自由と制度が混在する、海女という仕事
「海に潜って、アワビやサザエ、海藻を獲る。それが海女の仕事です」。そう語るのは、三重県鳥羽市相差町(おうさつちょう)で活動する現役海女の中田さんだ。海女漁は、船を使う漁師とは異なり、基本的に素潜りで行われる。道具も限られ、自らの体ひとつで海に入り、獲物を見つけては採取する。獲った海産物は市場へ出荷され、その収入が生活の糧となる経験と技術が問われる仕事だ。
海女として漁を行うには、地域ごとに定められた漁業権を持つ必要がある。これは個人ではなく「家単位」で管理されることが多く、外部からの新規参入は難しい。仮に縁のない土地で海女を始めたいとなった場合は、現地の漁業協同組合(漁協)に加入し、漁業権を得ることが必要だという。中田さんは5人の子どもを育てる母でもある。37歳で4人目を出産し、その翌年の38歳で海女の道に入った。
海女の世界は、閉鎖的というよりも「地域に強く根ざした制度」によって守られている。

中田さんの海女グッズ(Instagram「@tacche8」より )
海の中の変化 「獲る」から「育てる」へ
38歳で海女デビューを果たした中田さん。波や潮の流れ、天候によって状況は大きく変わる。ときには岩にぶつかったり、思わぬ危険に直面したりすることもある。
一方で、海の中に身を置く海女だからこそ、見えてくる変化もある。「無くなってきた」と言われていた海藻に、今年は小さな“兆し”が見えているというのだ。
「春に潜ったとき、赤ちゃんみたいな海藻をたくさん見たんです。もう減ってきたって言われていた粗目(あらめ)も、こんなにあるんやって」。
当然、資源の減少を実感する場面も少なくない。サザエやナマコなど、冬の漁では「明らかに減っている」と話す。「獲れても痩せていることが多い。昔と比べると、海の中の“質”も変わってきている気がする」と語る。

海の様子も発信している(Instagram「@tacche8」より )
だからこそ近年は、「獲る」だけでなく「増やす」意識も強くなっているという。現在取り組んでいるのは、海藻を食べてしまうムラサキウニの駆除。資源を守るための第一歩として、地道な作業を続けている。今後は、海藻を食べてしまうアメフラシの駆除や、海藻が育ちやすい環境を整えるため、種を付けた海藻を沈めたり、岩場の掃除をしたりするなど、できることから始めるという。
「正直、お金にはならないんですけどね」。そう苦笑しながらも、「このまま減っていくのを見てるだけではあかん」と続ける。
変わりゆく地域と受入れの課題
中田さんは現在、海女文化を伝える体験プログラムにも関わっている。町を歩きながら海女の仕事を紹介し、海辺で拾った素材を使ってアクセサリーを作る。時には海外からの観光客を案内することもある。
「英語は得意じゃないんですけどね」と笑いながらも、身振り手振りで伝える時間は「楽しい」と話す。地域の魅力を直接伝えることができるのは、現場に生きる彼女たちだからこそだ。
ただし、外から人を受け入れる体制は、まだ十分とは言えない。「手伝いに来てくれる人がいたら嬉しいんですけど、受け入れる仕組みが整っていない」。短期滞在で漁や環境保全を手伝うような仕組みがあれば、地域にとっても大きな力になるはずだと考えている。
実際、地域外からの関心は少しずつ高まっている。「旅行しながら手伝いたいとか、関わりたいっていう人は増えていると思う」。そうした動きを感じながらも、「それを地域がうまく受け止めきれていないのが現状」と課題を口にする。
海の変化とともに、地域のあり方もまた変わりつつある。資源を守ること、外とつながること、その両方をどう実現していくのか。海女という営みは今、単なる伝統ではなく、未来に向けた選択の連続の中にある。

三重県鳥羽市の海(Instagram「@tacche8」より )















