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フランス帰りの音楽ユニットが歌う“お米の曲”が泣ける!

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

フランス帰りの音楽ユニットが歌う“お米の曲”が泣ける!

全身ピンク色のコスプレが目をひく日本人ポップ音楽ユニット「レ・ロマネスク」が歌う「一粒の米」。2人の格好はふざけているように見えますが、哀調を帯びた旋律に涙ぐむ人さえいるそうです。2008年春夏パリコレでのライブをきっかけに世界12カ国50都市以上でライブするなど「フランスで最も有名な日本人」とも言われる彼らは、なぜこんなにも切なく日本のお米を歌いあげるのでしょうか?
(画像はYouTube「一粒の米」より)

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米があれば醤油(しょうゆ)も将来の展望もいらない

パリのエッフェル塔を背景に、奇抜なファッションの男女が、白いごはんが盛られた飯椀を手に歌う。そんなインパクト抜群の映像とともに流れてくるのは日本のお米への讃歌「一粒の米」。


「レ・ロマネスク」による「一粒の米」公式YouTube動画。TOBIさんとMIYAさんがパリのエッフェル塔を背景に歌う日本のお米への讃歌

きれいな水と/辺り一面の緑/オーガニック/土作りに3年/健康にもとても良い/鴨が害虫を食べる/いただきます/白いごはん

こんなセリフから始まる「一粒の米」は、なんとも切ない旋律。レ・ロマネスクのTOBI(トビー)さんによると、この歌を聴いた人の中には、「一方的でストレートな米への愛を、ラブソングと受け取って泣き出す人もいる」そうです。

エッフェル塔と一粒の米(YouTube「一粒の米」より)

味噌(みそ)汁も漬物も塩も醤油もいらない/いつまでも噛(か)んでいたいごはん粒
友だちも恋人も話し相手さえいらない/いつまでも噛んでいたいごはん粒
将来の展望も金も仕事もいらない/いつまでも噛んでいたいごはん粒

「フランス語版と日本語版があるのですが、フランス人がこの歌詞を聞くと『日本人は米がそんなに大事なものか』と驚くみたいですよ。フランス語版の歌詞では『土地も財産もいらない』と歌っています。一粒の米があれば……。冗談とか大げさとか思われるかもしれませんが、冗談ではないんですよ。一粒の米さえあれば、『将来の展望さえいらない』。まあ、大げさなんですけど。でも、それぐらい誇りを持っていいんだよということです」

ここまでTOBIさんが日本の米を絶賛するのは、なぜなのでしょうか。

人生をリセットするためにパリへ

TOBIさんは、大学卒業後に入社した会社が次々に倒産。「人生をリセットするため」に2000年に渡仏しました。パリ生活7日目に武装した銀行強盗に閉じ込められて拳銃を突きつけられるという事件が起こるなど、なかなかリセットボタンを押せずにいましたが、流れに身を任せるように「レ・ロマネスク」を結成。パリで音楽療法などを学んでいた日本人のMIYA(ミーヤ)さんと2人のユニットで活動を始めました。

「正装」のレ・ロマネスク(写真提供:レ・ロマネスク)

すると、パリのセレブの間でひそかなブームとなり、2008年春夏パリ・コレクション(パリコレ)でのライブをきっかけに世界12カ国50都市以上でライブすることに。そして、フランスのテレビ番組に出演して「ズンドコ節」を歌った動画がYouTubeのフランス国内再生回数1位、世界4位を記録するなど「フランスで最も有名な日本人」にまで上り詰めました。

2011年に日本国内最大級の野外ロック・フェスティバル「フジロックフェスティバル」の出演を機に日本に活動の拠点を移し、11年間のパリ生活に終止符を打ちました。その後も、NHK Eテレの番組のメインキャストに抜てきされ、マキシシングル3枚とアルバム1枚をリリース。カンボジアでデビューしたり、完全無音コンサートを開いたりと、他のアーティストとはひと味ちがう活動を展開しています。

「フランス語だからおしゃれ」に反発

「一粒の米」は、フランスから帰国してから日本で生まれましたが、最初につくった曲はフランス語版でした。きっかけは、「日本人のフランスに対する過大評価に対する反発心」(TOBIさん)だったと言います。

「正装」でなくても全身ピンク色のTOBIさん(撮影:奥野武範)

「日本に帰ってきてから、フランス帰りと言うと周囲からおしゃれおしゃれと言われて……フランスってそんなにおしゃれじゃないだろう!とだんだん腹が立ってきて……(笑)」とTOBIさん。「日本では『フランス語だと何でもおしゃれ』みたいに思われがち。たとえば同じチョコパンでも『チョコレートパン』だと120円だけど、『パン・オ・ショコラ』だと240円みたいな差がありますよね」

