農業簿記とは？経営に役立つポイントや農業簿記検定取得のメリットまで分かりやすく解説

農業簿記の概要と目的

農業簿記は、農家や農業法人などが農作物を生産、販売して収入を得ている場合に用いる会計手法です。経営している農業の規模や農作物の種類に関わらず、農業簿記が使えます。農業簿記は一般的な複式簿記をベースにしながら、農業に特化した勘定科目があったり棚卸の方法が違ったりする点が少し異なります。一般的な簿記に比べて支出や在庫などの実態をより正確に把握しやすく、「農業経営の見える化」が実現します。また適切な経費計上は節税にもつながります。

一般的な簿記との違い

他の業種で行われる一般的な簿記と農業簿記にはさまざまな違いがあります。

勘定科目

農業以外では使わない勘定科目があります。代表的なものに農具費、種苗費、農業共済掛金、飼料費などがあります。

棚卸方法

年度末に残っている在庫は「棚卸し（たなおろし）」としてすべて計算し、帳簿につける必要があります。一般的な簿記では、在庫には「商品」などの勘定科目を使用しますが、農業簿記では「農産物」「仕掛品」「原材料」「貯蔵品」の４つに分類します。栽培している途中の農作物は「仕掛品」、燃料のストックは「貯蔵品」といった事例があります。

確定申告時の書式

確定申告の際は、決算書・収支内訳書は、農業所得専用の書式を利用します。農業所得用の書式は、経費などの科目が農業簿記に沿った内容になっています。
また、不動産所得や配当所得など農業以外の所得もある場合は、農業所得とは分けて売上や経費を計算する必要があります。

農業簿記が農家経営に必要な理由

規模の大小や作物の種類に関わらず、すべての農家・生産者にとって農業簿記は重要なものであり、経営の可視化によって農業の持続可能性を高めるツールであると言えます。

最も大きなメリットは、経営課題が明確になることです。正確な会計処理により、作物ごとの利益率の違い、想定より資材費がかさんでいるなど、経営上の課題が数字として見えてきます。データに基づいて作付け計画の見直しや経費削減などの判断ができるようになり、経営改善のヒントを見つけることにもつながります。

確定申告においては、農業簿記を利用して青色申告を行うことで節税ができます。青色申告により、最高65万円の特別控除、損失額の繰り越し、専従者の給与の経費算入などが可能になります。

また、資金調達がしやすくなるメリットもあります。金融機関からの融資の審査や、各種補助金や助成制度の申請において、決算書類は重要な役割を果たします。農業簿記の実践により提出する決算書類の信頼性を高め、審査を有利に進めることができます。

さらに、家族経営が多い日本の農業において、後継者への引き継ぎをしやすくして長期的な経営安定を図る役割もあります。

農業簿記を始める準備

青色申告による確定申告を行う場合は、「所得税の青色申告承認申請書」を作成して税務署へ提出する必要があります。e-Taxでも申請できます。
続いて農業簿記の実践に必要な勘定科目の設定や帳簿を整備するため、会計ソフトを準備します。

必要なツールとソフトウェア

手書きのノートやExcelなどの表計算ソフトを使った管理もできますが、会計ソフトを活用すると効率的で、ミスも起きにくくなります。

「農業簿記12」、「らくらく青色申告農業版」「かんたん農業簿記＜複式＞」といった農業に特化したソフトウェアのほか、農業向けの請求クラウドサービス「Agrion」と連携できる「freee」や農業所得を反映させた確定申告書の作成が可能な「マネーフォワード クラウド会計」などがあります。

必ずしも農業簿記専用のツールを用意する必要はありませんが、農業簿記に対応していること、農業所得の確定申告ができることを基準にソフトウェアを選ぶと良いでしょう。
「弥生会計」などの一般的な会計ソフトを使う場合は、自分が営む農業に適した勘定科目を設定するなどのカスタマイズを行うと便利です。

農業簿記特有の勘定科目

農業簿記では、下記のような農業特有の勘定科目が設定されています。費用を正確に把握して経営分析を行うために、正しい勘定科目を使用しましょう。

また、必要に応じて作物ごとに細かく分類した補助科目を作ることで、作物ごとの費用や売上を把握・比較しやすくなります。自分の農業の実態に合うカスタマイズを行いましょう。

基本的な記帳と帳簿の種類

農業所得の青色申告を行う際の標準的な簡易帳簿として、以下6種類があります。

①現金出納帳
②売掛帳
③買掛帳
④経費帳
⑤固定資産台帳
⑥農産物受払帳

初めての帳簿作成手順

農業を営む中で発生した伝票や領収書はすべて保管し、日付順に記録します。日々の取引を「仕訳」するのが基本の作業で、月末に集計、期末に棚卸を行って決算書類を作成し、確定申告を行います。
農業日誌や作業記録をつけておくと、帳簿の内容に訂正や追加が必要になった時にも役立ちます。

