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30年の執念が実を結んだ「レタス収穫機」。長野県・メーカー・生産者が挑む、栽培体系を変える一大プロジェクト

kawashima_reijiro

ライター:

30年の執念が実を結んだ「レタス収穫機」。長野県・メーカー・生産者が挑む、栽培体系を変える一大プロジェクト

日本一のレタス産地である長野県。ここでもその収穫作業は、人の手に委ねられている。レタスは傷がつきやすく、少し押されただけで時間が経つと褐変してしまう。機械収穫が難しい作物だ。ところが長野県では約30年前から、収穫作業を機械化する挑戦が始まっていた。県が企画しメーカーや生産者を巻き込みながら開発は続き、2024年には遂に収穫機が市販された。ところが、その挑戦はまだ終わっていない。長野県、機械メーカー、レタス生産者は、レタス栽培そのものが変わるような何かをしている。

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「レタスを作り続けるために」長野県が始めたレタス収穫機開発

長野県は日本一のレタス産地だ。主力は夏秋レタス。5月から10月いっぱいまで、標高や地域を変えながら産地をリレーして出荷している。真夏には標高1,000mを超える南佐久地域が重要な産地である。その一方で、長野県は山間地を多く抱えているため、平地にはない難しさがある。傾斜が多く、山に沿うような形(不整形)の圃場も少なくない。

さらに長野県のレタス栽培では、圃場全体をマルチで覆う「全面マルチ栽培」が広く行われている。条間は45cm。この長野県独自の栽培体系は、長野県のレタス生産を確かに支えているが、同時に機械収穫を難しくする条件にもなっているという。

手作業による収穫

一般的な人の手による収穫の様子

「レタスの播種から収穫まで、基本的には人の手で行われます。特に収穫は、腰を曲げて地際で切る作業が延々と続きます。長時間続けますから、現場の負担が特に大きい。そこを何とか機械化できないかという思いが、ずっとありました」

そう話すのは、長野県野菜花き試験場の中塚 雄介(なかつか・ゆうすけ)さんだ。

レタス収穫機の開発が始まったのは、およそ30年前。その背景にあったのは、人手不足ではなく、レタス産地を将来にわたって維持していくために「過酷な収穫作業を変えたい」という思いだった。

ただ、レタス収穫機は簡単には作れない。レタスは「ロゼット型」と呼ばれる、地際から葉が広がる形状をしている。しかも軟弱野菜だ。引っ掻き傷はもちろんのこと、強く押しただけで、後に褐変してしまう。キャベツのように引き抜いてから切ることもできない。地面すれすれで、できるだけ正確に切断する必要があるからだ。

「キャベツもロゼット型ですがレタスと比較して幾分ですが茎が長いため、地面から葉まで3cm以上あります。そのため、ある程度の余裕があります。レタスは本当に地際で切らなければならないのです。しかも、切った後に傷めないことも考えなければならないのです」

写真上:貴重な1993年からの開発機。写真下:2016年~の開発機。刈取部の形状は、現在別のメーカーから市販されているキャベツ収穫機に似ている

2019年からの開発機。刈取部の構造は現在の仕様に近づいているが、より構造は複雑で大型に見える

この収穫機の開発が始まったのは1993年ごろ。長野県が主導して、片倉機器工業とともに開発を開始した。当時は実用化に至らず一時的に開発が止まったものの、2016~2018年に開発を再開した。今度はコンソーシアムを組み、信州大学、ヤンマーなどが加わったほか、レタス生産者のトップリバーが実証圃場の提供を開始した。事業終了後も継続を求める声を受けて、片倉機器工業から事業を引き継いだデリカが開発を続けた。そして2024年、市場投入に至る。

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約30年に及ぶ開発の歩みは、県だけでも、農機メーカーだけでも成立しなかった。実際の圃場で使い、作物を見ながら機械を調整するレタス生産者の存在が欠かせなかった。

「2条を同時に刈りたい」現場の要求を形にする

2024年に市販されたレタス収穫機の外観。

開発の中心を担ってきた農業機械メーカーが、長野県松本市に本社を置くデリカだ。同社で収穫機開発を担ってきた胡桃沢隆(くるみざわ・たかし)さんが、開発したレタス収穫機の特徴を教えてくれた。

