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乾田直播の常識を覆す「NARO方式」とは? 収量増と省力化を両立する“二度の鎮圧”と雑草対策

kawashima_reijiro

ライター:

乾田直播の常識を覆す「NARO方式」とは? 収量増と省力化を両立する“二度の鎮圧”と雑草対策

日本の水稲栽培は岐路に立たされている。農業生産者の高齢化と後継者不足は深刻さを増し、耕作放棄地の増加が懸念される。農地を引き受ける担い手は既に手一杯という状況も珍しくない。それでいて将来、担い手が引き受ける農地面積は、現在の約2倍に拡大すると見込まれている。より少ない労力で広大な面積を管理する手法の確立が課題だ。この課題の有力な解決策として、長い開発の歴史と確かな実績を持つ「NARO方式乾田直播」に注目したい。この技術は日本の稲作が直面する課題を乗り越える力となるのだろうか。

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「NARO方式」は二度の鎮圧と雑草対策が肝

直播栽培には、水のない畑のような田面に種子を播く乾田直播と、水を張った水田に播く湛水直播がある。どちらも育苗と田植えを省略でき、省力化に大きく貢献する。では「NARO方式乾田直播」とは何なのだろう。農研機構の古畑昌巳(ふるかた・まさみ)さんが教えてくれた。

「NARO方式乾田直播」とは、乾田直播をより確実に成功へ導くために農研機構が開発した技術体系。最大の特徴は、播種前と後に行う「二度の鎮圧」にあると、古畑さんは言う。

「通常の乾田直播では、圃場の凹凸によって播種深度や種子周りの水分環境が不均一になりやすく、結果として出芽が揃わない『出芽ムラ』が課題でした。『NARO方式乾田直播』では、まず播種前に圃場を踏み固めて均一でやや硬めの出芽床を作ることで、この問題を解決します。さらに播種後にもう一度鎮圧を行うことで、種子を適度な深さに安定して埋め込み、土壌中の水分を確保するとともに入水後に漏水しない圃場にします」

これにより、初期生育の安定化を実現する。この二段階の鎮圧が「NARO方式乾田直播」の最重要ポイントである。

「もう一つ大切なのは『雑草対策』です。一般的な乾田直播では耕盤を残し代掻きで水を持たせていましたが、出芽初期の稲と雑草が養分や光を奪い合い、生育に直接的なダメージを与えます。これに対抗するには、計画的で効果的な抑制体系が不可欠です。そこで『NARO方式乾田直播』では、播種後から入水までの間に二段階の除草剤散布を基本とする雑草管理を体系化しました」

「NARO方式乾田直播」の出発点は、この技術の考え方を表している。大規模な畑作で使われる高性能機械を水田で使えないか、という発想が原点にある。「畑に水を貯めて米を作る」イメージだ。「NARO方式乾田直播」は鎮圧で土壌構造をコントロールするため春の代掻きが不要。その代わり、秋にプラウ等の畑作用作業機で深耕する。これにより排水性が高まり、麦や大豆との輪作もスムーズになる。鎮圧した硬めの圃場に浅く播種するため出芽が揃い、播種後の鎮圧で種子を土に密着させて水分を確保する。二度の鎮圧により土の隙間が埋まるから漏水が減り、除草剤の効果も高まる。

「開発当初はプラウ、ケンブリッジローラー、グレーンドリルという大型機械の組み合わせを想定していましたが、今では農家さんが持つ機械で応用できるよう、必ず『鎮圧』作業が入っていることを『NARO方式乾田直播』と位置付けています。お手持ちの機械で是非、挑戦していただきたいです」と古畑さんは呼びかけた。

NARO方式乾田直播が主力のファームサンアイ

「NARO方式乾田直播」を実践して大規模経営を成功させているのが、茨城県稲敷市の株式会社ファームサンアイ。2002年から乾田直播に取り組む異色の存在である。代表取締役の一鍬田卓(いちくわた・すぐる)さんは、輪作を生かした自然体な土づくりを信条とする。

「現在の作付は水稲90ha(コシヒカリ23ha、あきたこまち25ha、にじのきらめき20ha、ハイブリッドとうごう4号22ha)と麦・大豆が20haです。水稲のうち早場米として早期に出荷するあきたこまちとコシヒカリの15haだけは移植栽培を行っていますが、残りはすべて『NARO方式乾田直播』です。自前の育苗ハウスは持たず、苗は専門業者に委託しています。乾田直播に不向きな10a未満の小区画も約2haありますが、10年後には農地集約を進めて、再び『オール乾直』に戻すことも視野に入れています」と一鍬田さんは語る。

水稲全体の取り組み

同社では技術の向上により、乾田直播であっても8月20日頃から収穫を開始でき、9月中~下旬には完了させてしまう。これにより後作の麦・大豆の適期作業を可能とし、年間を通じた遅延のない営農サイクルを実現している。

「麦・大豆との輪作には、目的があるんですよ。第一に、地力の維持・向上です。畑地化した圃場は、通常、畑地化すると乾土効果で窒素供給量が増加しますので、次作から収量がアップすることが知られています。このため水稲の収量が格段に上がります」。新しく借りた圃場でも例外なく、この傾向を示しているという。