記帳ミスを防ぐためのコツ

記帳ミスを防ぐ第一歩は、こまめに記帳することです。つい溜めこんでしまうという人は、レシートや領収書を項目ごとに分けて保管しておくだけでも後の作業が楽になります。また、間違いがあった時に早めに発見できるように、帳簿と現金や預金の残高が一致しているかを定期的に確認するのも効果的です。

クレジットカードや銀行口座の情報と会計ソフトを連携させ、自動取り込みや自動仕訳を行うのもおすすめです。作業負担を減らし、手作業による記帳ミスを防げます。

会計ソフトを使いこなすポイント

会計ソフトの機能を最大限に活用するために、まずはマニュアルに目を通して基本的な機能や作業手順を確認します。会計ソフトによっては、サポートサービスも利用できます。会計ソフトへの入力はこまめに行い、作業を習慣化すると良いでしょう。ＰＣ版のほかにモバイルアプリがある場合は、連携しておくと便利です。

また、データの紛失・破損を防ぐためにはクラウド型の会計ソフトを使うと安心です。インストール型のソフトウェアを使う場合は、データのバックアップを取るようにします。ソフトウェアは定期的に最新版へ更新し、最新の税制に対応するようにしてください。

農業経営を改善するためのポイント

農業簿記による経理処理を行うことで、経営改善に役立てることができます。

財務状況を把握する方法

期間中の収益や費用、利益を表す「損益計算書」と、期末時点での資産・負債・資本などの財務状況を示す「貸借対照表」により、農業経営の状態を把握できます。損益計算書はフロー、貸借対照表はストックを示しており、どちらも重要な指標となります。

収益と経費のバランス分析

「売上は上がっているのに利益が出ていない」という場合は、経費がかかりすぎている可能性があります。費用の中で金額が大きいものは何か、無駄がないかを調べ、不要な経費を削減したり販売価格を上げたりするなどの対策を立てます。
特に利益率の高い作物があれば、生産の割合を見直すのも有効です。

決算書の作成とその活用法

決算書は確定申告の際に必要な書類ですが、経営改善に役立てられます。決算書の内容によって翌年の経営計画を立てたり、設備投資を検討できます。
また、金融機関から融資を受ける際や各種補助金申請にも活用できます。

＜h3＞税金対策につながるポイント＜/h3＞

農業簿記に基づく正しい処理を行って、経費をもれなく計上することが税金対策の第一歩です。
また、青色申告のさまざまなメリットを利用しましょう。青色申告で最大65万円までの特別控除を受けるためには、農業所得に関わる取引を複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付する必要があります。

配偶者など親族へ支払う給与を必要経費に算入したり、農業所得における赤字分を前年や翌年の所得金額から差し引いたりできるメリットもあります。

農業簿記をもっと深める

農業簿記の知識やスキルを深め、定着させるためには農業簿記検定への挑戦という道があります。

農業簿記検定は原則として年に2回、7月の第1日曜日、11月の第4日曜日実施されます。2025年は7月6日（日）、11月23日（日）の2回が予定されています。学歴や年齢、農業の実務経験などの受検資格はなく、誰でも受検できます。

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農業簿記検定への挑戦

農業簿記検定は、一般社団法人 全国農業経営コンサルタント協会の監修のもとで日本ビジネス技能検定協会が実施している検定です。農業経営に必要な簿記の知識と技能を測るもので、3級・2級・1級があります。

検定受験のメリットとその活用

公式サイトには3級から1級までの試験概要が掲載されています。

各級・各科目とも、70％の正答率が合格基準とされています。
検定の合格に向けて学習する中で、農業簿記に関する知識を体系的に身に着けることができ、日々の農業経営に役立ちます。
また、検定に合格すれば農業簿記に関する一定の知識やスキルがあることを客観的に証明できるため、農業法人や農業関連企業への就職活動において武器になります。

学習に役立つ教材と情報源

日本ビジネス技能検定協会の公式サイト内にある農業簿記検定のページでは、受検に関する方法のほかに一部の過去問題が無料で公開されています。
また、公式テキストや過去問題集が発売されているため、受検する級に合わせて購入し、学習してください。YouTubeの解説動画やeラーニング教材なども活用できます。3級と2級は併願できるので、合わせて学習するのも良いでしょう。

農業簿記を活用しよう

農業簿記は、農業経営の基盤となる大切なツールです。日々の農作業と並行して行う帳簿付けなどの作業は面倒なものですが、正しい記録を積み重ねることで、勘に頼らずデータに基づいた経営が実現します。農業簿記の実践により財務状況や経営課題を把握し、改善に向けた戦略を立てる中で、安定的で効率的な農業経営をめざしましょう。