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養蜂とは? 養蜂家の仕事内容や作業のスケジュール、業界の現状まで徹底解説

養蜂とは? 養蜂家の仕事内容や作業のスケジュール、業界の現状まで徹底解説

ミツバチを育ててハチミツなどを収穫する養蜂(ようほう)。養蜂業は農業の一分野であり、日本では畜産業に分類されます。養蜂によってハチミツなどを得るだけでなく、ミツバチの働きは植物の受粉や多様な生態系の維持にも役立つため、農業全体あるいは地球環境への貢献といった面でも注目されています。
この記事では養蜂の基礎知識から養蜂家の仕事内容、養蜂業界が抱える課題や今後の可能性、養蜂を始める前に知っておきたいポイントについて分かりやすく解説します。

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養蜂の基礎知識

ハチミツ

養蜂は、古くから世界各地で行われてきました。近年ではミツバチを飼育してハチミツやローヤルゼリー、ミツロウなどの生産物を得るのに加え、植物の受粉を促すことで農業全体を支える役割、生態系を維持して環境を保全する役割も評価されています。

日本における養蜂の歴史

日本においては、奈良時代に編纂された「日本書紀」の中でミツバチやハチミツに関する記述があり、平安時代には宮中に献上されていたと考えられています。本格的な養蜂が始まった江戸時代を経て、明治時代に入ると欧米からセイヨウミツバチと近代的な養蜂技術が導入され、現代に至る養蜂が始まりました。

日本の養蜂業の現状

農林水産省によれば、日本におけるミツバチの飼育戸数は2018年以降増加傾向で推移しており、2024年のミツバチ飼育戸数は12,061戸に及びます。養蜂は全国で行われていますが、北海道、熊本県、長野県、広島県、秋田県などがハチミツの生産量上位を占めています。

一方で海外から大量のハチミツが輸入されており、国内の養蜂家は中国産などの安価な海外産ハチミツとの価格競争にさらされています。

ハチミツの需給

2023年におけるハチミツの国内消費量44,500トンのうち国内生産量は約2600トンであり、自給率は5.9%にとどまります。残りの42,000トン近くは輸入によってまかなわれ、中国産が6割以上を占めています。

なお、国産ハチミツはほぼすべてが家庭用であるのに対し、輸入ハチミツでは家庭用は6割程度です。4割は業務用・加工用で、製菓や製パン、飲料や化粧品の製造などに使われます。

国産ハチミツは安全性や品質の高さで人気があるものの、生産量の少なさと価格の高さがネックと言えます。アカシアやレンゲなどの単花蜜は独特の香りや風味、色合いなどを楽しめるため、特に人気があります。

養蜂家の役割とミツバチとの関係性

現在日本で行われている一般的な養蜂では巣箱を使い、「蜂群」という単位でミツバチを管理します。蜂群は1 匹の女王バチと数万匹の働きバチ、数千匹の雄バチで構成されます。

養蜂家はハチミツなどを採取するだけでなく、蜂群の育成や管理を行います。ミツバチへの給餌は養蜂家の大切な仕事で、特に花の少ない時期や越冬前には巣箱を観察し、必要に応じてエサを与えます。養蜂家がミツバチから一方的に生産物を採取するのではなく、両者は共生関係にあると言えます。

養蜂家の一日の流れ

養蜂家

養蜂家の作業内容は、季節やその日の天候によって大きく異なります。ここでは、ハチミツの採取が盛んになる春から夏にかけての典型的な一日の流れを紹介します。

朝の巣箱確認と健康チェック

1日の最初に行うのが巣箱の確認です。周辺に大量の死骸が落ちているなどの異常がないか、ミツバチが巣箱に出入りしているかなどをチェックします。週に1回程度は巣箱を開けて、中の様子を確認します。

蜜蜂の餌場管理と自然環境の調整

ミツバチは花の蜜や花粉を主な食料としているため、花が少ない時期には砂糖水や花粉代用品などを与えます。蜜源となる植物が十分に確保されるよう、養蜂家は常に巣箱周辺の開花状況を把握しておく必要があります。