その一つが、ある企業CMのサウンドロゴ。企業名の後に、ささやくような男性の声で「イロッフル・サ・コンフェアンス・エ・ソナムール」というフレーズが流れます。

「日本語で言うと『愛と信頼をお届けする』という意味なんですよ。それをフランス語で言っただけで急におしゃれな感じになる。そんなふうに、米について、いかにももったいぶって歌う歌を作りたいなと思って。フランスでは『日本人=米』というイメージが定着していますが、日本では『パン』や『クロワッサン』がおしゃれと言われる。だから最初にフランス語で日本の米のすばらしさを歌って、その後に『おしゃれだったでしょう? 実はなんて歌っていたかを日本語にすると……』というふうに日本語で歌いたいと思って作りました」(TOBIさん)

フランスでの米食生活を経て

「一粒の米」が「レ・ロマネスク初のラブバラード」(TOBIさん)として聴く者の胸に切なく響くのは、フランスでの11年間の米食生活があったからこそ。日本を離れ、日本のお米から離れたからこそ、見えてきたものがあるとTOBIさんは言います。

TOBIさんは、「米を食わない人生なんて…」と言うほどのお米好き。食が細かった子どものころは、お米だけ食べていたこともあったそうで、お米の食べ方にもこだわりがあります。

「ごはんの上におかずを乗せて、そのおかずが温まるのがいやなのです。おかずはごはんの上ではなく別の場所で温まってほしい。ぬか漬が温まるのもいやですし、納豆がごはんの上で温まってしまうのもいまいち。基本的に冷や飯が好きなんです。卵かけごはんも納豆ごはんも好きなんですけど、冷や飯で食べたい。うな重も本当は冷や飯で食べたい。温かいごはんは温かいごはんだけで食べたいのです」。炊飯器はごはんを炊くためだけに使い、保温機能は使わない。「ごはんを保温すると本来のものではなくなってしまう」という筋金入りの“米グルメ”です。

“米グルメ” TOBIさん(撮影:奥野武範)

そんなTOBIさんは2000年の渡仏の際、成田空港で5合炊きの炊飯器を抱えていました。「炊飯器は荷物と一緒に送りませんでした。出発直前まで使うじゃないですか。だから抱えて行ったんです」。ところが、海外で炊飯器を使うための変圧器は10キロ以上。機内に持ち込める荷物の重量制限は15キロ。ほとんど変圧器と炊飯器だけを持ってフランスへ飛び立ちました。

そこまで苦労して炊飯器を持参しましたが、フランスでの米食生活はイタリア米が基本で、その味わいは日本の米とは似て非なるものだったと言います。「リゾットに使う大粒の米は高いのですが、安いイタリア米は丸くて、ねちょっとしていて、日本の米に若干似ていました。5分の1ほどは割れてくず米になっていましたが、目をつぶって食べれば……いや、目を開けていろいろなものを見ながら気を散らしながら食べれば大丈夫でした」(TOBIさん)。次第にイタリア米に慣れていったものの、日本に帰国すると日本の米のおいしさをより実感したと言います。

世界をめぐって日本の米を見直す

TOBIさんはフランスに11年間滞在していたからこそ、日本のお米を客観的に見ることができる立場にいます。

「日本とフランスでは水が違うんです。日本の軟水に比べてフランスは硬水。硬水ではおいしく炊けませんが、スーパーで軟水を買って炊いてもどうも日本のごはんと違う。日本の米をフランスに持ち込んで炊いても違うんです」とTOBIさん。「一粒の米」のYouTubeではエッフェル塔の前で白ごはんを食べていますが、「ああいう状態では食べられません。具を混ぜたり炊き込んだりしないと……。ごはんはほとんど水分で、ごはんを食べることは水を飲むようなものですから、日本は水がおいしい国なんだと思います」

エッフェル塔とごはん(YouTube「一粒の米」より)

現代の日本では米はあって当たり前の存在になりがち。日本の米しか食べていないと、なかなかその良さには気づけないものなのかもしれません。

農林水産省によると、日本では1人あたりの年間お米消費量は今から56年前の1962年度の約118キロをピークに減少し続け、2016年度は約54キロ。お米は60キロで1俵のため、私たちは1年に1俵もお米を食べていないことになります。
近年では主食用のお米の消費量は全国ベースで毎年約8万トン減少。総務省の家計調査によると、1世帯辺りの年間消費額は、ちょうどTOBIさんが帰国した2011年にパンがお米を上回りました。

「歌詞は、たぶん間違った日本人像をフランス人たちに植え付けていますよね。でも、世界をぐるっと回ってきて、もう一度日本の米を見たら、やはり日本の米っておいしいんです。だから、それをただ絶賛して歌っています」

ごはんを手にパリの街なかを移動するレ・ロマネスク(YouTube「一粒の米」より)

ああこの粘り気
炊きたてはもちろんおいしい/冷えてからもおいしい

古米より新米を好むのも、パサパサより粘り気を好むのも、白ごはんだけでおいしく食べられるのも、日本人ならではの嗜好(しこう)や感性があるからこそ。「一粒の米」の歌詞を噛みしめ、ごはんを噛みしめると、日本人にとっての日本の米の価値に気づき、日本の米の魅力を改めて見直すことができそうです。

「レ・ロマネスク」公式YouTubeチャンネル
「レ・ロマネスク」公式ホームページ

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