価格は農業経営において非常に重要である
マーケティングの戦術を考えるときの基本的な考え方に4Pがある。これは、Product(商品)、Place(販売場所、チャネル)、Price(価格)、Promotion(広告宣伝)の頭文字をとった用語であり、この4つの要素を考えることをマーケティング・ミックスと言う。
この4Pの中で、改善したときに直接的に利益を生み出すものは、実は価格しかない。商品(農業の場合は農産物)は作るまでに開発コスト、生産コストが発生するし、チャネルの開拓(販売先を見つける)にも、人件費や展示会出展といったコストがかかる。広告宣伝も、実行するにあたり必ずコストが発生する。しかし、価格を上げることができれば、それは直接的に利益率の向上につながるのである。

2026年4月1日から、生産から小売りまでの農産物を含む食品のサプライチェーン全体で「合理的な費用を考慮した価格形成」を促進する法律である「食料システム法」が全面施行された。この法律では、食品関連事業者は、コスト上昇に基づく価格協議に誠実に応じることが努力義務として課され、違反すると食品Gメンによる指導がなされる。この法律が成立した背景には、食品事業者の低利益率と価格転嫁の難しさがある。
農産物も含め、食品の多くは利益率が低い商品が多い。人々が普段から食べるものであるため、薄利多売(利益率を低くし、回転率で稼ぐ)になることに加え、毎日食べる、購入するため、消費者の価格感度が高くなってしまうからだ。しかし、利益率が低いからこそ、価格転嫁ができなければ経営が圧迫されてしまう。物価高騰、資材高騰がつづくなか、持続的な食品産業、農業を考えていくにあたり、合理的な価格形成は不可欠であり、食料システム法は生まれた。
これからの農業経営において、資材や人件費の負担は確実に増していく。だからこそ、これからますます、自分の販売する商品の価格設定は非常に重要となってくるだろう。

消費者は価格をどう判断するか
消費者の多くは、価格の高い/低いを「比較」によって判断している。特に食品においては、今までの購買経験が豊富にあるため、自分の経験に基づいて消費者の中に一定の相場感が形成されている。これをマーケティング用語で「参照価格」という。例えば、トマトであれば、毎週買いに行っているスーパーで、よく目にする価格が3玉398円であれば、頭の中に「トマトは3つで398」という相場感(参照価格)が形成される。そして、3玉598円のトマトがあれば、比較して「高い」と感じ、3玉298円のトマトがあれば「安い」と感じるのである。参照価格は、その消費者個人の購買経験によって個人ごとに形成されるため、同じ3玉598円でも、都心の一等地の高級スーパーで3玉698円のトマトを日常的に購入している人は「安い」と感じるし、直売所で3玉298円で購入している人は「高い」と感じるのである。
つまり、何と比較されるか、を意識して価格設定をしていく必要がある。自分が作っているトマトを販売しようとしたとき、スーパーで販売されているトマトと比較される売り方をするのであれば、消費者の参照価格はスーパーの価格であるし、ギフトとして販売しようと思うのであれば、ギフト用トマトや、他の農産物ギフトとの比較になるだろう。
ちなみに、ブランディングの本質もここにある。ブランド化して、高く売りたい!と考えたときは、ブランド化していない普通の商品と比べられるような売り方(パッケージ、販売チャネル、広告宣伝…いわゆる4P)をしてはいけない。ブランド化は、その商品のポジションを他の商品と変える(差別化)することで、比較対象にされないからこそ、高く売れるのである。

価格設定の一般的な方法
自分の農産物の価格をどのように決めるべきか、悩むことも多いだろう。一般的な価格設定手法は4つある。
つ目は、原価をベースに価格を決める手法だ。生産原価100円に対し、20%の利益が取りたければ120円で販売する、といった方法である。
2つ目は、ROE(自己資本利益率)やROA(総資産利益率)などをベースに価格を決める方法である。これは例えば、トマトを作るための法人としての設備投資額なども勘案し、販売計画・生産計画と照らし合わせ、5年で投資回収も含めた利益を●●する、といった計画から逆算して価格を決める方法である。
3つ目は、消費者の価値をベースに価格を決める方法である。消費者が、その商品に価値を感じれば原価に関係なく高い価格で購入してもらえる。ブランドを作り、付加価値を高めて販売する場合の価格設定はこれにあたる。
4つ目は、他社との競争ベースでの価格設定である。競合する他社の価格を参考にして、それと戦う価格設定を行う。基本的には他社と同程度~下げる方策がとられる。
どの方法を取るにせよ、農業経営において価格を考えるうえで最も重要なことは「自分で考えを持って価格を決める」ことにある。

価格を決められる農業経営に向けて
そもそも農業経営における価格設定が難しい要因は、生産原価があるにもかかわらず、それに関係なく、青果物であれば卸売市場で、コメであれば概算金などで、販売価格が決まってしまうことにある。よって農業経営上、利益率を高めるために価格戦略を考えていくために、まず重要なことは「自分で価格決定権」を持って販売できるようにすることだ。例えば、営業をかけて直接価格交渉をして販売できる取引先を開拓することや、ECサイトを立ち上げて、直接消費者に販売する、ことなどがこれに当てはまる。
では、営業をかけて、販売先となる企業があったとして、その時にどのように価格を決めて、交渉するべきだろうか。その時には前段の4つの価格設定手法を考えてほしい。競合に合わせていくのか、生産原価ベースで交渉するのか、それとも価値をPRすることで付加価値を付けた金額を提示するのか、ということである。
また、その時は相手が企業であっても個人であっても、あなたの提示した価格は「比較」によって評価されることを忘れてはならない。それは競合企業の価格であったり、今まで購買した記憶の中の価格だったり、似たような他の商材の価格かもしれない。「何と比較されるのか」、あるいは「何と比較されるように提案するのか」を考えて価格設定を行い、提案をしていかなければならない。
具体例をあげれば、あるカレールーを作るメーカーはカレールーの価格で他社と比較されないように、「このカレールーを使えば、プロの味が1皿あたり80円」といったプロモーションを実施した。価格の比較対象を他社のカレールーではなく、完成した1皿のカレーの価格に変えるプロモーションだと言える。
自分の商品に、戦略的に価格を設定して販売すること、それが原価高騰時代の農業経営にとって重要な要素の1つであり、利益率を高める手段でもある。ぜひ考えてみてほしい。
