巣箱は蜜源となる植物が周辺に豊富な場所に設置し、適度な日当たりがあり風通しの良い環境を整えます。台風などの荒天時は、巣箱を固定したり雨よけを設置したりといった対策を行います。

採蜜のタイミングとプロセス

集めた蜜が濃縮され、充分なハチミツが貯まっているタイミングで採蜜を行います。巣枠を取り出して遠心分離機にかけ、ハチミツを抽出します。抽出作業後は巣箱を元に戻します。ミツバチにストレスを与えないよう、注意を払いながら一連の作業を行います。

季節ごとの作業スケジュール

春: 越冬を確認します。ミツバチの引っ越しにあたる分蜂(巣分かれ)が起こりやすくなります。分蜂を防ぐために女王蜂の産卵スペースを確保したり、人工分蜂を行ったりします。

夏: 春から夏にかけては採蜜の最盛期です。採蜜作業と並行して、暑さ対策として巣箱の風通しを確保したり日陰に移動させたりします。

秋: 蜂蜜の採取が一段落し、越冬の準備を始めます。病害虫の駆除や、必要な食料を確保できるよう給餌を行います。

冬: 巣箱の防寒対策を行い、ミツバチの越冬を管理します。冬季に巣箱のメンテナンスをしたり翌年の計画を立てたりする養蜂家も多くいます。

養蜂業の課題と可能性

瓶詰のハチミツ

近年では国産ハチミツや養蜂の評価が高まりつつありますが、養蜂業にはいくつかの課題があります。担い手不足や高齢化といった農業全般に共通する課題のほか、ミツバチの生態と密接に関わる養蜂では、気候変動など地球規模の環境問題にも直面しています。

ミツバチ減少の原因とその影響

ミツバチが減少するとハチミツ等の採取ができなくなるほか、ミツバチが媒介する植物の受粉ができなくなることで周辺の農業や生態系にも大きな影響を及ぼします。

2000年代以降、世界各地で「蜂群崩壊症候群」(CCD)が問題となっています。CCDは女王バチや幼虫などを残して働きバチの大半が突然いなくなり、蜜蜂の群が維持できなくなる現象です。メカニズムや原因は不明ですが、疫病やウイルス、農薬などが原因とする仮説があります。ミツバチの減少は世界的な課題です。

持続可能な養蜂の取り組み

持続可能な養蜂業には、有機農業との連携や農薬使用の見直し、蜜源を確保するための植林や植栽、自然環境の保護に関わる取り組みが必要です。在来種であるニホンミツバチを利用した地域型養蜂も再び注目されています。

養蜂業界の未来と新たな挑戦

ICT(情報通信技術)を活用したスマート養蜂も行われはじめています。スマートフォンの専用アプリでセンサーを操作し、巣箱内の温度や湿度、ミツバチの動きなどを確認します。離れた場所からでも巣箱の様子を把握でき、巣箱を開ける検査の回数を減らす効果もあります。

一方で、都市部でビルの屋上などを利用する都市型養蜂、養蜂体験などを行うアグリツーリズムとしての養蜂など、生産者だけでなく消費者にとっても養蜂を身近なものにする新たな挑戦も広がっています。

養蜂を始める前に!押さえておきたいポイント

採蜜作業

養蜂を始めるために特別な資格は必要ありませんが、注意すべきポイントがいくつかあります。

養蜂家に必要な器具と準備

最初に必要なのが木製で蓋つきの巣箱と、巣箱の中に入れる巣枠・種蜂です。巣枠はミツバチが巣を作る土台となる部分で、一般的には巣箱の中に8枚から10枚程度の巣枠が入ります。種蜂は女王バチと働きバチがセットになったものです。

そのほかに燻煙器や燃料、ブラシやナイフ、作業着、顔を刺されないようにかぶるベールや面布、遠心分離機などが必要です。趣味や副業で小さく始めたい場合は、初心者向けの養蜂セット一式をネット通販などで購入することもできます。

