農林水産省により農林漁業の6次産業化が推進されていますが、成功事例はほんのひと握りだと言われています。なぜ、6次産業化を成功させるのは難しいのでしょうか。また、6次産業化を成功させるにはどうすればよいのでしょうか。
事業計画から商品企画、販売、さらに収益化まで、6次産業化の実現をトータルで支援している株式会社MISO SOUP(ミソスープ)の代表取締役・北川智博(きたがわともひろ)さんに、これまで支援したさまざまな実例を交えながらレクチャーしていただきました。
6次産業化がうまくいかないのは、商品化をゴールにしているから
「6次産業化がうまくいかないケースのほとんどは、商品を作ってそこで終わってしまうということです。6次産業化は単なる商品作りではなく、ビジネスなので、収益化して持続的に事業を回していく必要があります。“事業プランを創って、商品を作って、お客様に売って、プロセスを回す”ことまで考えなければなりません」
6次産業を実現するためには、さまざまな専門知識や技術が必要となります。商品の企画や事業計画を立てることから始まり、実際に商品を作ること、完成した商品を販売すること、そして、事業を継続的に運用することなどです。そのため、6次産業化をサポートするこれまでのサービスというと、それぞれのプロセスにおける専門家に仕事が細分化されていました。
生産者が、必要な場面に応じて適切な専門家の力を借りることができればいいのですが、ビジネスの経験がないと難しいと言わざるを得ません。そのため、6次産業化に必要となる一連のプロセスをトータルで支援できないと事業は成り立たないのです。
そこで、北川さんは株式会社MISO SOUPを設立し、事業プランを作るところから収益化まで、6次産業化をトータルで支援するサービス「6つく(ろくつく)」の提供をスタートさせました。
成功の秘訣1:生産者自身で事業を回せるようにハンズオン型支援を実施
「私たちは、生産者自身で事業を回していくことを最終的な目標にしています。外から提案するだけのコンサルティングではなく、プロジェクトに深く入り込むハンズオン型の支援を行っています」
例えば、MISO SOUPでは、魚の養殖を行っている水産会社の6次産業化をサポートしました。以前は、業者向けの販売しか行っていませんでしたが、こだわりの品質を広く一般の方々にも知ってもらいたい、というところからスタートし、『THE 美 SABA』というサバの加工品を作りました。
このプロジェクトではまず、どの魚種を使って、どんな商品を作ろうかという話から始まりました。ターゲットを定めて、販売戦略を立て、パッケージも決めなければなりません。価格設定も重要です。
サバの加工品を作るとしたら、生なら〆サバ、煮るなら味噌煮、洋風ならアヒージョなどと、さまざまな選択肢を提示しながら、水産会社の人たちと一緒にブレストを重ねました。「購入した人がすぐ食べられるほうがいい」「サバはDHAが豊富だからアンチエイジングにいい」「だったら40代後半くらいの女性がターゲットになるのでは?」というように、一つ一つアイディアを出しながら決めていったそうです。
こうして、40代後半の富裕層の女性をターゲットにした商品『THE 美 SABA』の構想が生まれました。その日に獲れたサバを小さな骨まで1本1本処理し加工調理した商品を真空パックにして、温めるだけで簡単に美味しく食べられる商品です。
成功の秘訣2:マーケティングリサーチを行い、実現・持続できる事業計画を検討
よくある6次産業化支援なら、商品化までで終了です。しかし、MISO SOUPの支援はここからです。
商品の構想が定まってきたら、実際のターゲット層にモニターになってもらい、マーケティングリサーチを行います。加工作業も実際にやってみて、コストや所要時間なども割り出しています。もちろん、MISO SOUPも一緒に行います。
「ここまでやって、ようやく販売計画が立てられ、事業をどう運営するか、資金繰りをどうするかが見えてきます。当社では、この先までサポートすることをポリシーとしています」
実際に販売を開始しても、持続的に収益が得られるようになるまで、PDCAを一緒に回していき、事業の収益化及び持続化を目指しています。
「高清水養豚組合とは、『32℃豚』というブランドを一緒に立ち上げましたが、週に1回はテレビ会議で販売実績を見ながら販売計画を見直したり、事業がうまく軌道に乗るよう、打ち合わせをしています。プロジェクトにもよりますが、2年くらいで生産者自身で事業を回していけるようになればと思っています」。
成功の秘訣3:PDCAを繰り返して事業を少しずつ育てていく
「6次産業化というのはいわば、新規事業の立ち上げですからリスクはつき物です。だから、いつでも引き返せるように小さな規模から始めて、仮説検証しながら育てていくのが大事だと思っています」
前述した高清水養豚組合では、最初、ロース肉、肩ロース肉、バラ肉といった王道の「人気の3部位セット」と、ヒレ肉が入った「希少なヒレ入りセット」の2点のみの販売でした。少しずつリピーターが増え始めたある時期、急に2、3個まとめて買う人が増えたそうです。分析してみたところ、ゴールデンウィークのバーベキュー需要だということがわかりました。そこで、「ファミリー焼肉セット」など、大容量のセット商品の販売をはじめました。その後も、現在進行形で消費動向を分析しながら、ギフト用商品なども企画しているそうです。
「最初から商品のラインナップを豊富に揃えられるとよいのでしょうが、売れなければ廃棄や在庫となり事業リスクが大きくなります。だから、仮説検証を繰り返して、精度の高い仮説を見極めながら徐々に前進し、事業を大きくするようにしています」
成功の秘訣4:リスクは最小限に 補助金をあてにしない
MISO SOUPでは、最初から補助金をあてにするようなやり方はおすすめしていないそうです。何百万円、何千万円という補助金をもらって設備投資しても、決められた年数は申請した用途にしか使えない条件があったり、覚悟を持って中長期的目線で事業に取り組まないと、逆に事業の重荷になるリスクが高いといいます。
万一、事業が失敗したら何の役にも立ないどころか維持費がかさみ、パッケージや人件費など設備以外の初期費用も無駄になります。さらに補助金だけでは足りず、銀行に借入していたら借金が残ってしまうという悲惨な状況になることも。「もし補助金を使うとしたら、プロジェクトを立ち上げて一定の仮説検証を行なった上で、事業規模を拡大させられる見込みが出てきてから、補助金を利用する方が良い場合が多いのではないか」と北川さんは言います。
実際に、途中でやめた方がいいと判断したプロジェクトもいくつかあるそうです。事業を継続していくことに越したことはありませんが、一方で収益が望めない場合は早めに撤退し、損失を最小限に留めて再度事業性を見直すということも経営判断として重要です。
「6次産業化とは、ビジネス開発なんですよね。その考え方を、プロジェクトを通して1次産業の事業者の方々に共感してもらい、日本にビジネス開発ができる1次生産者の方がもっと増えていけばいいなと思います。地域の資源を活用し、持続可能な地域社会を切り開いていける。そんなキーパーソンが増えれば、地域や農業はさらに魅力的になると思うんです」
MISO SOUPのモットーは、“生産者をヒーローにすること”だといいます。ビジネス感覚を持ったヒーローが増えていけば、一次産業や地方はもっと元気になる。今回の取材で、北川さんはその可能性を示してくれました。
株式会社MISO SOUP
住所:東京都目黒区駒場1-28-5 ACCUMN408
https://www.misosoup.co.jp
写真提供:株式会社MISO SOUP