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縁もゆかりも無い土地で、女性一人で新規就農!? イロイロ聞いてみました!

千田 一徳

ライター:

縁もゆかりも無い土地で、女性一人で新規就農!? イロイロ聞いてみました!

静岡県伊豆の国市地域おこし協力隊、農家志し中のちだです。農家に興味はあるけれど、なるためにどうしたらよいのかわからない。高額な施設や機械を購入するほどの資金が無い。そもそも暮らしていけるのかが不安。こんなお悩み、あるのではないでしょうか。僕は、あります。そこで今回は縁もゆかりも無い地域で、女性一人で、20代という若さで、そして小資本で就農した農家さんを取材しました!

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非農家出身の女性が一人で新規就農!? 平松農園さんとは。

今回取材したのは宮城県仙台市の平松農園。農園主は平松希望(ひらまつ・のぞみ)さんです。

富山県出身の27歳。東北大学卒業後に2年の研修を経て新規就農。

圃場(ほじょう)は4カ所で計62アール。露地栽培をほぼ一人で営農。

主な栽培品目

  • ネギ
  • 枝豆
  • とうもろこし
  • キャベツ
  • ブロッコリー 他

時期、品種をずらして一人で作業できるよう工夫をしています。

出荷先

  • 八百屋さん2店舗
  • 仲卸への契約出荷
  • 直売所数店舗

ちだ

3年目でかつ一人でこの状態ってとっても軌道に乗っている!!
気になるお金のことや、ここまでこられた秘訣(ひけつ)を聞いてみました!!

農業を始めるきっかけは? そして気になる農地の確保の方法は??

平松さんの農地の一部。手前はカリフラワーとブロッコリー。

きっかけは震災ボランティア

富山県から大学進学を機に仙台へ来た平松さんは、現在就農している仙台市若林区荒浜・荒井地区で東日本大震災のボランティアとして4年間活動したそうです。

農業経済学で持続的な農業経営の方法や新規就農者の定着などを学んでいたこともあり、地域の農家の農業復興、再興への思いに共感を覚えたそう。

そして、自らが実践して新規就農者が定着するためのモデルケースになりたいという思いを強めたそうです。

ちだ

でも、でも、新卒でいきなり新規就農ってめちゃめちゃ不安じゃないですか!?
正直、躊躇(ちゅうちょ)していた部分はありました。ですが、県外から災害ボランティアで来られた方々の中に若手の農家さんたちがいらっしゃったんです。
そういった方々と話をすると、大丈夫!やってみなよ!!と背中を押してくださって。

お金も機械も作業場も何も無いけど、という不安はありましたが最後はまずやってみよう!という気持ちになれました。

平松さん

農地の確保は信頼関係から

津波の被害を受けた農地は、石なども転がっている砂地で、保肥力も弱いそう。

新規就農者にとって最初の課題は農地の確保です。
平松さんは4年間のボランティア活動を通して、地域の方ともなじみがあり区長さんなどに相談して紹介してもらえたとのこと。

でも、それにプラスしてもうひとつ大事なことがあったそうです。

2年間の研修期間のうち、最後の1年はこの地域の農家さんで研修していたんです。
それで地域の方から「あそこの農家さんのところで研修していたんだから大丈夫だろう」とご紹介いただいたこともありました。

平松さん

ちだ

外部の人間が農地を借りるのはハードルが高いですが、地元の方から信頼されている方の協力があると話もスムーズになるんですね。

ぶっちゃけ気になるお金のアレコレ

100万円でのスタート。その使い道は?

