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【完全ガイド】果樹剪定の適期とおすすめギア

【完全ガイド】果樹剪定の適期とおすすめギア

前回は剪定(せんてい)する枝の見分け方を解説しましたが、今回は実際に剪定を行うために最適な時期道具(ギア)選びについて詳しく解説します。「なぜ落葉果樹は冬に切って、常緑果樹は春に切るのか?」この疑問の答えには、植物の生理的な仕組みが深く関わっています。適切な道具を使い、正しい時期に剪定することで、果樹へのダメージを最小限に抑え、翌年の豊作につなげることができます。

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前回の記事「この枝はいる?いらない?」で徒長枝と結果枝の見分け方を学んだあなた。「よし、この枝を切ろう!」と意気込んだとしても、ちょっと待ってください。実はいつ切るかが、剪定の成功を左右する重要なポイントなのです。

剪定時期カレンダー

なぜ時期が重要なのか? 植物生理から見る剪定適期

「剪定はいつやってもいいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、実は時期を間違えると、枯れたり、翌年実がならなかったりする原因になります。その理由は、植物の生理サイクルにあります。

落葉果樹の生理 なぜ冬に切るのか?

リンゴ、ナシ、モモ、ブドウなどの落葉果樹は、12月〜2月の休眠期が剪定の適期です。これには明確な生理学的理由があります。
落葉果樹は秋になると、葉から幹や根に養分を回収して落葉します。このとき、樹液の流れはほぼ止まり、木全体が「冬眠モード」に入ります。

12月~2月に剪定する理由

  • 樹液の流出が最小限:春〜夏に切ると、切り口から樹液がダラダラ流れ出て、木が弱る
  • 傷の治りが効率的:春の成長開始と同時に傷の修復も始まるため、効率的に回復
  • 病原菌の活動が鈍い:冬は病原菌も活動が鈍いため、感染リスクが低い
  • 樹形が見やすい:葉がないので枝の構造がよく見え、作業しやすい

ただし、厳寒期に雪の心配がある地域では前倒し、もしくは後ろ倒しにして秋か春に行うことになります。もちろん雪の中剪定しても問題ないのですが(農家は実際にそうします)、あなた自身がとても辛いのではないでしょうか。マイナス5度以下になると、切り口が凍結して組織が傷む恐れもあります。暖冬の年は12月から、寒い地域では2月後半から始めるとよいでしょう。

常緑果樹の生理 なぜ春に切るのか?

ミカン、レモンなどの常緑果樹は、3月〜4月上旬が剪定適期です。常緑果樹は冬でも光合成を続けており、完全な休眠期がありません。農家の場合は本数が多いので、ミカンの収穫が終わったらすぐに開始する人もいますが、家庭果樹の場合は少し暖かくなってから剪定しましょう。
ビワの場合はその時期には果実がたくさん実っているので、収穫が終わってから行うのが最もやりやすいでしょう。

3月〜4月上旬に剪定する理由

  • 寒害を避ける:冬に切ると、切り口から寒気が入り込み、枝枯れを起こしやすい
  • 新芽の動きを見極める:3月になると新芽が動き始め、4月には果実が着果する枝としていない枝の判断ができるようになる
  • 回復が早い:気温が上がり始める時期なので、切り口の癒合が速やか
  • 養分の無駄を防ぐ:冬の間も光合成で作った養分を蓄えているので、それを生かせる

果樹タイプ別・剪定カレンダー

前回の記事で分類した果樹タイプごとに、具体的な剪定時期をまとめました。

剪定タイプ

落葉樹

  • モモタイプ(ウメ・モモ・スモモ・アンズ):12月上旬〜2月上旬。早めに終わらせることが重要で、遅すぎると、九州では1月、本州でも2月には樹液が流動し始めて、目には見えていなくても根っこが成長し始めます。ただし、果実ではなく花を楽しむウメは、花後すぐ(3月)に剪定することも。
  • リンゴタイプ(リンゴ・ナシ・カリン):12月〜2月。比較的寒さに強いので、冬の間ならいつでもOK。
  • カキタイプ(カキ・クリ):12月〜2月。落葉後すぐに剪定可能。
  • ブドウタイプ(ブドウ・キウイ):1月〜2月上旬。遅すぎると樹液が大量に流出(つる性果樹は特に樹液がドバドバとあふれてきます)。2月下旬以降は絶対に避ける。イチジクの秋果専用種は12月でも可能だが、夏果品種は春剪定が安全。

常緑樹

  • かんきつタイプ(ミカン・レモン・ユズ):3月。常緑果樹の代表で2月以前は寒害リスク、4月以降は新梢(しんしょう)への影響大。3月の2〜3週間が勝負。
  • ビワ:他の常緑果樹と異なり、剪定適期がまさに果実が実る時期であるため、産地によっても剪定時期が異なります。いろんな本やインターネットで見ても、さまざまな剪定時期が書かれていて迷うこともあると思いますが、収穫が終わった後なら、何も考えず邪魔な枝を切ればいいだけなので、収穫と同時に切るような形をおすすめします。ちょっと高いところにある果実も、枝ごと切り落として収穫すれば、高木化しやすいビワの高さも抑えられます。

剪定道具の三種の神器「ハサミ・ノコギリ・脚立」

剪定に必要な道具は、実はそれほど多くありません。基本的には「ハサミ」「ノコギリ」、そして背の高い果樹においては「脚立」の3つがあれば、家庭果樹の剪定はほぼ完璧にこなせます。ただし、それぞれの道具選びにはコツがあります。

