肥料屋が集荷業者となり、ドローン事業部を設立して農業法人へ!

カネダイの設立は1946年のこと。当初の主業は肥料・農薬・農業資材の販売だった。2001年に有限会社カネダイとして法人化し、同時に第一種出荷取扱業を取得。米の集荷・販売を開始した。米の集荷は現在も同社の主力事業である。

52ha(2025年産)の自社管理圃場とは別に、毎年400~500haをドローン散布による防除を受託している。25年産の受託面積は600haにもなるという
8年前にはドローン事業を立ち上げた。ドローンスクールを運営しつつ、機体の販売・整備、播種・防除作業の受託なども行う、福島県内有数のドローン事業者へと成長した。
「弊社は肥料屋・資材屋として、地域の米生産者さんと良好な関係を築いてきました。ドローン事業を始めたところ、高齢化が進んでいることもあり、防除の受託が増えて行きました。離農される方から『代わりに全部やってくれ!』と頼まれたことから、別会社として農業法人を立ち上げて、栽培も始めました」と、藤田さんは話し始めた。
トラクターは除雪のために持っていたものの、田植機・コンバインは持っていない。田植と収穫ができないのだから、初期投資なしには栽培を引き受けることはできないはずだ。
「当時の米価は12,000円/60kg程度でした。どう考えても赤字になりますから、投資はできません。そこでドローン直播に挑戦したのです。当社にとってドローン直播は、お試しでというより、農業法人の存続を賭けた挑戦でした。絶対成功させるぞ、という強い思いがありました」(藤田さん)
こうして2017年、カネダイは借りた4haの圃場のうち2haでドローン直播をスタートした。「天のつぶ」という多収品種をドローンで直播したところ、倒伏などの問題こそあったものの、12俵とれた。この結果をみた土地所有者からの委託が増え、近年は受託農地の半分をドローン直播、半分は移植、という形で栽培してきた。「最終的には管理が行き届かず、収量が落ちてしまっている」と藤田さんは謙遜するが、それでも多収品種では10俵以上は確実にとれているという。
自社管理圃場のほとんどでドローン直播!
2025年産でカネダイが自社管理している圃場の面積は52ha。そのうち45haがドローン直播、7haが乾田直播、移植は0.4haのみである。カネダイでは播種から収穫前までの管理を担っており、収穫と乾燥調製は外部に委託している。
ところで2017年に始めたドローン直播は、藤田さんが独力で始めたのだろうか? 後に会津坂下町・カネダイと協力して、水稲直播技術に関するマニュアルを発行した、福島県会津農林事務所会津坂下農業普及所の武藤伝(むとう・つたえ)さんが説明してくれた。
「カネダイがドローン直播を始めた当初は、普及所にもドローン直播の知見がありませんでした。ですから、当初は藤田さんの独学での挑戦でした。
藤田さんは湛水直播に取り組んでいる人の話を聞きに行き、参考にしていました。2年目以降は弊所と協力しながら取り組むようになり、3年目からは研究対象として資材の支援をしたり、収量・品質調査を一緒にやってきました」と、振り返った。

会津坂下町での成果は「水稲直播技術マニュアル(会津坂下町版)」として、福島県のホームページ上に公開されている。その後に発行された「水稲ドローン直播栽培マニュアル(湯川村版)」とともに、ドローン直播の概要を知る参考になるはずだ
2024年産米は目標収量を達成。ドローン直播にはメリットが多い

ドローン直播した水田、7月の様子
2024年産でカネダイが管理した圃場は30ha。ドローン直播が17haで乾田直播が10haだ。栽培した品種は、「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」、「ミルキークイーン」、「夢ごこち」、「天のつぶ」、「ほしじるし」と多岐に渡るが、品種の決定権はカネダイにあり、需要がある品種を必要に応じて作付けしている。
気になる収量と品質については「多収品種(天のつぶ、ほしじるし)の目標収量は10俵なのですが、2024年産は概ね目標通りでした。コシヒカリは8俵を目標としていますが、こちらも7~8俵とれました」と、上々のよう。
このほか、下記のメリットを実感していると、藤田さんは話してくれた。
・育苗が不要だから春作業の省力化・省人化ができる
・田植え作業が不要。ドローン播種は圃場間の移動が圧倒的に楽
・圃場が広範囲に点在していてもトラック1台で対応可能
・自動航行で短時間に作業でき省力化を実現
・初期投資が小さくてすむ
「田植機は600万円しますが、ドローンは防除や追肥にも使えます。乾田直播のような専用機材(播種機)が不要ですから、資金面のハードルが低いのもメリット。省人化にも役立ちます。ドローン直播なら2人いれば余裕をもって播種できます。人手不足対策としても有効ですよ」
ドローン直播の課題は倒伏!