全国新規就農相談センターが、全国の新規就農者を対象に行った「2016年度新規就農者の就農実態調査」によると、新規就農者が用意した自己資金は、土地取得代を除いて平均569万円でした。

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しかし、平松さんが用意したのは100万円(生活費は別)だけだったそうです。

どのように使ったのか、聞いてみました。

初年度に使ったのは50万くらいです。作業場がなかったので作業場用のビニールハウスを建てました。
これが一番大きな支出です。

後は、2年目に入って耕運機や草刈機などを少しずつそろえました。

平松さん

ちだ

種や苗、肥料に消毒とお金がいろいろかかるので、確かに機械にはそこまでお金を回せないですよね。
お金が無いなら、無いなりの農業をしなければならないんですよね。
なので、1年目はトラクターは借りました。
地元の農家さんや新規就農の定着を支援するNPOなどからです。

平松さん

ちだ

なるほど、無いものは借りる、ですね。
また、不要になったけどまだ使える機械は安価で譲っていただいたり、近くの新規就農者とトラクターを共同購入もしました。

平松さん

ちだ

そういった工夫を重ねて、少ない資本でも上手にやりくりされているんですね。勉強になります!

共同購入したトラクター。

新規就農3年目、売り上げは?

1年に2回とれるキャベツは、現在の主力商品の一つだそう。

ちだ

ここが一番、超絶、半端なく気になるところなんですが。
売り上げって、いくらくらいになるもんですか?
答えにくかったらいいので……
2年目の去年は250万円くらいですね。
3年目の今年は、台風の影響があってかなり野菜もやられたんですが300万円くらいに落ち着くと思います。

平松さん

ちだ

(サラッと答えてもらったー)
経費を引く前の売り上げ、ですよね?
そうですね。正直、生活するにはきついですね。未婚で子どももいないのでまだやれていますが。

平松さん

投下資本が少ないと、リターンも少ない?

100万円なら用意できるかも!? これなら無理なく農業が始められる!
と思いきや、投下資本を少なくすることでのデメリットも感じているそうです。

投下資本が小さいと、リターンも小さくなります。
露地栽培でかつ機械を含む労働力も限られるので、天候には左右されるし生産量販売量どちらにも限界があります。

平松さん

新規就農の給付金は使わずに取っておく?

ちだ

新規就農の給付金(※)は使われてるんですよね?

※ 新規就農時には農業次世代人材投資資金として「準備型(最長2年間)」「経営開始型(最長5年間)」の2種類の給付金が受け取れる。それぞれ年額最大150万円。

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給付金は受け取ってはいますが、できるだけ使わないようにしています。

平松さん

ちだ

え? なんでですか?
元々、2年間の研修時に準備型の給付金をいただいたんです。

平松さん

ちだ

はい。年間150万円ですね。
で、いざ就農しようとしたら経営開始型の給付金が下りなかったんです。

平松さん

ちだ

へ?
準備型を受けて準備したのに?
というのも、私が開始型の給付金を受けるタイミングで規制が厳しくなったんです。

平松さん

ちだ

えー! じゃあ、結局給付金なしで就農したんですか?
はい。ただ、給付金の窓口の担当者が異動で変わった後に改めて給付金の支給について関係各所が検討してくださったんです。
その結果、受けられるようにはなりました。

平松さん

ちだ

でも、ほとんど使っていないんですか?
給付金支給のために面接があったんです。そこで、本当にやっていけるのか、ダメだったら給付金を返してもらうけどどうやって返すんだ、なんて結構強く聞かれまして。

「親に借りてでも返します!」と言って、給付していただくことにはなったんですが、天候に左右されるものですから計画通りに進まずに返還!となってもいいように、なるべく手をつけていません。

平松さん

ちだ

それは、厳しいですね……。

非農家出身で一人で農業! 仕事はどれくらい忙しいの?

62アールを一人で耕作している平松さんは、作業場に電気が無いということもあり、おおむね太陽が出ている間に働くというスケジュールだそうです。

夏は忙しいタイミングだと朝の3時から日没まで動くこともあります。
そんな時は2時間昼寝しますけど(笑)

平松さん

一方、お休みは、というと週に1回
夏場の忙しいタイミングでも、例えば一週間に午後のお休みを2回取るなどしてトータルで週に1日はお休みを作っているそうです。

ですが、それだと正直作業は回らないそう。

無理をすると自分が壊れちゃいますから。
長く続けるために、意識して休んでます。

また、仙台市には、農業サポーター制度があります。
あらかじめ手伝ってほしい作業内容と日時と人数を申請するとヘルパーさんを派遣してくれるんです。

平松さん

ちだ

酪農ヘルパー的な制度があるとは!
地域によってあるみたいなので、一人農家さんは要チェックですね!
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非農家出身で新規就農するときに気をつけたいこと

