「この精米機だけは絶対に手放すな」

「隅田屋商店」代表の片山真一さん。五ツ星お米マイスターでもある
かつてお米は国が生産・流通・消費を管理する「食糧管理法(食管法)」のもとにありましたが、1995年に廃止されました。それからはお米流通の多様化が進み、米の販売競争が激化。これにともない、一度に大量精米ができる工業用精米機が開発されるようになりました。
「食管法が廃止される前は、お米屋はみんな“古式精米”でしたが、食管法廃止後は、生産効率が重視され、コンパクトかつ省電力で大量精米できる工業用精米機に切り替わっていきました。でも、うちの祖父は、祖父の父の代から引き継いだ昭和26年製の精米機を使い続けました。『この精米機だけは絶対に手放すな』というのが祖父の遺言です」(片山さん)
実は、この「古式精米」が、隅田屋商店のお米が黄みがかっている理由。工業用精米の一般的なお米は真っ白になるまで表皮を剥いてしまいますが、隅田屋商店は薄皮を残しているため、真っ白にはなりません。
「見た目重視でいくと、真っ白いほうが売れます」と片山さん。それでも古式精米にこだわるのは、祖父の遺言だからという理由だけではありません。片山さんには「古式精米で搗いたお米は香り高く味わい深い」という確信があるのです。

1905年創業の「隅田屋商店」
隅田屋商店では、1977年に店舗を建て替えました。施行中の2年間は、精米機を止め、精米を業者委託しました。すると、原料のお米は変えていないのに、業務用米の得意先から「隅田屋さん、味が悪くなっちゃったね」と驚かれたそうです。精米を変えるだけでここまで味わいに変化が生まれることに気づいた片山さんの父・松太郎さんは、新店舗になってからも古い精米機を使い続けることを決め、曾祖父から片山さんまで4代にわたって引き継がれています。