ゼロから農業の道へ
山下さんが新規就農しようと思い立ち、千葉市に移住してきたのは2016年のことだ。
以前はリサイクル関連企業や太陽光パネルの企業で会社員として勤務していたが、一念発起し、知識も経験もない状態から農業の道を選択した。
大学在学時に環境を学んでいたことから、有機農業を選ぶのも自然な流れだったという。
「泥臭く現場で仕事をする方が自分の肌に合っていると思ったんです。元々環境にやさしい仕事をしたいという思いも強かったので、有機農業が自分に合っていると思いました」
地元は奈良だったが、東京近郊で売りやすいこと、スーパーの店舗や本社も多かったことから、山下さんは千葉市で就農することを決意。
そこから農家の元で8カ月現場研修、そして農業大学校の社会人コースで半年間学び、2018年にFarm MoWGを立ち上げた。

ビニールハウスを増設し、売り上げ拡大へ
55aの圃場とビニールハウス6棟で就農した山下さんの走り出しは好調だった。就農からわずか1年でスーパーとの契約販売がスタートしたのだ。
「千葉市の紹介でスーパーの地場コーナーに少量出荷することから始めました。まだ収量が安定していない時期だったので、少量の約束できる分だけ契約いただけたのがありがたかったです」と山下さんも当時を振り返る。
直後には有機JAS認証を取得。複数のスーパーでPB(プライベートブランド)品としても販売されるようになった。
さらに売り上げが拡大した転換期となったのは2023年だ。若葉区に新たな圃場をオープンし、ビニールハウス25棟を増設。収量の増加に伴い、契約販売の量が急増したことが大きく売り上げに寄与した。
現在はビニールハウス87棟にまで拡大し、そのうち48棟では有機JAS認証に準じてコマツナやホウレンソウなどを栽培。その9割がスーパーのPB品として出荷されている。
6haある露地で栽培している慣行野菜と両軸で経営を安定させ、2025年には売り上げ7300万円を達成した。

ビニールハウスでコマツナとホウレンソウを栽培
病害虫対策と向き合い方
しかし、もちろんうまくいくことばかりではない。病害虫が発生して品質や収量に影響が出るのは慣行栽培以上だ。有機JAS認証に準拠している以上、できることも限られる。
「基本的には作付け前に太陽熱消毒を行いますが、完全に防除することは難しく、最後にはアブラムシを手でとったりすることもあります。それでもダメでハウス1棟分のホウレンソウを全て捨てたことも何度もありました」
完全に防げるものではない。その上で大切なのは細かく見回って、つど対応していくことだと言う。
「もう一つ大切なのはお客さん(スーパー)としっかり信頼関係を築くことだと思います。もちろん最大限良い野菜をお届けするように努力していますが、どうしても虫食いが発生することもあって。そんなときに日頃から信頼関係を築いていれば、クレームになることはほぼないです」
このように、単に作物を生産するだけで終わらず、その先まで見据えることは有機農業に限らず、大切なことだと言えるだろう。

作付け前に太陽熱消毒を行うことで、土壌中の病原菌や雑草の種を死滅させる
いきなり全部の理想を追わない
2023年には千葉県で第一号となる「みどり認定」を取得し、今期は1億円に達する見込みのFarm MoWG。
急成長を遂げる同社が考える、有機農業で成功する秘訣は「最初から全部の理想を追わないこと」だと言う。
「フェーズ感を考えて、最初から自分のやりたいことを全部やろうとしないことが大切だと思います。例えば、私の場合はハウスを建てずに色々な野菜を作るというのが自分のやりたい農業に近いのですが、それは生きている間にいつかできればいいと思っていて。今の段階で捨てられるこだわりと外しちゃいけないところの線引きをして、少しずつ理想に近づけるために頑張っているところです」
無農薬・理想的な栽培・多品目展開──やりたいことは多い。しかし、それを同時に実現しようとすれば、経営は成り立たない。
まずはキャッシュを生む仕組みを作る。そこから少しずつ理想に近づけていく。こだわりを“取捨選択”することこそが、有機農業で成功する近道となるだろう。

取材協力:Farm MoWG















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