胡桃沢3

完成したレタス収穫機を操作する胡桃沢さん。

「仕様を打ち合わせたときの目標は、大きく2つありました。2条を同時に刈り取ることと、作業速度を上げることです」

2条を同時に扱うとなると、機械の側は複雑になる。2条のレタスが左右それぞれ違う位置にあれば、オペレーターがそれに合わせて機械を動かさなければならないからだ。そこで採用したのが、1条ごとに独立して左右・上下を調整できる構造だった。

刈取部の先端には円盤があり、これが畝をガイドする。刈取部は左右に動かすことができ、円盤が畝の高さに追従する。円盤が上下すると平行リンクによって刈取部も上下に動き、レタスを適切な位置へ導く。刈取部のスポンジクッションがレタスを優しくつかみ、燕三条の工場で製造しているオリジナルの包丁でカットしていく仕組みだ。

「全てのレタスが畝の中央にきれいに植わっているわけではありません。ですから、機械の側がレタスに合わせていく必要があります。最初の入り込みをオペレーターが設定すれば、その後は基本的に直進していく。畝とレタスに沿って機械がついていくような構造を考えました」

胡桃沢さんは言わなかったが、畝の高さをガイドして刈取部も上下に動かす複雑な機構は、全面マルチ栽培ゆえの困難さもあったように思う。マルチがなければ刃を深めに固定して切ることも可能だが、それでは収穫ごとにマルチを傷つけてしまう。全面マルチ栽培では、一度張ったマルチは2作目、場合によっては3作目まで利用するからだ。

それでも、最大で人力の10倍の速度で収穫できる機械が完成した。胡桃沢さんは、自社だけでは形にできなかった、と力説した。

「当社が製造している他の製品、例えば堆肥散布機などであれば、購入した堆肥を散布してみる、という試験ができます。これなら自社で繰り返し検証できる。ところがレタス収穫機は、そうは行きません。実際にレタス生産者さんの圃場に入れさせてもらい、その環境下でレタスを収穫してみないと分からないことが多いのです」

100点満点の機械になってから使ってもらうのではなく、まだ改善の余地がある段階で実際に使ってもらう。そのことが非常に大きかったと話してくれた。

独立や大規模化を実現する。トップリバーがレタス収穫機を使う理由

収穫機稼働風景2

このレタス収穫機を導入したのが、長野県のレタス生産者であるトップリバーだ。2016年以降、コンソーシアムに実証圃場の提供を続けており、生産者の立場から意見を提供してきた。開発のキーパーソンと言っても差し支えないだろう。

同社は長野県佐久・御代田地域でレタス・キャベツなどの露地野菜の生産を行っているが、同時に農業人材の雇用就農から独立までを支援している。その卒業生が県内外でさまざまな作目の農業経営者として活躍している、異色の農業法人だ。同社では現在、加工用の玉レタス収穫にレタス収穫機を使用している。

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「レタスの収穫は、膝をついて、腰を曲げた状態で作業します。それを3時間以上続けることもある。ここにレタス収穫機を使うことで、立ったままで作業できるようになります。身体への負担はかなり違いますね」

そう話すのは、トップリバー営農部の坂口 肇(さかぐち・はじめ)さんだ。

坂口肇_写真

作業人数にも変化があった。加工用レタスの収穫では、切る、詰める、運ぶ、トラックに積む、という工程がある。これを従来は6人で行っていたが、レタス収穫機の導入により4人で回せるようになった。

「単純に2人減らせた、という話ではないんです。余った2人を別の作業に回せる。農業では、収穫だけをしているわけではありませんから、そこが大きいですね」

トップリバーがレタス収穫機に期待する理由は、人手不足への対応ではない。同社が目指しているのは、農地が空いていくなかで、それらを引き受けて規模を拡大し、業の担い手を生み出していくこと。そのためには、限られた人数で広い面積を管理できる仕組みが必要になる。

