福島の今と、環境再生に向けた取り組み
未曾有の被害に見舞われた東日本大震災から13年。福島第一原子力発電所事故により深刻な被害を受けた福島の環境再生に向け、環境省ではさまざまな取り組みをしています。
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福島県内の除染に伴い発生した除去土壌や廃棄物を集中的に管理・保管している「中間貯蔵施設」
そのひとつが放射線量を下げるために地表の土を剥ぎ取るなどの除染作業です。
福島県内の田畑や公園、家の庭先など様々な場所から発生した大量の除去土壌や廃棄物は、福島県大熊町と双葉町にまたがる「中間貯蔵施設」にすべて集められています。2015年3月から始まった搬入作業は2022年までに帰還困難区域を除いて概ね完了。
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「中間貯蔵施設」に搬入された除去土壌は土壌と可燃物、石などに分別された後、「土壌貯施設」に運ばれる。底面等を遮水シートで覆い、土壌に触れた水が外部に漏れないように管理するなど、安全に貯蔵されている
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地面の下には土壌が埋められている
中間貯蔵施設にて保管されている除去土壌等は、福島県外で最終処分することとされています。現在、環境省が取り組んでいるのが「再生利用」です。最終処分に向けて処分する土の量を減らすため、放射能濃度の低い除去土壌を土木資材として利用することが可能と考えられており、その実証事業が福島県飯舘村長泥地区で行われています。
実証事業では除染で発生した土壌のうち、放射能濃度が低いものを利用して農地の土台を作り、その上に耕作用の土を乗せて除去土壌の安全性や栽培した作物の育成状況を確認する事業を展開しています。まだ農作物の生産や流通はされていませんが、長泥地区での営農再開に向けて着実な一歩を進んでいます。
大熊町にキウイを再び!「おおくまキウイ再生クラブ」の挑戦
地域農業の再生に向け、特産品のキウイを復活させようと取り組んでいる人たちがいます。それが「おおくまキウイ再生クラブ」です。「浜通り」と呼ばれる太平洋に面する地域に位置する大熊町は、温暖な気候に恵まれた自然豊かな町であり、梨やキウイの産地として知られる同町はかつて、「フルーツの香るロマンの里」と呼ばれていました。
しかし、福島第一原子力発電所の事故の影響で住民は各地への避難を余儀なくされ、その後約8年間にわたって町全域に避難指示が出されることになってしまいました。作り手を失った果樹園や田畑は傷つき、長い間耕作ができませんでしたが、町の一部で避難指示が解除された2019年、大熊町のキウイを再生させようと立ち上がった有志たちによって結成された「おおくまキウイ再生クラブ」は、町内外のさまざまな人がそれぞれの形でかかわり、これまでのべ100人を超える人たちが「おおくまキウイ」の復活に向け、取り組んでいます。
そのひとりが大阪府出身の原口拓也さんです。
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「おおくまキウイ再生クラブ」の活動に参加したことを機に、大熊町で就農をした原口拓也さん
コロナ禍で大学に通えない時期に、大学のある和歌山でみかん農家の手伝いをしたことをきっかけに農業に関心を抱くようになった原口さんは、「おおくまハチドリプロジェクト」という企画に参加したことを機に、「おおくまキウイ再生クラブ」に携わるようになったと話します。
「南国で育つイメージが強いキウイが、東北の福島で栽培されていたことに驚きました。キウイ栽培の最北端とされる土地で作られたキウイのあまりの美味しさに感動したことが、就農のきっかけになりました」
「おおくまキウイ再生クラブ」では現在、約20アールのほ場でキウイを栽培しており、2週に1回、土曜日の午後に作業会を実施。収穫できるキウイはまだ少量のため、主にイベントなどで提供しています。
「定植から収穫まで3〜4年かかるキウイは、収穫の時期だけではなく、長くかかわってもらえる仲間が必要です。作物の成長過程を共に楽しむとともに、キウイを切り口とした町の歴史、魅力を知ってもらいたい。それが結果として農業再生や復興につながると信じています」
と、原口さんは力強い言葉で展望を語ってくれました。
新規就農のロールモデルとして
「おおくまキウイ再生クラブ」で出会った神奈川県出身の大学生の阿部翔太郎さんとともに、2023年秋に新たなキウイ生産者として「株式会社ReFruits」を設立した原口さん。おおくまキウイを町の特産品として復活させるには、事業を継続し、ビジネスを成り立たせる必要があると感じ、起業を決意したと言葉を続けます。
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「定植から収穫まで、少なくとも3年はかかるキウイですが、粘り強く丁寧に栽培を続け、果樹の町大熊を復活させることが目標です」(原口さん)
「おおくまキウイの復活の第一歩は、知ってもらい、食べてもらうことにあります。当社がそのきっかけの場となり、震災後初の本格的なキウイ生産事業者になることを目指しています。町に100年以上にわたり受け継がれてきた果樹栽培を復活させ、大熊町が最高のフルーツ産地であることを証明するのがわたしたちの使命。品質にこだわり、東北で一番のキウイを届けることが目標です」
