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根こぶ病耐病性と耐暑性、早生性が産地力強化に寄与!鳥取県のブロッコリー産地が選んだ品種に迫る

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根こぶ病耐病性と耐暑性、早生性が産地力強化に寄与!鳥取県のブロッコリー産地が選んだ品種に迫る

2026年度から指定野菜になることが決まったブロッコリー。指定野菜の追加は1974年の馬鈴薯以来であり、消費者の間でも広く話題となった。ブロッコリーが指定品種になった背景には、増え続ける消費者からの需要に応えてきた、生産者と産地の努力がある。担い手の高齢化と減少が同時進行し、更に夏の暑さが厳しさを増す昨今にあって、ブロッコリーの作付面積と出荷量を増加させてきたのは、生産者の努力に他ならない。今回は、そんなブロッコリー産地の取り組みを紹介しよう。そこでは今、とあるブロッコリー品種が広がりつつあった。

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鳥取県の琴浦地区はブロッコリーが日本に根付く前から続く産地

その老舗ブロッコリー産地とは、JA鳥取中央琴浦ブロッコリー生産部総会(以下、同部会)。鳥取県東伯郡の琴浦町は、鳥取県の中部地区にある。北は日本海に面しており、平野部では水稲と共にブロッコリーが栽培されている。南部には大山山麓が連なっており、この大山山麓由来の火山灰度=黒ぼく土は保肥性が高い。

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「当地区は、日中は気温が上がりますが、夜はグッと下がり、涼しくなります。この寒暖の差が、おいしいブロッコリーを育ててくれるのです。当地区は日本にブロッコリーが広く普及する前、1970年代からブロッコリーを生産しています。一時期は輸入品に押されましたが盛り返し、部会ができてから16年になります」と説明してくれたのは、部会長の寺岡昌一(てらおか・まさかず)さん。

同部会は、2024年現在で部会員数は140名、栽培面積は217haを誇る。2022年度には、出荷数量23万8,343箱(1箱6kg)、販売金額は前年度を大きく上回り、初めて5億円を突破した。

「離農者は増えていますが、それを補うべく求人イベントに出展して、新規就農者を募っています。その甲斐もあって、近年は毎年3~4人が新規就農で入ってくれており、彼らは離農者よりも大規模に栽培しますから、全体としては生産者数、栽培面積ともに、微増を続けているのです」(寺岡さん)

大阪などの関西地域で開催される求人イベントで、ブロッコリーの収益性の高さに加えて、生産量全国トップクラスであるスイカの裏作としても生産できることをアピールしている。近年の高実績は、就農希望者にとって魅力的であるはずだ。寺岡さんは「県も後押ししてくれている。その期待に応えたい」とも語った。新規就農者が定着しやすいよう、同部会やJAは丁寧にアフターフォローも実施しているという。

「青年部が主催する勉強会への参加を呼び掛けている他、独自の研修制度を設けており、新規就農者には必ず親方(先生)が付く体制としており、分からないことがあれば、何でも親方に聞くことができます。農業の知識を深めながら、コミュニティーに引き込んで行く作戦です(笑)同じ作物を作る人々が交流して高め合うことで、農業が楽しくなり、暮らしやすくなる。地域一体、チームになって定着を促しているのです」(寺岡さん)

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収穫し箱詰めする「アーリーキャノン」を確認する寺岡さん

部会員数は現状を維持しつつ、栽培面積と出荷金額が増加を続けている。同部会の前途は洋々に見えるが、寺岡さんは引き締まった表情で、課題もある、と説明した。

「出荷が増えるにつれて、根こぶ病、いわゆる連作障害が問題になってきました。当地のブロッコリーは10月から採れ始めて、翌年6月の中下旬まで採れ続けるのですが、特に8月までに定植するブロッコリー品種では、この問題が顕著になっていました」(寺岡さん)

連作障害対策に新品種「アーリーキャノン」を導入

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右2株は根こぶ病に感染した従来品種。左2株は「アーリーキャノン」。左の2株の根には「こぶ」がなく健康に生育している(提供:サカタのタネ)

そこで同部会では、4年前から根こぶ病耐病性を持つ新品種を試験栽培していた。それが「アーリーキャノン」。サカタのタネが2023年6月から営利生産者向けに発売した品種だ。サカタのタネのプレスリリースによると、「アーリーキャノン」は根こぶ病耐病性、耐暑性、早生性を兼ね備えているという。

