「何がなんでもやってやる」。新品種育成と向き合う

兵庫県が独自の品種を開発したのは20年ぶりのこと。兵庫県南部を中心に作付けされている「キヌヒカリ」の白未熟粒が多発したことを受け、その代替品種として高温耐性に優れ、なおかつ味のいい品種の育成が2016年にスタートした。
「あの令和の米騒動も暑さが原因の一端なんですが、昨年の暑さは『そこまで来るか』というほどでした」と篠木さんは語る。篠木さんが所属する兵庫県立農林水産技術総合センターは、兵庫県の農林水産業を支える試験研究機関として技術の開発と普及に取り組んでいるところだ。
「キヌヒカリ」に代わる高温に強いオリジナル品種の開発は、1日も早い完成が求められていた。そのため、一般的には14年が必要とされる米の新品種の開発を、わずか9年でやってのけた。

兵庫県立農林水産技術総合センター 主任研究員・篠木佑(ささき・ゆう)さん
なぜここまで開発期間を短縮できたのであろうか。それは、炎天下と同じ温度を生み出す「ガラス温室」などの設備が大きい。室内温度に連動して自動で温度調節ができ、お米が白く濁る高温環境を維持できるため、暑さに強い新品種の開発を実現できた。加えて、ガラス温室で冬場も稲を栽培できる体制を整え、年に2回収穫できるようにしたことで、大幅な開発期間の短縮に成功したのである。

炎天下と同じ温度を生み出すガラス温室
実は、篠木さんは兵庫県出身ではない。しかし、大学時代から夏の暑さによるお米の白濁化について研究しており、「いつか米の栽培をしたい」と考えていたそうだ。そして、酒米「山田錦」ゆかりの地である兵庫県を、自身の仕事のスタート地点に選んだのである。
想像を超える猛暑と害虫。1万種から1つを選ぶ過酷な道のり
品種育成上の技術的なスタートは交配である。交配する親となるお米は、どのようにして決めたのだろうか。
「簡単に言うと、高温耐性があるお米と食味の良いお米をかけ合わせると、暑さに強くて美味しいお米を狙えます」
暑さに強い品種と味に定評のある品種を交配。選んだのは、福井県農業試験場で育成された「越南243号」と鹿児島県農業開発総合センターが開発した高温耐性に優れる「西南151号」である。
「コ・ノ・ホ・シ」の開発に当たっては、毎年10組の品種を交配し、そこから稲の子孫を作っていった。親の持つ特性を子どもに定着させる固定という作業では、だいたい5世代目ほどまで種まきを繰り返すと、親と同じような形質に定着していく。こうして誕生した候補は、実に1万種類にも及んだ。
「長所と短所を照らし合わせながら、1万種類の中からまずは500個を選ぶ。そしてそれを種として、次の年には500種類の中から『本当に良いもの』をまた選んでいくんです」
言葉でいえば簡単であるが、気の遠くなるような作業である。

交配し、そこから稲の子孫を作っていく
暑さに強い品種を開発するためには、開発途中の品種が「本当に暑さに強いのか」を実際に栽培して検定しなければならない。ここでは前述のガラス温室を用いて気温をコントロールしながらイネを栽培する方法を確立させ、安定的に厳しい暑さを作り出した。こうして、交配して得られた約1万種の中から選抜された1系統が「コ・ノ・ホ・シ」である。しかし、9年間の開発途中には想定外の困難も起きたという。
「一番困ったのは、ここ5年くらいの間に流行り出したイネカメムシというやっかいな害虫ですね。スタートしたときは全然いなかったんですが、なぜか急に一気に増えて。調査もできないくらい被害が出て、その対策に追われました」
それだけではない。ここ2、3年の暑さは想定よりも過酷で、ガラス温室が要らないほど外の気温が高くなった。
「暑さに強いというのは絶対に要る要素ですが、作りやすくなければ農家の方々が受け入れてくれません。加えて、美味しくなければ消費者が購入してくれません」
どの要素が欠けてもならないという使命を背負い、地道な努力を続けてきたのである。
最終評価は人間の舌。品種に込められた思い
お米の美味しさの指標の一つに「タンパク質含有量」がある。お米の場合、タンパク質の含有量が多いほど味が落ちるとされているからだ。成分や食感などを調べて美味しさを評価する「食味の分析」が欠かせない。理化学分析の結果、新品種は「キヌヒカリ」よりもタンパク質含有量が少ない、つまり味が良いことが分かった。
「それでも、最終的にはやはり人間の舌でないと分からないのです」と篠木さんは語る。
新米が出揃うと、20〜30人の研究員が週に4回、4品種のお米の食べ比べを行った。お米を研ぐ回数、水の量などを細かく決め、全て同じ条件で炊き上げたものを食べる。試食では、香りのあるお茶やふりかけなどはNG。ご飯だけで見た目・味・香りを厳格に評価する。
「試食があるので冬場は太ってしまうんですよ」。篠木さんは当時を振り返って笑みをこぼす。
何年も続けていると、味の違いが明確にわかるようになるという。ごはんの好みはさまざまではあるが、食べ比べを繰り返し、最終的には「冷めてももちもちして美味しいお米」が選ばれた。
「コ・ノ・ホ・シ」と名付けられた新品種。「コノ」は、身近な環境や自然、住んでいる兵庫県という地を自分事としてとらえてもらい、共感してもらうこと。「ホシ」は地域・環境・土地全てを思い、地球をイメージしているそうだ。9年間の開発期間を終えた2025年秋、初出荷を迎えた。「コ・ノ・ホ・シ」の評判は上々だ。
2025年の作付け面積は150ヘクタールであったが、2026年はその10倍の約1500ヘクタールを目指している。6月上旬から中旬にかけて田植えが始まり、9月上旬には収穫できるそうだ。
「収穫が早いですね」。筆者がそう尋ねると、篠木さんは次のように話してくれた。
「今回リリースしたコ・ノ・ホ・シは早い作型(早生)なんです。遅い作型の品種も開発中で、2年後にはデビュー予定です」。今後は、「コ・ノ・ホ・シ」のさらなる栽培方法のブラッシュアップを目指している。
最後に、篠木さんに「コ・ノ・ホ・シ」に合うごはんのお供は何かと聞いた。答えは「炙った鯖のへしこ」だそう。鯖のへしこを少し炙って、ミョウガやシソを添えると、とても贅沢な気分になるのだそうだ。
100年後も残る兵庫オリジナルの新品種を目指し、さらなる努力を続けている篠木さん。「コ・ノ・ホ・シ」の今後の展開を楽しみにしたい。

篠木佑さん
写真提供:兵庫県立農林水産技術総合センター











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