多岐にわたるメリットの一方で、課題もあるようだ。
「ドローン直播の最大の欠点は倒伏です。倒伏さえしなければ、移植と遜色ない収量・品質を上げることができますが、どうしても倒伏しやすいのです」
ドローン直播で散播すると、どうしても発芽する部分と疎になる部分の差が出てくる。密植になったところは根張りが弱く、茎が細く、倒伏しやすくなる。カネダイでは播種量を調整したり、施肥設計を見直して移植より少なくする、などの対策をしているものの、この課題をクリアするのは容易ではない。それゆえ、結果的に収量・品質を一定にしにくいのだと藤田さんはいう。
「これまでの経験から、播種量は3kg/10aくらいが良いと思っており、特に多収品種では多く播種すると収量が上がりやすい傾向がつかめています。品種としては、多収品種の『ほしじるし』は短稈だから倒伏しにくく有望です」と教えてくれた。

「ほしじるし」は農研機構が開発した直播栽培に適した多収品種。写真左は「月の光」と「ほしじるし」の比較。写真右は左から「ほしじるし」、「月の光」、「朝の光」の草勢。「ほしじるし」は短稈だから倒伏しにくい(画像:農研機構)
また、一般的に直播栽培では、苗立ちを安定させるために圃場の均平度が重要、と言われている。それについて藤田さんは「均平がとれていた方が良いのは当然ですが、弊社は極力手を掛けず、省力的に栽培したい。ですからレーザーレベラーを入れて均平をとることまでは、やっていません。通常の代掻き後に播種する前提で取り組んでいます」という。

写真中央付近は鳥害を受けていることが分かる。この被害を減らすため、カネダイでは水を張りっぱなしにしている。
もう1つ、ドローン直播で話題になるのが鳥害対策だ。カネダイでは、播種後は水を落とさず、張りっぱなしにしている、とのこと。一般的には、播種後は落水して出芽を促すのだが、播種後から生育初期にかけては鳥害による苗立ち低下の被害を大きく受ける。それを避けるための手段が、水を張りっぱなしにするという方法だ。
「ただ、それにより鳥害は減らすことはできるのですが、すると稲が徒長気味になってしまい、最終的には倒伏しやすくなります。このバランスも難しいところです」(藤田さん)
将来展望とドローン直播の未来
藤田さんは「倒伏対策には一定の解があるが、新しい田んぼが増えると対応が難しいです。しばらく課題は残ります」と語る。今後は乾田直播の拡大も視野に入れている。また「『ほしじるし』はドローン直播に最適。収量が多くて倒れにくい。これは使える品種だと確信しています」と、あらためて強調し、手応えを感じている様子だ。
ただし「ドローン直播はすべての米生産者に適しているわけではありません。実際、苗立ちの不安から移植に戻る人もいます。経営規模や条件で向き不向きがあります。30ha以上の圃場を持ち、育苗の手間を省きたい方には、ドローン直播は有効ではないでしょうか」と、藤田さんはアドバイスしてくれた。
カネダイは、肥料屋・資材販売業から米の集荷、ドローン事業、そして大規模な直播栽培へと事業を広げてきた。背景には、高齢化による農業担い手不足と、地域農業を支えるという使命感がある。ドローン直播には、不安定な苗立ちと倒伏といった課題がある一方、省力化と経済性で優位性を発揮する。今後、移植、乾田直播との組み合わせや、倒伏しにくい品種の開発が進めば、さらに普及の可能性が広がるだろう。
会津坂下の地で挑戦を続ける藤田さんの取り組みは、これからの稲作の方向性を示すものとなっている。
参考
福島県/水稲直播技術マニュアル(会津坂下町版)
農研機構/稲と麦の二毛作に適する水稲新品種「ほしじるし」
取材協力
カネダイ
福島県会津農林事務所
















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