消費拡大のもと米産業が発展の道を辿るよう提言
55年間続いた減反政策が“増産”に大転換する。これは歴史的転換と言えるのかもしれない。
全国の稲作生産者で組織される全国稲作経営者会議は今年6月24日、国に「地域維持と食料安全保障の確立に資する新たな水田政策の確立に向けた提言」を提出した。
①地域維持と食料安全保障を確保するための直接支払いの創設
②実需と生産の双方が安定する新たな水田政策の確立
③担い手が農地を引き受けるための「地域計画」を踏まえて環境の構築
④次世代を担う人材確保・育成
上記の4項目からなる提言の冒頭には、昨夏ごろから米価高騰と品薄で消費者が満足にコメを手に入れられない事態が生じたとし「日本人の主食を海外に頼ることなく、国産米を安定して国民へ供給するためには、地域農業の担い手である我々が離農者の農地を着実に引き受け、地域を維持しなければならない。国は、令和9年度以降の水田政策の見直しとともに、米や水田が国民に与える 価値を重要視し、消費拡大のもと米産業が発展の道を辿るよう提言する」と記している。
当時、全国稲作経営者会議の会長であった古谷さんは、“コメ増産”の是非をどう見るのか。加工用もち米を大規模に生産・販売している株式会社大地の恵みの代表取締役でもある同氏へ、価格高騰が続く中、制度米穀の生産・販売にどのように取り組んでいるのかについても聞いた。
大規模経営ほど、コメの増産が難しい
‐先般開催されたセミナーで古谷さんは全国稲作経営者会議の会長の立場で『コメの増産は難しい』と発言されました。この最たる理由は何ですか。
全国稲作経営者会議の会長として4年間勉強させてもらった中で、各経営体が人を雇用しながらいろんな作物を作付けしていることがわかりました。作期分散という意味で大豆、麦などいろんなものを組み合わせながらやっているわけです。コメだけを作っているわけではないので、今回のようにコメだけの増産と言われると「ちょっと待ってくれ」という人が多い。大規模に経営している人であればなおさらです。さらに言えば水の問題もありますので、増産イコール増反というのも難しい。やっている品目を多少変えて、飼料用米を主食用米に替えると言った程度の話であれば可能ですけど、麦、大豆をやっている人にとっては難しいのではないですか。

古谷正三郎さん
昭和のコメ余りの時代、生産調整のもとに国がいろんな作物を作るように指導してきたので、麦や大豆などを栽培して生産を安定させてきたわけです。その中で品目横断と言う言葉も出てきました。コメ余りになりそうな時、我々は水田活用の直接支払交付金など、価格維持政策の一つを使わせてもらった。では、これからどうするのか。今度はコメが足りなくなりそうだから飼料用米を主食用米に戻すということは自然な流れです。
国のやることの反対をやれば良いという人もいますが、そんなことばかり言っていても仕方がないので、令和のコメ騒動を契機に、新しい制度設計に向けて我々も強く関わりたいと思っています。
‐直近のコメ問題を受け、来年はどういう方向で行くのですか。
我々がブレる必要はないので、一般米も作り、加工用米も作る方針です。加工用米を作る理由は『実需者とのネットワークを切らさない』こと。我々が知らん顔をしていたら実需者との信頼関係は崩れてしまう。加工用米は続けながら、一般米をどうやって自分たちで増産するのかということがテーマですね。
加工用もち米の生産を続ける理由
古谷さんは株式会社大地の恵みの代表取締役社長でもある。大地の恵みは2009年に加工用もち米の生産販売に主力にした会社で、千葉県農業協会稲作部会の構成員8名により設立された。この会社にコメを持ち込む生産者は年々増え、会員社は45社にもなり、大規模稲作生産者が多いことから加工用もち米の取り組む面積は400㏊にもなり、もち米の一大出荷業者になっている。また、一般うるち米の取扱いも多く年間6万俵を扱い低温倉庫も建設した。
―大地の恵みの理念と運営について教えてください。
大地の恵みは地域流通を担う会社で、実需者と結び付いていろんなことをやっています。会員社は千葉県全域におよび、耕作面積を合計すると2000㏊ぐらいになると思います。契約栽培で、加工用もち米の取り扱いは4割ほどになります。
この会社を立ち上げた2009年ごろというのは一般米が1万円を切るか切らないかという時代で、同時に規模拡大は否応なしに進んでいました。規模拡大するうえで米価の下値をどこに設定したらよいのか考えた結果、加工用米、中でももち米に取り組むのが良いと言う話になりました。我々としては、経営が成り立つようなベースを作りたかった。自分たちが規模拡大するうえで不可欠な、下値づくりのための会社です。

―令和7年産米は主食用米が大幅に値上がりして、加工用米を生産してもらうのはハードルが高かったと思いますが。
おっしゃる通り、ハードルは高かったです。加工用米と主食用米の価格が乖離してしまうと、加工用米を生産する人がいなくなるため、これをどうするのかということを考えました。実需者とは複数年契約をしていたのですが、価格は決めていませんでした。このため価格をどうするのか実需者との間で協議してお互い歩み寄りながら金額を決めて行きました。具体的な価格は申し上げられませんが、農協系統が加工用米の販売価格を上げた分以上の価格をのんでもらった。そうでなければ、加工用もち米は確保できなかったと思います。
―大地の恵みを設立して感じたメリットにはどのようなことがありますか。
自然の流れとして生産されたコメの販売だけでなく、資材などの共同仕入れも出来てきますし、施設も必要になります。4カ所に低温倉庫を作り、4万俵ほど保管できるようにしました。自前の倉庫を我々生産者が持ったことは大きいですね。販売先の実需者に対しても年間販売や多くの取引先を確保できます。また、いろいろと情報交換が出来ていろんな流通革新が出来ていることもあります」
─最後に、これからのコメ業界はどうなると見ていますか。
現在の消費者米価の高さには、本当にビックリしております。このままの価格が来年以降も維持されると考える生産者はほとんどいないと思っております。
この状態が続けば、必ず外国産米にシフトする実需者が増えてしまう事は容易に想像できます。そのため、国内の生産現場維持のための政策、生産者米価と消費者米価双方がこれからの日本農業、食料生産基盤を失わないためにどのような価格設定にすべきかを消費者価格を念頭に考える必要があると考えます。
その上で、どうしても農業経営継続が困難な場合は、生産数量などを考慮した制度設計を国がすべきと考えています。経営者として、国に守られる側から脱却し、国民に喜ばれる農業をしたいものです。
















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