品種登録制度とは?基本のルールと対象範囲

品種登録制度とは、新しい品種を開発した人(育成者)に、その品種を独占的に利用できる権利(育成者権)を与える仕組みです。
新しい品種が生まれるまでには、数年から10年以上の歳月と莫大なコストがかかります。そうした背景からこの品種登録制度は、開発者の努力を「知的財産」として守り、次の新品種開発への投資を促し、日本の農業全体の競争力を高めることを目的としています。
対象は「登録品種」のみ。一般品種は対象外
ここで最も重要なポイントは、このルールが適用されるのは「登録品種」に限られるということです。
古くからある在来種や、登録期間が終了した品種、そもそも登録されていない品種などの「一般品種」については、本制度の制限を受けません。
農家の作業フローでチェック!どこにリスクがある?
ここからは実際の作業フローに沿って、どのような行為が違反にあたるのか、NG例とOK例の対比を基に紹介します。
【フェーズ1】栽培の準備編(種苗の購入・入手)

栽培の第一歩となる「種や苗の入手」。ここで入手ルートを間違えてしまうと、その後の栽培がすべて違法行為になってしまう可能性があります。
NG例:近所の農家から譲り受けた
・近所の農家から「余った苗を安く売るよ」と声をかけられ、以前から気になっていた品種だったため購入し、自分の畑に植えた。
登録品種の場合、正規の販売店を通さずに知人から種苗を購入して作付けすると、その種苗が無断で増殖されたものであった場合、購入者であっても損害賠償請求の対象となる可能性があります。
OK例:正規店から購入し、ルール通りに使う
・正規の種苗店やJAから登録品種の苗を購入し、ラベル等に記載された許諾条件の表示に従って自分の圃場で栽培した。
正規のルートで購入した苗は、育成者の許諾を得て販売されているものなので、安心して栽培を始められます。
また購入後は、タグやカタログに記載されている「栽培地域の指定」などの条件もチェックするようにしましょう。登録品種の中には、育成者が国に利用制限届出を行うことにより、「栽培できる地域」を特定の県などに制限している場合があり、それ以外の地域で栽培(収穫物の生産をする)すると育成者権侵害になります。
栽培準備時のチェックポイント
入手ルートの確認
「誰かからもらったもの」を種苗として使うのは避けましょう。必ず正規の販売店やJAを通じて購入し、伝票やタグを保管しておくことが、自分を守る証拠になります。
【フェーズ2】栽培中(増殖・管理)

苗を植え付けた後、栽培の過程で苗を増やしたり、場所を移動したりする際にも注意すべきポイントがあります。
NG例:栽培場所を勝手に変えた
・県内限定の登録品種の苗を、指定されていない県外の飛び地圃場へ持ち出して栽培した。
「栽培の準備編」で確認したように、「栽培地域」に関する利用制限届出がされた登録品種(例:〇〇県内限定)は、許諾なく指定地域外で栽培することが禁止されています。たとえ自分の所有する農地であっても、指定地域外であれば育成者権侵害となります。
OK例:正規で購入した苗を知人に譲った
・正規のお店で買った苗が余ったので「未使用の苗」は知人に売った。
登録品種であっても、購入した苗そのもの(自ら増やしていない苗)であれば、無償・有償を問わず、原則として他人に譲渡することは可能です。ただし、ラベルや契約書に「第三者への譲渡禁止」や「栽培地域の指定」がある場合は、その条件を守る必要があります。トラブル防止のため、品種名や制限事項が書かれたタグやラベルは付けたまま譲渡しましょう。
栽培中のチェックポイント
「増やす」行為に注意
登録品種の場合、「買ったものをそのまま使う」のはOKですが、そこから「次世代の苗を作る(増殖する)」行為には許諾が必要なことがあるため注意しましょう。
栽培場所の制限
その品種が、利用制限届出がされた(「栽培地域限定」の制限が付いた)登録品種でないか、苗のタグやカタログを必ずチェックしてください。指定された地域外での栽培は育成者権侵害となります。
【フェーズ3】収穫後(販売・残さ処理)