もう一つの目的は、乾田直播に不可欠な圃場の均平維持であると、一鍬田さんは言葉を続ける。「毎年すべての圃場を整地できるわけではないので、畑作物を入れ、大豆収穫後は必ず整地を行います。年間およそ30haを目標にして整地を進めており、結果として3~4年に一度の頻度で全耕作面積の均平を維持しています」

一鍬田さんが言うように、「自然体の土づくり」と輪作を活用することで、過剰に手間をかけず土をいたわりながら収量を上げる技術であると、筆者は理解した。

同社の1年は、一般的な稲作のイメージとは異なる。8月の稲刈りと同時にトラクターで耕起を始め、稲刈りが完全に終わる9月には、最初に耕起した圃場へ2回目の耕起を行う。10月下旬から11月上旬に麦播種が終わると、田んぼに土づくり資材投入を開始。12月下旬まで順番に混和・砕土・鎮圧を進める。

年が明けて2月から4月は天候を見ながら播種して二度目の鎮圧を実施する。4月上旬に出芽前除草を行い4月下旬には入水を開始。5月に入水後の本田除草剤とドローンでのつなぎ肥の施肥、7月に追肥とカメムシ防除。そして8月から再び収穫を開始する。

「次年度の種籾の発注は6月・7月に行いますから、ざっくりとした次年度計画はこの時点で立てています。それをふまえて稲刈り時に再確認しています。行政は3月頃に営農計画書をご覧になるようですが、当社では稲刈りと同時に次年度産が開始されています。忙しそうに見えますが、大型機械での作業がメインですので、負担は多くありません。これも乾田直播のやめられない魅力ですね」と一鍬田さんは笑う。

ファームサンアイにとって、鎮圧作業は収量と品質を左右する最重要工程だ。

「鎮圧は播種深度を均一にするために不可欠です。これがないと発芽がバラつき、除草剤のタイミングを逃して草に負けてしまう。生育も不揃いになり、結果、収量が上がりません。10年前にケンブリッジローラーを導入したことで、この長年の課題が解決しました。今では燃料費や労力の負担を上回り価値がある当たり前の作業になっています」

乾田直播と移植の両立は簡単ではない。天候に左右されるイメージの乾直だが、同社ではどのように直播を行っているのか。「雨の後に水たまりのあるなかでも直播を行っています。乾田直播は乾かなければできない、という思い込みが強すぎると、効率化は進みません。私からすれば、育苗も天候に左右されます。苗は待ってくれませんからね。天気に左右されるのは、乾田直播も移植も変わらない。だからこそ、鎮圧で発芽率と初期成育を担保できる『NARO方式乾田直播』なのです。鎮圧こそが乾田直播の胆なのです」(一鍬田さん)

防除体系も「出芽前」と「入水後」の計2回とシンプルだ。それがもたらすメリットは、省力化とコスト削減である。90haを超える面積を役員含めわずか4名で運営し、臨時雇用はほぼない。勤務はほぼ定時で日曜は休みだというから驚きだ。大型機械への投資も、育苗ハウス等の施設が不要な点を加味すれば、トータルでコスト減に繋がっている。

一鍬田さんは、乾田直播のマニュアル化のしやすさに、地域農業の未来を見ている。

「作業体系が分かりやすいので、後継者や新規参入者にも伝えやすい。うちは借地だけでやっている法人です。近隣には元気で農業が好きなベテランの方々がたくさんいるので、そうした方々の力も借りながら、地域農業を次の世代に引き継いでいきたいです」

かつては乾田直播をネガティブに捉える世代もいて、苦言を呈された時期もあったという。「でも、皆さん真剣に農業に取り組んでいる方々です。今では多くの方々がその価値を理解し、応援してくれています。この広大な面積を管理するには省力化が必須。農研機構の皆さんとも協力して、乾田直播の普及を進めていきたいです」(一鍬田さん)

NARO方式が拓く未来

農研機構は長年、全国各地の大学や農業生産者と協力して、「NARO方式乾田直播」の実証を行ってきた。その結果を反映させて、地域ごとに実践的なマニュアルとして体系化された。実証結果では、従来の移植栽培と比較して収量はほぼ同等でありながら、春作業を大幅削減する省力化効果が大きいことが示されている。古畑さんは今後の展望を熱く語ってくれた。それを本稿のまとめとしたい。

「現在の『NARO方式乾田直播』が完成形ではありません。技術をさらに発展させるため、『NARO方式乾田直播』をコア技術とした水田輪作の全国導入を推進していきます。また、寒冷地や降雪の多い地域でも適用できるように播種時期や作業の柔軟性を高め、さらなる作業の平準化を目指しています」

技術の開発だけではなく、全国の農家さんに「使える形」で届けることが使命だと、古畑さんは言葉を続ける。「地域ごとの詳細な技術資料の整備、ICTを活用したモデル圃場の展示や導入事業の紹介も進めています。これらが一体となり、農家の皆さんが人手や時間の制約から解放され、安定した収量と高い経営効率を実現できる。そんな未来を目指しています」

『NARO方式乾田直播』は、省力化と収量安定を同時に達成する、長い年月をかけて確立された確かな技術だ。農地の集積が加速する未来に向けて、担い手が水田を守り、安定した生産と技術を次世代に繋いで行くための最有力の選択肢だ。

参考:農研機構乾田直播栽培技術マニュアル
画像提供:農研機構

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