法規制や地域コミュニティとの関係

養蜂を始める際は、養蜂振興法の規制に基づき都道府県への届け出が必要です。その後も毎年1月末までに飼育届を提出します。また、地域によっては家畜伝染病予防法や家畜伝染病まん延防止規則などの規制を受ける場合があります。養蜂を行う都道府県の公式サイトや関連部署などで確認してください。

近隣への配慮も欠かせません。住宅密集地などでは近隣住民とのトラブルになる可能性があり、農村部では近隣に蜜源を共有する養蜂家がいる場合もあります。円滑な養蜂を行うために、地域コミュニティと良好な関係を築きましょう。

ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違い

日本国内の養蜂ではニホンミツバチとセイヨウミツバチの2種類が飼育されていますが、国内で流通しているハチミツの大半はセイヨウミツバチによるものです。在来種である二ホンミツバチと、西洋からの外来種であるセイヨウミツバチには様々な違いがあります。

二ホンミツバチは少し小さく、天敵のオオスズメバチへの防御力が高い性質を持っています。ハチミツが多く採取できるのはセイヨウミツバチで、二ホンミツバチのハチミツは希少価値があり独特の風味や香りを感じられると言われています。近年では二ホンミツバチを見直す動きもあり、生息数の増加が見られます。

気を付けたい害虫・害獣や疫病への対策法

ラベンダーとミツバチ

養蜂を行う際は、ミツバチの天敵となる害虫や害獣、疫病への対策が必要です。

ミツバチヘギイタダニ

体長2ミリほどのダニで、ミツバチの体液を吸い、感染症を媒介します。巣箱を清潔に保ち、定期的な薬剤の使用で管理します。巣箱が全滅するほどの被害が出るケースもあり、ダニに強いミツバチを育てる研究も行われています。

クマ

近年、日本各地で出没しているクマは、ミツバチにとっても大敵です。ハチミツはクマの大好物といったイメージがあるかもしれませんが、ヒグマやツキノワグマはハチミツだけでなく幼虫やミツバチそのものも捕食します。また養蜂作業を行う人に危害が及ぶ可能性もあります。

クマが生息していないとされる九州や四国をのぞき、養蜂を行う際にはクマを寄せ付けないよう電気柵の設置を行うことが推奨されます。クマが多い地域では、近隣のクマ出没情報に注意して作業を行いましょう。

ツマアカスズメバチ

外来種であるツマアカスズメバチはミツバチを大量に捕食するため問題視されており、農林水産省も注意喚起を行っています。これまでに九州北部や山口県などで発見、駆除されました。繁殖力や分布拡大能力が高く、早期発見と早期防除で定着を阻止する必要があります。
ツマアカスズメバチは特定外来生物に指定されているため、見かけた場合は行政機関への通報を行って相談してください。

ミツバチの疫病対策

ミツバチには腐蛆病(ふそびょう)、チョーク病、バロア病、ノゼマ病、アカリンダニ症など家畜伝染病予防法で定められた疫病が存在します。これらの感染を確認した場合は家畜保健衛生所に届け出る必要があります。腐蛆病には「みつばち用アピテン」などの予防薬があるため、適切に利用します。

一部で発生した病気が蜂群全体に広がって壊滅的な被害になることがあるため、早期の発見と対策が重要です。こまめに巣箱の様子をチェックし、衛生管理に気を配りましょう。

養蜂の可能性と未来

国産ハチミツへの関心を持つ人も増え、注目されつつある養蜂。自然とのつながりも感じられ、やりがいのある農業のひとつです。都市型養蜂や個人で始める小さな養蜂など、新たな可能性もあります。

養蜂はハチミツなどを生産するだけでなく、受粉によりさまざまな農業や生態系を支える重要な役割を果たしています。地球環境や生物多様性の保護といった観点から、今後さらに重要視される分野であるといえるでしょう。

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