収穫物を販売する段階や、収穫後の片付けの際にも守るべきルールがあります。
NG例:違法苗からの収穫販売、剪定枝の譲渡
・無断で増殖した苗から収穫した野菜や果実を、直売所やネットで販売した。
・収穫が終わった果樹の剪定枝を「接ぎ木に使えるから」と近所の生産者に譲った。
まず元となる苗が登録品種であって、無断増殖されたものである場合、そこから得られた収穫物にも育成者権の効力が及びます。つまり、違法な苗から育った野菜や果物を販売する行為そのものが、育成者権侵害となります。
そして最も注意すべきなのが、剪定枝です。登録品種の剪定枝を、接木に用いるために許諾なく他人に譲渡することは、種苗の無断譲渡(育成者権侵害)にあたります。
OK例:正規苗からの収穫販売、自家消費
・正規で手に入れた苗から収穫した野菜や果実を市場やネットで販売した。
・収穫物のうち、売れ残ったものや規格外品を家族や親戚で食べた。
登録品種であっても、正規のルートで入手し、適切に栽培した苗から得られた「収穫物」を国内で販売することは、育成者権の効力が及ばない(権利の消尽)ため、基本的には自由に行えます。
収穫物を自家消費することも、種苗法上の制限はありません。
収穫後のチェックポイント
「収穫物」と「種苗」の区別
登録品種の場合、食べるための収穫物を売るのはOKですが、増やすための「枝・茎・種芋」を売ったり譲ったりするのはNGです。剪定枝などは、勝手に増殖に使われないよう適切に処分しましょう。
正規の種苗を使うことが大前提
登録品種において収穫物の販売が自由なのは、あくまで「正規の苗(または許諾を得て増殖した苗)」から採れたものであることが大前提です。「売れるから」という理由で、出所の不明な種苗を取り扱ったり、無断で増殖することのないようにしましょう。
【事例で学ぶ】実際にあった種苗トラブル
法改正によりルールが厳格化されている今、「知らなかった」では済まされないケースが増えています。ここでは実際に摘発や処分につながった事例をモデルに、どこに落とし穴があったのかを見ていきましょう。
事例1:フリマアプリでの「自家増殖苗」の販売

ある農家が、育成者権者に無断で登録品種を増殖し、育てた苗をフリマアプリやネットオークションに出品・販売した。
【リスクと結果】
育成者権者の許諾なく種苗を増殖し、譲渡(販売)する行為は「育成者権の侵害」にあたります。実際にフリマアプリで無許可のイチゴ苗を販売した人物が、種苗法違反の疑いで逮捕・書類送検された事例があります。
故意に権利を侵害した場合、10年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金(あるいはその両方)という非常に重い刑罰が科される可能性があります。
事例2:知人からの「善意の譲り受け」と増殖

ある農家が知人(行政関係者や近隣農家など)から「試験的に育ててみてはどうか」「よく育つから」と、登録品種である果樹(カンキツ等)の苗木を数本譲り受けた。その後、その木から穂木を採って接ぎ木し、自分の畑で樹を増やして栽培・出荷を行っていた。
【リスクと結果】
たとえ最初の入手が「善意の譲渡」や「お裾分け」であったとしても、正規の許諾契約を結ばずに、その苗を親株としてさらに増殖(接ぎ木など)する行為は違法です。
実際に知人から譲り受けた苗木を元に無許可で株を増やし、収穫物を販売していた農家に対し、裁判所から罰金刑が下されたケースがあります。
果樹などは増殖から摘発まで数年〜十数年かかることがありますが、過去の行為であっても権利侵害として罪に問われることがあります。
品種登録制度の仕組みを正しく理解してトラブルを防ぐ

種苗法の品種登録制度は、開発者の権利を守り、日本の農業全体の発展を支えるための大切な仕組みです。日々の営農において知らず知らずのうちに権利を侵害し、大きなトラブルに発展させないよう、以下のポイントを徹底しましょう。
・種苗は必ず正規店やJAで購入し、証明となるタグや伝票を保管する。
・増殖、栽培地域の制限といった利用ルールを正しく把握する。
悪意のないお裾分けや確認不足であっても、重い刑事罰や損害賠償の対象となるリスクがあります。正しい知識を持ち、ルールを遵守することが、あなた自身の農業経営を守ることにつながります。
お役立ちサイト
知ってますか?種苗法の「品種登録制度」(マイナビ農業特設サイト)
農業知財基礎セミナー(JATAFF)
そのタネ、ほんとに大丈夫?~育成者権侵害について~(農林水産省)
(この記事は、農林水産省補助事業「令和6年度 野菜種子安定供給緊急対策事業」を活用し、作成しています)















