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「原価は倍、価格は変わらず」苦境の和牛農家が挑む高級焼肉店の舞台裏

「原価は倍、価格は変わらず」苦境の和牛農家が挑む高級焼肉店の舞台裏

東京・銀座などの焼肉店の共同経営に踏み込み、食肉卸・飲食のための事業会社まで立ち上げた長崎県島原市の株式会社田浦畜産。全国に2軒しかない島原和牛の肥育農家のうちの1軒であり、飼養頭数は約1685頭(2025年1月時点) 。大規模に展開する田浦畜産の「和牛の価値を正当に評価してもらいたい」という思いの背景と戦略を掘り下げました。

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原価高騰と構造的な課題

田浦喜郎さん

海外情勢からの影響も受け、飼料代やガソリン代が高騰する昨今。畜産業も大きな影響を受けています。
「生産原価は10年前などと比べれば倍近くも上がっています」と話すのは、田浦畜産の専務取締役である田浦喜郎(たうら・よしろう)さんです。同社の従業員は約10人 で、その人件費アップも見込む必要があり、今後も原価が上がることは想像に難くありません。
「もともと畜産業は、生産から消費者に届くまでに何段階かを踏み、手数料が積み上がります。最終価格を抑えれば、結局のところ生産者の利益が減るという構造です。また基本的には、相場の価格で取引されるため、生産コストが販売価格に反映されません」
これに加えて、生産の工夫が価格に反映されないことも課題でした。
同社は創業した1954年 以来、成長促進のためのモネンシンやホルモン剤は使用せずに生産をしてきました。「これらは日本で有害とされているものではありません。ですが当社では創業者である祖父の代から、使用せずにきました。モネンシンを使っているものと比べると、あっさりとした味が特徴です。『脂が飲める』『何枚でも食べられる』と話す焼肉屋のオーナーもいますよ」と喜郎さんは話します。
しかしモネンシンを使わないということは生産のサイクルが長くなることであり、なおかつ価格はモネンシンを使ったものと区別はされません。
原価の高騰と、もともとあった業界の構造的課題。これらを解決するための、同社の取り組みの一つが、東京の一等地にある焼肉店の共同経営でした。

銀座、赤坂…。一等地でブランディング

現在、田浦畜産が共同経営を行うのは東京・赤坂にある「焼肉 赤坂 えいとまん」、北千住の「オカン焼肉 紅ちゃん西口店」、そして銀座の「焼肉神威」と「割烹かむい」の4店舗 。全て、同社が生産する肉を扱っています。
また肉を扱うだけでなく、その加工や流通も目の届く範囲で行えるように、2024年にKIHACHIフードプロジェクト株式会社を設立しました。KIHACHIフードプロジェクトの田浦喜史(たうら・よしふみ)さんは「会社設立は2024年ですが、もともとは田浦畜産の食肉事業部でやっていたものです。それを生産と販売では、お金の計算の仕方も違いますし、事業規模も拡大させるということで切り離した形です」と話しました。2026年は年商4億円 ほどが見込まれるといいます。
事業の目的は「和牛の価値の最大化」。そのために高価格帯を狙う必要があり、集客も考えると東京の一等地への出店が必要だったと同社。
一方で生産面では、オリジナルブランド和牛を生産し、飼料は独自に配合。また共同経営者や、常連客には農場見学をしてもらうなど、和牛の価値を伝えることを重視しています。銀座の割烹かむいでは、提供される黒毛和牛「神威(かむい)」についてプロジェクションマッピングで伝えるなど、エンターテインメント性を加えたオリジナリティーある形態としています。

積極的にパートナーシップを組む

付き合いのあった経営者との連携

喜郎さん(左)と、「焼肉 赤坂 えいとまん」を共同経営する株式会社えいとまん、代表の八幡竜徳(やはた・たつのり)さん

しかし、なぜ「共同経営」という形を取っているのでしょうか。
聞くと「飲食に詳しくはないから」という答えが返ってきました。「ただ、やりたいことは明確でした。そのイメージを実現するには、プロフェッショナルにお願いしたほうが早いかなと」と喜史さん。
そこで「生産段階にも踏み込んでブランド化した店を作りたい」と考える経営者とビジョンを共有しつつ、タッグを組んでいきました。パートナーにはそのビジョン以外にも、肉のカット技術や店舗運営の力も求めていたと同社。そこに苦労はあったようですが、それまでに付き合いのあった焼肉店経営者と連携を組むに至りました。
「店舗の売上や大まかな方針は共有してもらい、田浦畜産のブランド牛を使ってもらう。あとは、ほぼ権限移譲しています。メニューもお任せですし、肉の原価もきちんと示しています」(喜史さん)

生産と消費の距離感の短さがメリット

任せることのリスクはあるものの、店舗から生産現場へのフィードバックが直接来ることは大きなメリット。
「例えば『味が薄い』や『ちょっと脂が厚い』など、率直に言ってくれる。それを基に育て方を見直しています。また実際に東京の店に行って、お客様とも交流しますよ。どんな人が食べてくれているかが分かることも、僕らとしては楽しみですよね」と喜郎さんは話します。

日本ハムグループとの取引実績も強みに

また加工や流通について日本ハムのグループ会社の協力を得ることで、鮮度の良いものを各店舗に届けることを実現しています。
これは田浦畜産に日本ハムとの取引実績があったからであり、また一方では新規事業に踏み出すからといってその取引量を減らさなかったことにもよります。
喜郎さんはこれについて説明しました。
「例えば、もともと10頭を出荷していたら、こちらで使用する1頭分を増やすという形ですね。先方は、処理とカットの分の費用が増えますし、頭数は10のままです」
そのため利害関係は生まれず、むしろ協力関係にあるといえます。

循環型を目指すKIHACHIフードプロジェクト

KIHACHIフードプロジェクトの今後について喜郎さんは話しました。
「畜産だけでなく、農業全体を巻き込む、循環型を目指したい。畜産での最大のネックは家畜のふん尿。これをたい肥として、地域の農家に使ってもらい、出荷が難しいB級品などを飲食店で活用する。すると値段も付きますし、循環が生まれていくと考えています。今も使ってもらっているところはありますが、更に広げていきたいですね」
他にも6次産業化として、YouTuberの相馬トランジスタさんとコラボレーションして、カレーやハンバーグの販売も行っており、今後はその販路を増やすことも視野に入れています。
「KIHACHIフードプロジェクトの名前は、田浦畜産の創業者である『田浦喜八郎』に由来します。また『8』という数字は『無限』に重なります。生産者と消費者をつなぎ、和牛の未来を創造し、喜びを無限に届けていくという思いも込めています」
生産に込めた手間や思いなどが適正に評価されることで、更なる広がりを生み出したいと考えるKIHACHIフードプロジェクト。使命感を抱きながら、取り組みを進めています。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

株式会社田浦畜産
https://taura-chikusan.com/
KIHACHIフードプロジェクト株式会社
https://kihachi-foodproject.com/

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