剪定バサミ~切れ味が命~

剪定バサミは最も使用頻度が高い道具です。直径2センチくらいまでの枝なら、これ一本でサクサク切れます。なんだかいろいろと言われますが、私はそこまでハサミにこだわる必要はないと思います。
最もおすすめしているのはどのホームセンターにも必ず置いてある「岡恒(おかつね)」の剪定バサミ。間違いがないので、とりあえずこれを買っておけば10年以上使えます。

剪定バサミ おかつね

世界的にも日本の“Okatsune”ブランドとして知られ、多くの海外の園芸家たちが「Japanの剪定バサミOkatsune、高いケドおすすめダヨ」と言っています。せっかく容易に手に入る日本にいるのですから、まずはこのオーソドックスなものを使ってみて、もっと良いのが欲しいと思ったらさまざまなタイプを探してみるのがよいでしょう。
ベテラン果樹農家や庭師さんたちもよく使っているので安心です。ただし、赤と白の色が反転しているよく似た廉価な商品も多いので注意しましょう(最初はそちらでも十分です)。

剪定ノコギリ~太枝の強い味方~

直径3センチを超える枝の場合は、ノコギリの出番です。剪定用のノコギリは、生木専用に設計されており、目詰まりしにくく、切り口がきれいに仕上がります。
折りたたみ式で刃渡り20〜24センチのものが使いやすく、ポケットに入れて作業できます。替刃式のものを選べば、切れ味が落ちても刃だけ交換できて経済的です。
私のおすすめは、やはり高級なものではなく、安くてもよいのでとにかく刃が粗いタイプです。チェーンソーじゃないと無理だと思えるような太枝もズバズバ切れてしまいます。

ノコギリ

切れないノコギリで剪定をすると、すぐに疲れて、大変に感じますが、ズバズバ切れるノコギリを使えば、もっと切れる木はないのか!と探してしまうくらい剪定が楽しくなります。

脚立~安全第一の高所作業~

意外と軽視されがちですが、脚立選びは安全に直結します。果樹の剪定では、不安定な場所での作業も多いため、しっかりとした脚立が必要です。

三脚と四脚

写真のような2タイプの脚立、よく見ると思いますが、どちらが剪定に良いでしょう?

これは断然三脚タイプが圧倒的におすすめ。よくある家庭用の四脚の脚立は、剪定向きではありません。
家庭の電気工事や清掃などの業者は四脚を使っていますが、庭師を呼ぶと三脚を持ってくるはずです。
というのも、四脚というのは、地面が平らであれば安定しますが、一足でも宙に浮いていると途端に不安定になります。

一方、三脚だとどんな地形にでも対応して常に安定した状態で作業できます。植物は平らなコンクリートやアスファルト、フローリングの地面には植えられていないため、三脚が向いているのです。
高さは1.5〜2メートルあれば、家庭果樹のほとんどに対応できます。アルミ製で軽量なものが扱いやすいですが、安定性を重視するなら少し重めのものを選びましょう。

安全のための注意点

  • 平らでない地面では四脚を使用しない
  • 最上段には絶対に乗らない(メーカーも禁止している)
  • 雨や朝露で濡れているときは避ける

剪定が終わったら、道具の手入れと枝の切り口の処理を忘れずに。これを怠ると、次回の作業効率が落ちたり、病気が広がったりします。

道具の消毒と手入れ

病気の木を切った後は、道具の消毒が必要です。
方法は簡単。70%エタノールか、家庭用漂白剤を10倍に薄めた液でふき取り、乾燥させてから、機械油を薄く塗りましょう。

切れ味が悪くなったハサミは、砥石(といし)で研ぎましょう。ホームセンターの園芸用ハサミのすぐ近くに必ず安価な研ぎ石があります。あれで十分です。濡らして研ぎますが、剪定バサミは研ぎ続ければずっと使えるものです。切れ味の悪い道具で切ると、切り口がガタガタになります。

砥石

剪定バサミの刃の面が斜面になっている側(写真の赤い矢印側)を研ぎます。

剪定バサミを研ぐ

裏側の平らな面(写真の青い矢印側)の噛み合わせ部分を削ってしまうと、受ける刃との間に隙間(すきま)ができて細い枝が切れなくなるので注意しましょう。

剪定バサミを研ぐ

特に際(きわ)の部分、仕上げ石でこの部分の刃を立ててあげればスパスパ切れるようになります。

太い切り口には癒合剤

直径2センチ以上の切り口には、癒合剤を塗りましょう。「トップジンMペースト」などの商品名で売られています。

これを塗ることで、雨水の浸入を防いだり、病原菌の感染を防いだり、切り口の乾燥を防いで癒合を促進したりすることができます。
ちなみにプロ農家では木工用の接着剤(木工用ボンドなど)で代用する人もいます。

雨水の浸入を防ぐ・病原菌の感染を防ぐ・切り口の乾燥を防ぐ、という目的はボンドで十分に達成されます。ただし殺菌成分が入っていないので、可能であれば専用品を使いましょう。

道具と時期が剪定の成否を分ける

今回は剪定の適期道具選びについて、解説しました。良い道具を使い、適切な時期に剪定することで、果樹へのダメージを最小限に抑えられます。それだけ、自分の体を切られるという行為は、植物にとってはストレスでもあるということです。

覚えておくべきポイント

  • 落葉果樹は「休眠期の冬」、常緑果樹は「成長開始前の春」
  • 果樹のタイプによって微妙に時期が異なる
  • 道具は「切れ味」と「安全性」
  • 切った後のケアも重要

次回は、最重要の骨格編。理想的な骨格づくりの方法を見ていきましょう。

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