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小規模田んぼにうってつけ この春、クレソンを「びりこみ」ませんか?

小規模田んぼにうってつけ この春、クレソンを「びりこみ」ませんか?

わが家には、妻の祖父がかつてつくっていた遊休田がある。祖父が亡くなってからしばらく放ったらかしだったので、イノシシにアゼを壊されてしまい復旧するには骨が折れる。かといって、常に水がにじむような湿田なので畑にするのも難しい。ここを上手に使えば「1カ月3万円」の夢が近づくんだけど……。そんな悩みを和歌山県田辺市龍神村の友人に話すと「うちの近くに田んぼでクレソンをつくっている人がいる」と教えてくれた。
(画像は自慢のクレソンと田ノ岡さん。写真右の方の青々としたところがクレソン畑)

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小さな棚田いっぱいのクレソン

友人に紹介してもらったクレソンの人・田ノ岡博(たのおか・ひろし)さんの田んぼは、1枚が30平方メートルほどの小さなものだった。小さな田んぼがいくつか連なり、小さな棚田となっている。
「沼みたいなところでしょ」と田ノ岡さんが言う。一番上の田んぼからくる湧き水が下の田んぼへと流れ込み、土はじゅくじゅく。
水が豊富なところではあるが、いまどきこれだけ狭い田んぼで田植えをする人も少ないようで、ススキやカヤが生えて、やや寂しい秋の景色となっている。その中で、田ノ岡さんの青々とした田んぼがよく目立つ。
「これ、全部クレソンなんですよ」。遠目には雑草のようにも見えるが、ちぎって食べてみると、ピリッとした辛味と、桃のようなほのかな甘み。確かにクレソンだ。

クレソンで埋め尽くされた田んぼは、11月中旬でもまだ青々としている

超簡単! 「びりこむ」だけでどんどん殖える

クレソン、別名は「オランダガラシ」。ほのかに辛味のあるアブラナ科の多年草。ダイコンやハクサイの仲間だが、このような湿地を好む。私の近くでも、せせらぎに野生のものが生えているのをよくみる。ただ、これだけの量を殖やすのは時間がかかりそう。
「簡単ですよ。びりこむだけで殖えますから」
うん? 「びりこむ」ってなんだ?
「方言なんかな。こうするんですよ」。田ノ岡さんは生えているクレソンをブチっとちぎり、まだクレソンに埋め尽くされていない、少し土が見える部分に放り投げた。

田んぼにクレソンをびりこむ

なんと、これがクレソンの「定植」なんだという。
クレソンは地面に接した茎から根っこを出す。根が土に食い込んで活着して成長すると今度はその株が親となり、周りに子株を殖やしてはびこっていく。わざわざ土の中に植え込む必要はなく、アゼからひょいと投げるだけでいいわけだ。
お恥ずかしい話、泥の中にクレソンを植えていくのはちょっとイヤだなーと思っていた私。これなら簡単。やれそうだ。

茎から根が出たものを、田んぼの緑が薄い部分に放り投げると自然に殖える

時期はいつでもいいそうだ。多年草なので、ちぎった株もすぐに再生するし、一度植えれば翌年も同じ株からとれる。
この田んぼのクレソンも、そのへんに自生していたものを殖やしたそう。タネ代もかからないというわけだ。

※ クレソン(オランダガラシ)は、環境省により「生態系被害防止外来種」の重点対策外来種に指定されています。栽培の際には、敷地外に漏れ出ることのないよう適切な管理を行ってください。

無肥料・無農薬でも生育旺盛

生育旺盛で丈夫なクレソン。田んぼをアゼシートか何かで囲って水漏れを防ぐことに気をつけつつ、隙間(すきま)から生えてくる雑草を抜くくらいで立派に育つ。田ノ岡さんは肥料もやらないし、農薬もかけない。低コストでもある。
収穫は春と秋の2回。春は3月中旬から始まる。青物がない時期でもあるのか、直売所に出すと毎回売り切れるほどの人気ぶり。
5月中旬には白い小さな花が咲き始めるとチョウがやってきて、幼虫に葉を食べられ始めたら収穫をいったんストップ。9月中旬になったら再生してくるので、わき芽が収穫できるくらいの大きさ(約25センチ)になったら、クレソンが寒さで紅葉する11月末まで収穫を続ける。

田ノ岡さんの青々としたクレソン。茎元を濡らしたキッチンペーパーで覆えば、シャンとした姿のまま届く(写真提供:大阪府吹田市・FARMAN KITCHEN MARKET)

徹底した鮮度保持こそ、付加価値

調整や梱包には手間をかける。水が大好きなクレソンは乾かすとすぐにへたってしまう。品質を保つのが難しいのだ。
田ノ岡さんは、束にしたクレソンの茎元を濡らしたキッチンペーパーで覆い、それらをコップ5杯ほどの水を入れたナイロン袋に入れて、しっかりと保湿した状態で先方に届ける。
「荷造りするのになかなか時間がかかるんですが、きれいな荷姿にすることで付加価値がついてるんだと思うんです。嫁からは売るところがあるならもっと増やせばいいのにと言われます。だけど、品質を保つにはこれくらいの面積が手一杯」(田ノ岡さん)
マイペースにクレソン栽培を楽しむ田ノ岡さん。クレソンから見えてきた「沼のような田んぼ」の、おもしろい、しかも稼げる使い方を、またいろいろと考えているそうだ。

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