「レタスの場合は特に、収穫の能力が、そのまま法人の能力=売上につながります。レタスの場合は営農コストに占める人件費の割合が大きく、そのなかでも収穫にかかる人件費がかなり大きい。ここを変えることができれば、経営の可能性が広がるのです」

同社では、自社のノウハウを引き継いで独立する人を増やす取り組みも進めている。農地を引き受けることができる新たな担い手を育て、彼らが規模を拡大していく。その制限要因となっている収穫能力を引き上げたい、という狙いだ。

「今の機械は、まだ『とりあえず刈り取れる』という段階です。もちろん速度も上げられる。でも、実際に圃場でどこまで能力を出せるのか、どういう使い方をすれば効率がいいのかは、検証しているところです」(坂口さん)

開発時には、収穫時の損失を5%以下にすることを目標にしていた。しかし現状は10~12%程度。圃場条件や品種によって、結果は変わるのだという。

「機械だけを見ていても駄目なんです。どういう品種のレタスを作るのか、どういう圃場でレタスを作るのか、作業する人がどう動くのか。切った後はどうするのか。あらゆる工程を、機械を最大限効率化できるように考える必要があるのです」

機械に合わせて、レタスの品種と栽培方法を変える

リーフレタス切り口

現在のレタス収穫機は非結球レタスの収穫にも利用できる

レタス収穫機は市販化にはこぎ着けたが、今は次の段階にある。中塚さんは、どの品種が機械収穫に向いていて、球形や茎の長さなどの品種特性を見極めていかなければいけないと語る。

「球形で外葉が少ない特性を持つレタスは、機械で切断した後も傷みにくく、搬送もしやすいと考えています。将来的には、機械収穫を前提とした専用品種ということも考えられると思います。今は、この機械で収穫することを前提にした品種があるわけではありません。そこはこれからの課題です。また、本県では全面マルチ栽培が一般的ですが、マルチと畝間の段差や凹凸がありますから、マルチの破損に気を使います。また、傾斜圃場は機械の走行にも影響します。現在の機械が最大限に稼働できる栽培体系そのものを考える必要があります」

品種はその通りだが、全面マルチ栽培の見直しの可能性にまで言及したのには驚いた。それほど、収穫の機械化のメリットは大きいということなのだろう。胡桃沢さんも同じ課題を指摘した。

「現状の損失を5%程度まで下げるには、機械側のアプローチだけでは難しいのです。品種や栽培方法も含めて、機械が最大限に働ける条件を作っていく必要があります」

収穫後の工程も同じであると、胡桃沢さんは言葉を続ける。「現在の機械は、切る作業を効率化します。そこにプラスチックの大型コンテナを組み合わせれば、詰める作業も効率化できます。一方、コンテナを人力で圃場から運び出すのも難しいですから、搬出の機械化も必要になります。最終的には、切り取ったレタスを拾い上げてコンテナまで運ぶところまで、一連のシステムとして考えていきたいです」

「機械を作る」から「機械で作れる農業を作る」へ

レタス栽培の将来について、中塚さんは次のように展望した。

「レタス栽培は、ここ30年間変わっていないのです。ところが、農業を取り巻く労働環境は変わりました。だから今、レタス収穫機を起点として、これまでとは異なる栽培体系を作ろうと模索しているのです。従来の栽培方法をそのままにして、そこへ機械を入れるだけではなく、この収穫機を主体とした栽培方法や品種選定、さらには品種育成も提案していきたい」

長野県のレタス産地で約30年前に始まった収穫の機械化に向けた挑戦は、2024年に市販化が実現したことで一つの区切りを迎えたように見える。だが実際には、ここからが本当の開発なのかもしれない。

「人がレタスに合わせて働く」ことを前提としてきた30年間から、「機械が働けるようにレタスを作る。そして切ったレタスをコンテナに詰めて集出荷施設までの運搬を機械を利用して効率的に行う」時代へ。

それが実現すれば長野県のレタス収穫機は普及する。その原動力となるのは、働く人を楽にし、規模拡大したいレタス生産者を助ける、機械を中心とした栽培体系だ。

取材協力・画像提供:長野県野菜花き試験場デリカトップリバー

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