という前向きな発想だった。早速、さまざまな有機資材の検討を始めた。

一般的な有機資材というと、牛ふんや鶏ふん、骨粉や油かすなどが挙げられる。だが織茂さんは「家畜ふんや油かすなど市販の有機資材は、生産過程でどのようなものを食べ、吸収し成長してきたかわからないから、使いたくない」と考えた。そして安全性やコストの面を考慮した結果、米ぬかをボカシ肥料として使うことに決めた。

宮前生産部会直伝!! ボカシ肥料の作り方とは!?

使う米ぬかは地元JAから購入。織茂さんをはじめ、生産部会員それぞれの自宅で、自分の圃場にあったオリジナルのボカシ肥料を作っている。
織茂さんの家では、大きなたるに米ぬかと微生物資材(EM菌)を入れ、フィルムで密閉し3カ月ほど乳酸発酵させてボカシ肥料にしている。

ボカシ肥料樽

発酵中の米ぬかボカシ肥料。封を開けると甘酸っぱい匂いが漂う

ボカシ肥料アップ

触ってみるとしっとり柔らかい。1000平方メートルあたり200~250kgほど施肥するという

織茂さんは「米ぬかから作ったボカシ肥料は、みそやしょうゆのような匂いがする」と話す。乳酸発酵した肥料は香ばしく甘酸っぱい匂いがし、都市農業のような住宅に囲まれた空間でも、匂いを気にせず使うことができるのだという。
また肥料に含まれている乳酸菌が、土壌中の微生物や菌類のバランスを整えてくれるため、土壌改良の効果もあるという。

自分にできることを地道に続けていく

織茂さんと宮前生産部会が、コロナ禍による取り組みの中止という時期を乗り越え、無農薬・自作有機肥料の使用を続けてきたのは、日本の農業や食の安全に危機感を抱いているからだ。日本の農業は化学肥料や農薬など、便利なものに頼りすぎていると感じている織茂さんは、食について考えてほしいとの思いから、地元小学校での食育や農業体験などの地域貢献も行っている。また、自宅の直売所をコミュニティとして活用し、近隣の人たちへの情報発信も欠かさない。

話す織茂さん

おいしくて安心安全な物を作りたいという気持ちが、織茂さんの原動力だ

「有機栽培や自然農法には覚悟が必要です。やろうとすると、誰かに文句を言われたり、技術面で苦労することも多いでしょう。ですが、農業や食の安全を守るために、私は自分のやり方を続けていきたいと思っていますし、できることがあれば力を貸しますよ」

今後、さらに周辺地域の生産者と連携し、食農食育を進めていきたいという織茂さん。有機栽培や自然農法に興味を持ったら、ぜひ挑戦してみてほしいと語ってくれた。

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