根こぶ病とは、ブロッコリーを含むアブラナ科植物の根に感染し、根にこぶを生じる土壌病害のこと。根こぶ病が発生すると、生育が悪化して収量が低下するだけでなく、出荷できなくなる場合すらある。特に気温が高い時期に生育させるブロッコリー品種では、根こぶ病の被害が大きくなる。そのため、根こぶ病の耐病性と共に、耐暑性と早生性を併せ持つ品種があれば、高温期を経ても高品質なブロッコリーを生産できる、というわけだ。寺岡さんの説明を聞いてみよう。

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「本格導入は2023年。指定品種に入れました。それ以前は4年間掛けて、サカタのタネに協力する形で試験栽培しました。根こぶ病の耐病性を持つ品種ということでしたので、当部会のニーズに合致していました。試験栽培1年目から良い結果が出たのですが、当初は『天気が良かったからじゃないの?』という意見も多かった(苦笑い)2年目以降も続けて良い結果が続いたので、『良い品種やなぁ!』に代わりました!特に高齢の生産者は、今までの品種に絶大な信頼を置いていますが、それでも今では全体の3分の2が『アーリーキャノン』に代わりました。今後10年は基幹品種になれるのではないかと考えています」

8月に定植しても苗が健康だから安定して生育し、継続して採れ続ける

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部会員からは、「株がしっかり出来あがってくれる」「株が健康だから極めて育てやすい」など、好評であるという。これは根こぶ病の耐病性だけでなく、対暑性の高さも関係しているのだろう。

「株が健康だからか、ここ10年ほど問題になっていた黒すす病の被害も少なく感じられます。

土壌消毒に掛ける労力も削減できますし、実は栽培期間を通じて行っている予防的防除の回数も、減らすこともできています。苗が健康なまま夏を乗り切ることができるから、後に多少の病害が出ても対処しやすいのです。効率という観点からも『アーリーキャノン』は魅力的です」(寺岡さん)

「アーリーキャノン」が有する根こぶ病耐病性は、防除回数の削減、栽培の効率化といったメリットも提供していた。

高品質を担保する「発泡氷詰め」で産地力を増強

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同部会の産地力を高める取り組みとして有名なのは、「発泡氷詰め」だ。「発泡氷詰め」とは、発泡スチロール製の箱にブロッコリーと共に氷を詰めて出荷する方法のこと。ブロッコリーは鮮度が落ちると柔らかくなってしまう。「発泡氷詰め」は鮮度を保ったブロッコリーを消費者に届けよう、と始めた取り組みだ。これが産地のブランド化に寄与した。

「始めてから14年になります。『発泡氷詰め』を始めたことで、生産者の保管と鮮度維持に対する意識が飛躍的に高まりました。今では、自宅に予冷施設を作る、という動きがでてきているんですよ」と、寺岡さんは胸を張る。

ブロッコリー生産者の家に冷蔵庫があれば、夜中から早朝に収穫する必要が無くなる。かつては電気をつけて行う、気温の低い時間帯の収穫が当たり前だったが、今では働き方の常識が変わりつつある。日中に収穫して自宅冷蔵庫に保管する、という働き方をする生産者が増えつつあるという。これも新規就農者や若い人がブロッコリーを続けられる要因の1つになるかも知れない。

ブロッコリーが指定野菜になる。

ブロッコリーが指定野菜になることに喜びはあるものの、産地間での競争激化が予想される、と寺岡さんは話す。

「労働人口は今後も減少して行きますが、ブロッコリー生産者は大規模化しており、人を雇っている状態です。これでは先行きが厳しくなります。生産効率を高める必要があるのです。そこで西部地区と共同で、共同選果場を整備しています」。これにより、生産に集中できるだけでなく、ここで選別した上で他産地に送ることで鳥取県全体としてボリュームを上げて産地の力を高めて行くという狙いもあるという。

「指定野菜になることに関しては、さまざまな見解があると思います。長くブロッコリーを育ててきた産地としては、良いブロッコリーを作り続けないと厳しくなる、と考えています。品質を保ちつつ収穫量を増やす必要があるのです。そのためには、県やJAの協力を得ながら、種苗会社や肥料メーカーとも連携して、新たな技術をまずは受け入れて、挑戦して行きます。そして私達は、おいしいブロッコリーを安定供給できる産地であり続けます」

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