野菜などを選ぶ時、セールスポイントとして「オーガニック」「有機栽培」などの言葉でPRされていることがよくあります。なんとなく体に良さそう、というイメージがあっても実際その言葉が持つ意味について正確に知っているという人は少ないようです。「オーガニック」「無農薬野菜」「有機栽培」というそれぞれの言葉の意味を追ってみましょう。
オーガニックと有機栽培。元は同じ意味の言葉です。
オーガニック(organic)の意味を英和辞典で引くと「有機の」という意味がまず出てきます。有機(物)とは無機(物)の対義語で「炭素」を含む物、生物だけが作り出せる炭素の化合物という分類で使われる言葉です。簡単にイメージするなら「焦げたり腐ったりする物」という捉え方で良いかと思います。農業における「有機」は主に肥料に使われる「堆肥」を指します。「堆肥」とは微生物の力で有機物を完全に分解した物で、原料は様々です。一番多いのは家畜の糞を原料としたものです。ほかにはコンポストなどを用いて作られる生ゴミ堆肥や有機廃棄物(米ぬかや畜糞など)ともみがらを合わせて発酵させるもみがら堆肥などもあります。もともとはそういった有機物を肥料として用いた栽培方法に対して「オーガニック」という言葉が当てられていたのですが、今は、純粋な有機肥料を用いた栽培方法という意味のほか、化学肥料や殺虫剤などの農薬を使わない「合成された農薬を使わない」栽培方法も合わせた意味で使われるようになっています。
オーガニックや有機栽培を名乗るためには農林水産省の基準を満たす必要がある
オーガニックや有機栽培を名乗るために設けられている基準は国によって異なります。日本では食品に関しては農林水産省が基準を設け、それを満たさないと「オーガニック」「有機栽培」という表示ができません。基準は細かく設定されていますが、現在の日本では有機JAS制度で「有機農産物」とされる大まかな定義は以下の通りになります。
- 化学的に合成された肥料および農薬の使用を避ける。
- 遺伝子組換え技術を利用しない。
- 播種(はしゅ)または植付け前の2年以上の間、有機肥料での土づくりを行った田畑で生産されたもの。
※多年生作物の場合は最初の収穫前3年以上
野菜ではありませんが綿花製品で「プレオーガニック」という名称が当てられた物が見られますが、有機農法を始めてすぐの物は残留農薬などの可能性から有機栽培認定ができませんので、認定をもらうまでの移行期間に作られたものを「プレオーガニック」と呼びます。有機栽培を行ったとしても開始から一定期間を過ぎないと公には「有機農産物」とは認定されません。
オーガニック・有機の表示=全てが認定された物ではない?
農林水産省の登録認定機関の検査を受けて合格した物だけが認定マークを付けて「有機」「オーガニック」という表示を許可されます。
引用:農林水産省公式サイト
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/yuuki.html
こちらのマークを商品に付けるには様々な要件をクリアし、基準を満たす必要があって大変なのですが、有機JAS制度での表示の規制は「商品そのもの」に対してのみとなります。そのため、認定機関で検査を受けて認定されていなくても、実際に有機農法を行っていて虚偽の記載でなければ広告などに「有機栽培」などと記載することに関しては制限がありません。商品そのものにマークがなくても「有機栽培」と宣伝することは可能なのです。また、食品以外でも化粧品などに関しては「オーガニック」と表示することに対して明確な基準が定められていないため、「オーガニックコスメ」などと表示されていてもその基準はメーカーの判断によるものとなります。
オーガニック=無農薬ではない
また、有機農作物の定義で「化学的に合成された肥料および農薬の使用を避ける」とあるため「オーガニック=無農薬」という認識を持たれやすいのですが有機認定される栽培方法の中で農薬の使用自体は認められています。同じ働きをする農薬でも、天然原料によるものはOKで化学合成されたものはNGという考え方です。微生物を有効成分とする殺菌剤など、「有機」表示のできる農薬が指定されています。また「有機栽培」は農薬の成分も全てが「有機」というわけではなく、天然原料であれば「無機物」も含まれています。
現在は推奨されない「無農薬栽培」という表示
消費者からの「『無農薬』の表示は残留農薬がないとの誤解を与える」、「『減農薬』の定義が曖昧で分かりにくい」といった意見を踏まえて、農水省は消費者の誤認防止を目的とした「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を作りました。
そのなかで「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」の語は、消費者に優良誤認を招く可能性があるため、原則的に表示が禁止されています。
「特別栽培農産物」に該当しない農産物でも、曖昧な表示を行うことは推奨しておらず、農産物の品質と表示内容が大きく異なる場合や、実際のものより著しく優良又は有利であると誤認させたり、品質を誤認させるような場合は、JAS法により指示・公表等の対応が行われます。
農薬の使用を控えた農作物の現在の名称は?
現在は農薬の使用を控えた作物を「特別栽培農産物」という名称に統一しています。農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」によれば「特別栽培農産物」の定義は以下の通りとなります。
農産物が生産された地域の慣行レベルに比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下
減農薬だけでなく、化学肥料の使用も控える必要があるということになっています。「節減対象農薬」とは「有機表示のできる農薬」以外のいわゆる「普通の農薬」のことを言います。有機表示可能な農薬のみを使用した場合など「節減対象農薬」を使用しなかった場合の表示は「節減対象農薬:栽培期間中不使用」になります。消費者からするとわかりにくい表示ですが、いかに完全な無農薬栽培が困難か、うかがい知る事ができる制度です。私たち消費者は、やみくもに「農薬は良くない」という認識を持つのではなく、一定の農薬の使用によって、安定した農作物の供給がもたらされていることを理解する必要があります。
「特別栽培農産物」の表示方法は?
その農産物が「特別栽培農産物」に適合する場合には「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」の規定に従って、減農薬の対象となる「節減対象農薬」をどのように節減したかを表示することが求められます。なお、「特別栽培農産物」では同時に化学肥料の窒素成分も50%以上節減する必要があります。表示の項目はガイドラインで以下の様な項目が決められています。
ア 特別栽培農産物の名称
「特別栽培農産物」または「特別栽培〇○(○○とは農産物の一般的名称、例:特別栽培レタス)」等の表示
イ ガイドラインに準拠している旨
「農薬:栽培期間中不使用」「節減対象農薬:○○地域比〇割減」「化学肥料(窒素成分):当地比〇割減」等の表示
ウ 栽培責任者の氏名または名称、住所及び連絡先
等です。また節減対象農薬又は窒素成分を含む化学肥料を使用した特別栽培農産物では、その節減割合の表示も必要になります。
イメージではなく実情を見ることで選ぶ物差しにする
「有機農業」には「環境への負荷を出来る限り低減する」という意味も含まれています。消費者が「なんとなく、体に良さそうだから」といったイメージだけで選択を行うと「有機栽培」が持つ本来の必要性ではなく、単なる付加価値の言葉として使われ、その結果、実際に手に入るのは「なんとなく安心できる」という実体のない満足だけということになりかねません。消費者が言葉の意味を理解して正しい選択ができる目を持つ事で、正しい安心を手に入れられるものさしになります。