ちだ

非農家出身でかつ縁もゆかりも無いところで就農するときにここは気をつけよう、ということってありますか?
研修先がとても大事だと思います。
私も、2年目の研修先の農家さんの存在があるから周囲の方々にご協力をいただけている部分がすごく大きいです。

平松さん

ちだ

縁もゆかりも無い地域で就農するのであれば、地元の方の協力は不可欠なんですね。
そうですね。協力は本当に大事です。
あと、私とほぼ同期で、この土地で新規就農した方がいます。
その方は災害ボランティアなどの経験はなく、まさに縁もゆかりも無いこの地域で就農されました。

平松さん

ちだ

その方はどうやって地元の方の協力をいただいているんですか?
研修先が、地元の大きな農業法人だったんです。
独立後はその法人の販売先を紹介してもらっていたり、機械などの融通もしてもらっているようです。

平松さん

ちだ

そう聞くと、独立後の影響も含めて研修先は確かに大事ですね。

新規就農を希望する人がいい研修先や地域に巡り合うためにできることはあるでしょうか。
同じく非農家出身で新規就農している方に話を聞くというのがいいかもしれません。

宮城県には非農家出身の新規就農者のネットワークがあるので、そういったものを活用するといいですね。

平松さん

今はFacebookやTwitterなどで情報発信している人も多いので、自分が就農したいエリアで先に就農している人に実情を聞くのは以前よりも簡単です。
細かな実情等、行政側が把握していないこともたくさんあるので、この一手間はぜひかけたいところです。

新規就農して2年。販路を確保するために大切にしていること

就農してから心配になるのは販売先の確保。
平松さんは特に販売先獲得のための営業などをしていないそうです。

じゃあどうやって確保したのか、それには平松さんが考えるコンセプトと強みが関係していました。

平松農園のコンセプトは「土づくり」「ものづくり」「人づくり」です。
最終的なイメージは、この地域で将来的に余る可能性のある田んぼを畑に変えて、地域全体で持続可能な農業を営む、というものです。

そこで意識した強みは、鮮度です。

ここは仙台中心部にほど近いエリアなので、販売先には朝どれの野菜を出荷することができます。

平松さん

いただいた野菜! どれもみずみずしさが、新鮮さを物語ります。

ちだ

確かに、仙台駅まで車で20分ほどですもんね。
就農して3年目ということもあり、形や味は他の農家さんにかなわない部分もあります。
でも、とにかく鮮度がいいものを届けます。
このコンセプトと、生かしたい強みを意識すると自分が何を作るべきか、何をするべきかが見えてきます。

平松さん

ちだ

すごくわかります。
観光農園もいいな、レストランも、直販も、でも毎日スーパーにもおろして。
って最初のうちは夢が広がりますけど、一つ軸を持った方が作業もしやすいし計画も立てやすいです。
将来的なビジョンを持ちつつ、まずは手の届く範囲をしっかりとブレずにやり続けることが大事なのかなと日々感じます。

平松さん

できる範囲で、持続可能な農業を

お金が無いなら、無いなりの農業をする

無理をしすぎず、持続可能な農業をする

という平松さんのやり方は、本人の努力や周囲の人の協力があってのこととはいえ、非常に魅力的でした。

新規就農と言えば、ハウスを作って!ITを導入して!と数千万円の投資が必要になるという話が多く聞かれます。

しかし、耕作放棄地が増加し、農業従事者が減少している昨今では、小資本で小さく農業をする人の存在意義は大きくなるのではないでしょうか。

平松さんは今後消費者と農業をつなぐ食育事業や、出身である東北大学農学部からの就農者を増やすための食農教育事業も展開予定とのこと。

地域コミュニティーを構築・維持し、次世代に農業をつないでいく、平松さんのこれからの活躍が楽しみです。

平松農園 Twitter

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