「ReFruits」の挑戦は、福島の農業再生、ひいては新規就農のロールモデルになることでしょう。
大きな転換点を迎える「中間貯蔵施設」の役割と除去土壌の最終処分に向けた課題
中間貯蔵施設は、除去土壌を30年以内の県外最終処分までの間、安全かつ集中的に管理・保管するための施設です。
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中間貯蔵施設はとても広く、渋谷区とほぼ同じ大きさである
中間貯蔵施設事業の方針は毎年公表されており、2024年度の事業方針では、次のようなことが定められています。
中間貯蔵施設 2024年度事業方針
〇総論
・安全を第一に、地域の理解を得つつ、また、住民の帰還や生活に支障を及ぼさないよう、事業を実施する。
〇輸送
・特定帰還居住区域等で発生した除去土壌等を、安全かつ円滑に輸送する。
・仮置場を介さない直行輸送を実施する。
○施設
・除去土壌等を保管場において適切に保管する。
・土壌貯蔵施設は、安全性を確保しつつ着実に維持管理を行う。
・仮設焼却施設等は、安全に稼働しつつ有効に活用する。
・各種施設等において、防犯対策を含め、適切な管理を実施する。
○再生利用・最終処分
・再生利用について、実証事業等の成果を踏まえ、再生利用基準を策定する。
・減容技術等の評価を踏まえ、最終処分基準を策定し、最終処分量や最終処分場の必要面積・構造に係る実現可能な選択肢を提示する。
・県外最終処分及び減容・再生利用に関する理解醸成活動を推進する。
・除去土壌の再生利用先の創出等のための政府一体となった体制整備に向けた取組を推進する。
・県外最終処分に向けた2025年度以降の取組の進め方について提示できるよう、検討を実施する。
(出典:環境省報道資料)
「除去土壌は最終処分に向け、これまでに最終処分量を少しでも減らすための減容・再生利用技術の開発や、最終処分の方向性の検討などが行われてきました。今後はこれまでの取り組みで得た成果を踏まえ、最終処分の具体的な方法や、搬出方法などに向けた方針を定めることになります」
と、話すのは環境省環境再生・資源循環局 環境再生施設整備担当参事官室 参事官補佐の服部弘さんです。
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環境省環境再生・資源循環局 環境再生施設整備担当参事官室 参事官補佐の服部弘さん
除去土壌の最終処分は多方面の人々が関与しなければならない事業であり、安全・安心に直結する問題です。問題解決には福島の現状や環境再生への理解が必要不可欠と、服部さんは言葉を続けます。
「環境省では情報公開や中間貯蔵施設の見学ツアーなどを通して、福島県の放射線量が減少していることや、除去土壌が安全に管理されていることを発信しています。これらを広く理解いただくことで、福島の環境再生は着実に変化すると思われます」
福島をチャレンジの地へ。農業への期待
東京ドーム約340倍の広さの中間貯蔵施設は、それぞれの土地の所有者から譲り受けている土地です。2045年までに福島県外で除去土壌を最終処分することが土地の所有者との約束になっています。
「大変重いご決断で、大熊町・双葉町に中間貯蔵施設を受け入れていただきました。引き続き、安全第一を旨として 、中間貯蔵施設事業に取り組む方針です。東京ドーム約11杯分に相当する中間貯蔵施設に運び込まれた除去土壌や廃棄物の最終処分量を低減するためのカギとなるのが、除去土壌の「再生利用」です。現在、飯舘村長泥地区の実証事業をはじめ、放射能濃度の低い除去土壌を盛土などの土木資材として利用することを検討しています」
と、除去土壌の今後の課題について説明する服部さんは、たゆまず変化し続ける福島は、チャレンジできる土地になると期待を寄せます。
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長泥地区実証事業の様子
「福島第一原子力発電所事故により深刻な被害を受けた福島は、いわばマイナスの印象が強くなりました。復興や環境再生に向けて取り組みを続けることでマイナスからゼロ、そしてプラスになることを期待します。住民が戻り、人々が可能性を求めて集う場所になるきっかけのひとつが農業ではないでしょうか。傷ついた土地がかつてのように、果樹や米、野菜などが育まれる土地になるよう、関係機関と連携しながら環境再生事業に尽力してまいりたいです」
福島の「今」を知り、正しい情報と知識を身につける
最終処分に向けた取り組みは、あくまで福島環境再生に向けたプロセスのひとつ。中長期的な環境・農業再生のためには、全体最適な最終処分を目指し、社会的合意を進めていくことが不可欠です。
環境や農業の再生は、福島だけの問題でも、農業者だけの課題でもありません。わたしたち1人ひとりが“自分ごと”としてとらえ、福島の「今」を知り、正しい情報と知識を身につけることで、日本の基幹産業である農業を支えることができます。
「おおくまキウイ再生クラブ」のように、小さな一歩を踏み出すことが復興、そして未来へとつながっていきます。福島の今を知ることは、これからの日本社会が進むべき指標のひとつにもなることでしょう。